ヤングの実験と回折格子〜明線の条件と干渉縞の間隔
つのスリットを通った光をスクリーンに当てると、明暗の縞が並びます。光が波であることを、いちばん直接に見せる実験。
年にヤングが行ったこの実験で、光の波長まで測れるようになりました。当時は誰も知らなかった m という長さが、ものさしで測れる縞の間隔から出てくる。
以下では干渉が見えにくい理由から始めて、経路差の出し方、明線の条件と縞の間隔、白色光を使った場合、そして回折格子までを扱います。計算例には、縞の間隔から波長を求める手順を置いた。
光の干渉が見えにくい理由
音の干渉なら、 つのスピーカーを並べるだけで観測できる。光では、そう簡単にいかない。
理由は つある。 つは波長の短さで、可視光は nm から nm ほどしかありません。
経路差を波長の程度にそろえる必要があるので、装置の精度が問われる。 mm ずれただけで、縞が千本以上流れてしまう。
もう つは光源の性質です。電球のフィラメントでは、無数の原子がばらばらのタイミングで光を出す。
つの電球を並べても、位相の関係が保たれない。強め合う位置が目まぐるしく動き、平均されて模様が消える。
位相の関係が保たれた光をコヒーレントな光といいます。同じ光源から出た光を つに分ければ、この条件が満たせる。
ヤングの実験の仕組み
ヤングの装置は 段になっている。光源、 つのスリット、 つのスリット、そしてスクリーン。
最初の単スリット が、コヒーレントにするための工夫です。ここを通った光は つの波源から広がる波になる。
その波が と に同時に届く。 つのスリットは から等距離にあるので、いつも同位相で振動する つの波源になる。
レーザーを使うなら は要りません。もともと位相のそろった光が出ているので、いきなり複スリットに当てられる。
英語版 Wikipedia のヤングの実験の項目も、最初の開口が つのスリットに共通の波源を与える役割だと説明している。

経路差を図から出す
スリットの間隔を 、スクリーンまでの距離を 、中央から測った点 の位置を とします。
と から までの距離の差が経路差です。 から へ垂線を下ろすと、切りとられた部分がその差になる。
S1 から S2P へ垂線を下ろす
できた直角三角形の斜辺が d
経路差はその三角形の底辺で
遠方では と置ける
は を見込む角です。 が よりも よりもずっと大きいので、 を で置き換えられる。
フランス語版 Wikipedia のヤングのスリットの項目も、 のもとで経路差を としている。
近似が効くのは、実際の装置では が mm ほど、 が数 m だから。桁が つ以上違うので、誤差は問題になりません。
明線と暗線の条件
経路差が波長の整数倍なら、山と山が重なって強め合う。
半波長の奇数倍なら弱め合い、暗線になる。
を次数といいます。 の明線は経路差が の点で、スクリーンの中央にできる。
経路差が波長の整数倍。位置は で、中央から等間隔に並ぶ
経路差が半波長の奇数倍。明線と明線のちょうど真ん中にできる
明線の位置を について解くと、次数に比例した等間隔の並びが出る。
干渉縞の間隔
隣り合う明線の間隔は、 を つ増やしたときの の変化です。
ドイツ語版 Wikipedia の二重スリット実験の項目も、縞の周期を (スクリーン距離 、スリット間隔 )としている。記号が違うだけで同じ式。
この式には測れる量しか入っていません。 と と をものさしで測れば、 が求まる。
| 記号 | 意味 | 典型的な値 |
|---|---|---|
| スリットの間隔 | mm ほど | |
| スクリーンまでの距離 | から m | |
| 干渉縞の間隔 | 数 mm | |
| 光の波長 | から nm |
だけが極端に小さい。この 本を細かく作れるかどうかが、実験の成否を分けます。
縞の間隔からわかること
の形を見れば、どうすれば縞が見やすくなるかがわかる。
スクリーンを遠ざければ が増えて縞が広がる。スリットの間隔を狭めても、 が分母なので縞が広がる。
波長が長いほど縞は広い。赤い光の縞は、青い光の縞より間隔が大きくなる。
ヤングの実験で、スリットの間隔を 倍にしました。干渉縞の間隔はどうなりますか。
- 倍になる
- 半分になる
- 変わらない
- 倍になる
スリットを広げると縞が詰まるところが、直感に反します。装置を大きくしたのに、模様は細かくなる。

