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波の反射と屈折と回折〜ホイヘンスの原理と屈折の法則

波が境界や障害物に出会うと、反射・屈折・回折の 3 つが起きます。別々の現象に見えて、もとは 1 つの原理から出てくる。

その原理がホイヘンスの原理です。波面の各点が新しい波源になる、という一文だけで、3 つとも説明がつく。

以下では原理の中身と作図の手順から始めて、反射の法則と屈折の法則を導き、振動数が保たれる理由、回折が目立つ条件までを扱います。計算例には、屈折角を出す手順と、回折が起きるかどうかを見積もる手順を置いた。

ホイヘンスの原理

ある瞬間の波面を考えます。この波面上のどの点も、そこから新しい波を出す点波源とみなせる。

この新しい波を素元波といいます。素元波は波源から等方的に広がる小さな球面波で、速さはもとの波と同じ。

少しあとの波面は、すべての素元波に接する面。この面を包絡面といい、これが次の瞬間の波面になります。

ドイツ語版 Wikipedia のホイヘンスの原理の項目も、新しい波面を素元波の外側の包絡面として定義しています。

後ろ向きに広がる素元波もあるはずですが、実際には打ち消し合って残らない。前向きの成分だけが波の進行として残ります。

素元波で次の波面を描く

作図の手順は 2 段階です。まず今の波面の上に点をいくつかとり、それぞれを中心に半径 の円を描く。

次に、その円すべてに接する線を引く。これが時間 だけあとの波面になります。

図の赤い円が素元波で、青い線が波面です。平面波の包絡面は平面、球面波の包絡面は球面になる。

もとの形がそのまま保たれるので、原理は何も新しいことを言っていないように見える。効いてくるのは、波面の一部が欠けたり、速さが場所で変わったりしたとき。

反射の法則

境界に当たった波は跳ね返ります。入射線と法線のなす角を入射角、反射線と法線のなす角を反射角という。

この 2 つの角は必ず等しくなる。入射線と反射線と法線は、同じ平面の上に乗る。

波面の言葉で言えば、境界に斜めに当たった波面が、向きを変えて戻っていくということ。

ホイヘンスの原理からも導けます。斜めに近づく波面のうち、先に境界へ着いた端から素元波が広がり始める。

反対の端が境界に着くまでの時間を とすると、先に着いた端の素元波は半径 まで広がっている。この円に接する線が反射波の波面。

このとき 2 つの直角三角形は、斜辺を共有し、対応する辺の長さも で等しくなる。合同なので、入射角と反射角も等しい。

屈折

境界の向こうで速さが変わる場合、波は向きを変えて進む。この現象が屈折。

理由は波面の片端が先に新しい媒質へ入るからです。そこだけ速さが変わるので、波面が折れ曲がる。

行進する隊列で片側だけ歩幅が縮むと、隊列全体が向きを変える。屈折で起きているのも同じことです。

図では境界の上下で線の間隔が違います。下の媒質のほうが間隔が狭く、波長が短くなっている。

同時に波面の傾きも変わり、進む向きが法線に近づいた。速さが落ちると、波はより法線側へ寄ります。

屈折の法則

入射角 と屈折角 のあいだには、決まった関係が成り立ちます。

3 つの比がすべて等しいところが要点。角度の比ではなく正弦の比である点も、見落としやすいところです。

英語版 Wikipedia の屈折の法則の項目も、正弦の比が速さの比とも波長の比とも一致すると書いています。

導出はホイヘンスの原理からできる。波面の一端が境界に着いてから、他端が着くまでの時間を とします。

そのあいだに、媒質 1 側の端は境界に沿って進み、媒質 2 側では素元波が半径 まで広がる。2 つの直角三角形が同じ斜辺を共有する。

辺々を割れば と が消え、法則の形が残る。作図だけで出てくる関係です。

振動数は変わらず、波長と速さが変わる

境界を越えるとき、振動数は変わりません。1 秒間に境界へ届いた波の数と、向こうへ出ていく波の数が違ったら、境界に波がたまってしまう。

したがって は共通で、 から速さと波長が同じ割合で変わる。速さが半分になれば波長も半分。

屈折の法則に波長の比が出てくるのは、この事情によるもの。振動数が共通だから、速さの比と波長の比が一致する。

波が媒質 1 から媒質 2 へ入り、速さが半分になりました。振動数と波長はどうなりますか。

  • 振動数が半分になり、波長は変わらない
  • 振動数は変わらず、波長が半分になる
  • 振動数も波長も半分になる
  • 振動数は変わらず、波長は 2 倍になる
__RESULT__

