望遠鏡と顕微鏡のしくみをレンズ 2 枚の倍率から理解する
レンズを 2 枚並べたときの決まりは 1 つだけです。1 枚目が作った像を、2 枚目にとっての物体として扱う。
あとは写像公式を 2 回当てるだけ。全体の倍率は、2 つの倍率の積になる[2]。
望遠鏡も顕微鏡も、この 2 回で説明がつきます。違うのは焦点距離の組み合わせと、物体をどこに置くかだけ。
1 枚目の像を 2 枚目の物体にする
1 枚目のレンズが実像を作ったとします。その実像の位置に物体が置いてあると思って、2 枚目に写像公式を当てる。

2 枚目から見て、この像がレンズの前にあるか後ろにあるかで扱いが変わる。前にあれば、ふつうの物体と同じ。
後ろにできるはずだった像が 2 枚目に届く前にさえぎられる場合は、負の距離として扱う。高校の問題では、まず前にある場合を押さえれば足りる。
倍率は掛け算になる
1 枚目で 倍、2 枚目でさらに 倍。像の大きさは 2 回かけ算される[2]。
向きも掛け算です。倒立を 2 回くり返せば、全体では正立に戻る。
例:凸レンズ 2 枚を並べる
焦点距離 のレンズの 手前に物体を置きます。
倍率は 倍で、像は倒立。この像は 1 枚目の 後ろにできる。
2 枚目(焦点距離 )を 1 枚目から の位置に置くと、2 枚目から見た物体距離は 。
倍。合成すると 倍で、倒立が 2 回なので正立になります。
例:2 枚目の焦点の内側に像が来る
2 枚目を の位置へ動かします。物体距離は で、焦点距離より小さい。
負の値は虚像を意味します。2 枚目の 手前に、正立の虚像ができる。
倍なので、合成は 倍です。虫めがねの使い方と同じ配置になっています。
ルーペの倍率
肉眼で細かいものを見るとき、いちばん近づける距離を明視の距離といいます。ふつう とします[1]。
ルーペの倍率は、長さの比ではなく見かけの大きさの比で決めます。目に入る角の比という意味になる。
像を無限遠に作る置き方だと倍率は 、像を明視の距離に作る置き方だと になります[1]。
後者のほうがわずかに大きいが、目が調節し続けるので疲れる。天体観測では前者を使う。
例:焦点距離 5 cm のルーペ
像を無限遠に置くなら 倍。明視の距離に置くなら 倍です。
倍が欲しければ が要ります[1]。倍率を上げるには焦点距離を短くするしかない。
望遠鏡
遠くの星から来る光は、平行光と見なせます。対物レンズを通ると、焦点面に小さな実像ができる[3]。
この実像を接眼レンズでルーペのように拡大する。接眼の焦点をこの実像に合わせると、出てくる光がふたたび平行になる。
対物の焦点と接眼の焦点が同じ点で重なるので、鏡筒の長さは 2 つの焦点距離の和になります[3]。
倍率が焦点距離の比になる理由
物体を見込む角を とする。対物の焦点面にできる像の大きさは 。
その像を接眼で見込む角は です。比を作ると が消えます。
対物を長く、接眼を短くするほど倍率が上がる[2]。中間像は倒立なので、見える像も倒立になります。
例:焦点距離 800 mm の望遠鏡
接眼レンズの焦点距離を とします。
鏡筒の長さは 。月の見かけの直径は約 なので、 倍では に広がる。
腕をいっぱいに伸ばした手のひらが ほど。視野いっぱいに月が入る計算になる。
例:接眼レンズを替える
同じ望遠鏡で接眼を にすると 倍、長さは です。
にすれば 倍、長さは 。倍率を変えるのに、対物を替える必要はない。
倍率を上げるほど像は暗く、揺れも大きく見える。実際の観測では、いちばん高い倍率が使いやすいとは限らない。
顕微鏡
近くの小さなものを見る場合、対物レンズの焦点のすぐ外側に物体を置きます。すると大きな実像が離れた位置にできる[2]。
この実像を、接眼レンズでルーペのように拡大する。組み立ては望遠鏡と同じで、置く位置だけが違う。