境界で波の数が増減しないので、振動数は保たれます。 で が共通なら、速さと波長は同じ割合で変わります。

色が変わらないのに水中で光の進み方が変わるのも、これと同じ理由です。色を決めるのは振動数のほう。

遅い媒質へ入ると法線側へ曲がる

のとき、屈折の法則から となる。角度が から 度の範囲なら、正弦の大小はそのまま角度の大小。

つまり遅い媒質へ入ると、進む向きは法線に近づく。逆に速い媒質へ出れば、法線から離れます。

遅い媒質へ入る

のとき になり、進む向きは法線に近づく。波長も短くなる

速い媒質へ出る

のとき になり、進む向きは法線から離れる。波長も長くなる

どちらへ曲がるかを暗記する必要はありません。遅いほうへ寄っていく、と覚えておけば作図でも確かめられる。

相対屈折率

速さの比そのものに名前がついています。媒質 1 に対する媒質 2 の相対屈折率を と書く。

なら媒質 2 のほうが遅く、波は法線側へ曲がる。 ならその逆。

添字の順番に気をつけると混乱しません。 は媒質 1 から媒質 2 へ入るときの値で、逆向きなら逆数になる。

水面波の屈折

水面の波は、水深が浅いほど遅くなります。この性質のおかげで、屈折を目で見られる。

斜めに岸へ近づく波を考えます。岸に近い側が先に浅い場所へ入って遅くなり、沖側だけが速いまま進む。

その結果、波面は向きを変えて岸線に平行な向きへ寄っていく。どの方向から来た波も、最後は岸に正面から打ち寄せる。

沖から斜めに波が近づく

岸に近い側が浅い水に入って遅くなる

波面が向きを変える

岸線に平行になって打ち寄せる

浅い場所を意図的に作れば、波の向きを操れます。防波堤の設計は、この屈折を計算に入れたもの。

回折

隙間や障害物の縁を通った波は、その先で広がる。まっすぐ進むだけなら影ができるはずのところにも、波が回り込む。

これを回折といいます。英語版 Wikipedia の回折の項目は、障害物や開口によって直進からずれる現象と定義している。

ホイヘンスの原理で見れば当たり前の話です。隙間を通った波面の各点が素元波を出すので、素元波は隙間の正面以外へも広がる。

隙間が広ければ、素元波の大部分は互いに打ち消し合って、正面向きの平面波だけが残ります。隙間が狭いと打ち消す相手がいなくなり、広がりがそのまま残る。

図の左は隙間が広い場合で、波はほぼまっすぐ進みます。縁のあたりだけ、わずかに回り込んでいる。

右は隙間が波長と同じくらいの場合。隙間そのものが 1 つの点波源のようにふるまい、波は大きく広がる。

回折が目立つ条件

回折が目立つかどうかは、隙間の幅 と波長 の比で決まります。 が と同程度か、それより大きいときに顕著になる。

逆に が よりずっと大きければ、波はほぼ直進する。影の縁がぼやける程度で終わる。

障害物の場合も同じ比で決まる。障害物の大きさが波長と同程度なら、その裏側まで波が回り込む。

よく回り込む

隙間や障害物の大きさが波長と同程度か、それより小さいとき。波は広く広がる

ほとんど回り込まない

隙間や障害物が波長よりずっと大きいとき。波はほぼ直進し、はっきりした影ができる

条件が大きさの比だけで決まるところが便利です。波の種類によらず、同じ判定が使える。

音は角を曲がり、光は曲がらないように見える理由

姿が見えない相手の声は聞こえる。同じ壁を光は回り込まないのに、音だけが届く。

差は波長にあります。ふつうの会話の音は波長が数十 cm から数 m で、ドアや壁の幅と同程度。

可視光の波長は nm から nm ほどです。ドアの幅と比べれば 万分の 1 の桁で、回折はほとんど起きない。

光でも隙間を波長の大きさまで狭めれば、はっきりと広がる。光が波であることを示す実験は、どれもこの原理を使ったものです。

波長 m の音が、幅 m の隙間と、幅 m の門を通ります。回折がよく目立つのはどちらですか。

  • 幅 m の門
  • 幅 m の隙間
  • どちらも同じくらい
  • どちらでも回折は起きない
__RESULT__

隙間の幅が波長と同程度のときに回折が目立ちます。 m の門では波長の 16 倍あり、波はほぼ直進します。

判定に使うのは比だけ。幅と波長のどちらが大きいかを見れば、計算せずに見当がつく。

計算例:屈折角から相対屈折率と速さを出す

媒質 1 から媒質 2 へ波が入り、入射角 、屈折角 が観測されました。相対屈折率と、媒質 2 での速さを求めます。ただし媒質 1 での速さは m/s とする。

相対屈折率は正弦の比で出る。

速さの比も同じ値になります。

屈折角のほうが小さいので、媒質 2 のほうが遅い。値も m/s より小さくなり、向きの判断と合っています。

計算例:波長の変化を出す

前の例の続き。波の振動数が Hz のとき、それぞれの媒質での波長を求めます。

媒質 1 では m/s なので、波長はすぐ出る。

媒質 2 では振動数が同じままで、速さだけが m/s に落ちます。

比をとると で、相対屈折率と一致した。振動数を計算に使わなくても、比だけで求まります。

計算例:回折が目立つかを見積もる

幅 m のドアの隙間を、 Hz の音と、波長 nm の光が通ります。どちらが回り込むかを調べる。

音の波長を出す。音速を m/s とします。

隙間の幅 m と同じ桁なので、音は大きく回り込みます。声が壁の陰まで届くのはこのため。

光のほうは で、桁がまるで違う。回折は起きず、はっきりした影ができます。

計算例:作図で屈折後の波面を描く

境界に斜めに入射する平面波があり、媒質 2 での速さが媒質 1 の半分だとします。屈折後の波面を作図で求める手順を並べる。

波面の一端が境界に着いた時刻を基準にする。他端が境界に着くまでの時間を とします。

先に着いた端から、媒質 2 の中へ半径 の素元波を描く。この円が屈折後の波面の手がかりになります。

他端が境界に着いた点から、この円に接する線を引けば、それが屈折後の波面。半径が半分なので、波面は法線側へ倒れます。

波面に垂直な線を引けば、屈折後の進む向きが出る。角度を測れば が確かめられます。

よくある誤り

屈折で振動数が変わると考える。境界で波の数は増減せず、変わるのは速さと波長。
屈折の法則を角度の比だと考える。 ではなく が速さの比に等しい。
遅い媒質へ入ると法線から離れると考える。遅い側へ入れば法線に近づく。
相対屈折率の添字の順を逆に使う。 は媒質 1 から 2 へ入るときの値で、逆向きでは逆数になる。
回折を隙間の絶対的な幅で判定する。効くのは波長との比で、同じ隙間でも波長が変われば結果が変わる。
光は回折しないと考える。波長がとても短いので目立たないだけで、隙間を狭めれば広がる。
ホイヘンスの原理を屈折だけの道具だと考える。反射も回折も同じ作図から出てくる。
反射で入射角と反射角が変わることがあると考える。境界が平らなら、どんな角度でも 2 つは等しい。

3 つの現象を別々に覚える必要はありません。素元波を描いて包絡面をとる、この 1 つの作図がすべての土台になる。

参考文献

Huygens–Fresnel principle - Wikipedia
Snell's law - Wikipedia
Diffraction - Wikipedia
OpenStax University Physics: Total Internal Reflection
Huygenssches Prinzip - Wikipedia(ドイツ語)
Principe de Huygens-Fresnel - Wikipédia(フランス語)
惠更斯原理 - 维基百科(中国語)
反射と屈折と回折は、ホイヘンスの原理という 1 つの作図から出てきます。素元波と包絡面の描き方、正弦の比が速さの比とも波長の比とも等しくなる屈折の法則、遅い媒質へ入ると法線側へ曲がる理由、隙間の幅と波長が同程度のときに回折が目立つ条件を、計算例とよくある誤りつきで解説します。