倍率は、対物が作る実像の倍率と、接眼のルーペとしての倍率の積です[2]。
鏡筒の長さを とする標準的な組み立てでは、 という形にまとめられます[2]。
例:対物 10 倍、接眼 10 倍
倍率はそのまま掛け算で 倍。
対物レンズに「」、接眼に「」と刻んであるのは、それぞれの倍率。掛けたものが実際の見え方になります。
例:写像公式で追いかける
対物の焦点距離を 、物体を のところに置きます。
倍。焦点のすぐ外に置いたので、遠くに大きな像ができました。
接眼の焦点距離を とし、その焦点が中間像に重なるように置きます。接眼の倍率は 倍[1]。
合成は 倍。レンズの間隔は になる。
望遠鏡と顕微鏡の違い
物体は無限に遠い。対物の焦点面に像ができ、倍率は焦点距離の比
物体は対物の焦点のすぐ外。像は遠くに大きくでき、倍率は 2 つの積
どちらも接眼はルーペとしてはたらく[3]。望遠鏡では対物の焦点距離を長く、顕微鏡では短くとる。
対物の焦点距離が もあれば望遠鏡、 なら顕微鏡。同じ 2 枚組でも、桁が 2 つ違います。
接眼を凹レンズにすると
対物の焦点の手前に凹レンズを置く組み立てもあります。ガリレオが使った形で、いまのオペラグラスがこれ。
中間像ができる前に光をつかまえるので、像は正立のまま見えます。鏡筒も と短くなる。
倍率の式は同じ です。ただし視野が狭く、高い倍率には向かない[3]。
焦点距離 の対物レンズに、焦点距離 の接眼レンズを組み合わせました。倍率と鏡筒の長さはいくらですか。
- 倍、
- 倍、
- 倍、
2 枚組の計算も確かめます。
焦点距離 のレンズの 手前に物体を置き、1 枚目から の位置に焦点距離 の 2 枚目を置きました。全体の倍率はいくらですか。
- 倍
- 倍
- 倍
1 枚目は から 、 倍です。2 枚目から見た物体距離は で、、 倍。積は 倍になり、倒立が 2 回なので向きはもとに戻ります。
実像になるか虚像になるか
2 枚目から見た物体距離 と、2 枚目の焦点距離 の大小だけで決まります。
なら実像、 なら虚像。ちょうど のときは、出ていく光が平行になって像は無限遠へ飛びます。
望遠鏡も顕微鏡も、いちばん下から 2 番めの配置を使います。目が調節しないで見られるためです。
例:中間像を接眼の焦点に合わせる
対物が作った中間像が、接眼の焦点にちょうど乗っているとします。
このとき接眼から出る光は平行なので、目は遠くを見る形のままでよい。長く覗いても疲れない。
ピント合わせのつまみは、この位置をわずかにずらす仕掛けです。近視や遠視の人が合わせられるようになっている。
例:口径が大きいと何が変わるか
倍率は焦点距離だけで決まり、レンズの直径には関係しません。直径が効くのは明るさのほう。
口径 の対物レンズと、直径 の瞳を比べます。
集める光の量は面積に比例するので、 倍ほど。肉眼で見えない暗い星が見えるのは、倍率ではなく口径のはたらきです。
つまずきやすいところ
レンズが 2 枚あっても、新しい公式は 1 つも要りません。1 枚目の像を物体と呼び直すだけで、望遠鏡も顕微鏡も同じ道具で解けます。













倍率は 600÷15=40 倍、長さは 600+15=615 mm です。585 mm は引き算をした値で、これはガリレオ式のときの長さになります。