光の波長を測る
ヤングの実験の値打ちは、波長を数値で出せるところにあります。縞の間隔の式を について解くだけ。
は数 mm、 は mm 程度、 は数 m。どれもふつうの道具で測れる長さです。
そこから m という値が出てくる。直接は測りようのない長さを、測れる量の組み合わせで求めたところが、この実験の巧みさです。
白色光を使うと
単色光ではなく白色光を当てると、中央だけが白い縞になる。 では経路差が で、どの波長も同時に強め合うから。
が 以上では、波長ごとに位置がずれる。 なので、波長の長い赤ほど中央から遠くへ来る。
その結果、 次の縞は内側が紫、外側が赤の帯になる。次数が上がるほど帯は広がり、やがて隣の次数と重なって色が濁る。
白色光で縞が中央付近にしか見えないのは、この重なりのため。単色光を使う理由もここにあります。
白色光をヤングの実験の複スリットに当てました。中央の明線は何色に見えますか。
- 赤
- 白
- 紫
- 虹のように色が分かれる
中央では経路差が で、どの波長も同時に強め合います。すべての色が重なるので白く見えます。
色が分かれるのは 次から先。中央だけは波長によらず条件を満たすので、白のまま残る。
回折格子
スリットを 本ではなく、何千本も並べたものが回折格子です。ガラスに等間隔の細い溝を刻み、削られていない部分がスリットとしてはたらく。
OpenStax の回折格子の節によれば、 mm あたり 本を超えるものもある。事実上、無限個のスリットが並んだ装置とみなせる。
原理はヤングの実験とまったく同じです。違うのはスリットの本数だけ。
格子定数
隣り合うスリットの間隔を格子定数といい、記号は を使います。 mm あたりの本数の逆数になる。
mm あたり 本なら、 mm m。可視光の波長の数倍という細かさです。
問題文では本数で与えられることが多い。逆数をとって長さに直すところが、最初の一手になります。
回折格子の明線条件
隣り合うスリットからの光の経路差は、ヤングの実験と同じ です。強め合う条件も同じ形。
ヤングの実験と違い、遠方近似で に置き換えないことが多い。角度が大きくなるので、 のまま扱う。
という制限から、見える次数には上限がある。 を超える次数は現れない。
。角度が大きくなる回折格子ではこちらを使う
。角度が小さいヤングの実験では、こちらのほうが計算しやすい
もとは同じ条件です。遠方近似を使うかどうかで、書き方が分かれているだけ。
スリットは 2 本。角度が小さいので の形で使う。縞はぼんやり広がる
スリットは多数。角度が大きいので のまま使う。明線は細く鋭い
なぜ回折格子のほうが鋭いのか
スリットが 本のときは、明線と明線のあいだが徐々に暗くなる。強め合う条件から少し外れても、 つの波はまだかなり強め合うから。
スリットが 本になると事情が変わる。条件から少しずれただけで、 個の波の位相がばらばらになり、互いに打ち消し合う。
OpenStax も、副極大の強さが に比例して消えていき、主極大だけが細く明るく残ると述べている。

図の下は 本の場合です。明線の位置は同じままで、幅だけが細くなっている。
位置が変わらないのは、条件式に が入っていないから。本数が効くのは鋭さのほうだけです。
分光への応用
波長ごとに が違うので、回折格子に白色光を当てると光が色に分かれる。 で が大きいほど角度が大きい。
プリズムでも光は分かれますが、角度と波長の関係は単純ではありません。回折格子なら式が 本で書けるので、角度を測れば波長がそのまま出る。
星の光を回折格子で分けると、暗い線の並びが現れる。どの元素がそこにあるかを、この線から読みとれる。
計算例:干渉縞の間隔を出す
波長 nm の光を、間隔 mm の複スリットに当てます。 m 先のスクリーンにできる縞の間隔を求めます。
単位をメートルにそろえてから代入する。
mm 間隔なら、目でも数えられます。波長は m の桁なのに、縞は mm の桁になっている。
が という大きな倍率としてはたらいているためです。装置そのものが拡大器の役目をしている。
計算例:縞の間隔から波長を測る
間隔 mm の複スリットを使い、 m 先のスクリーンで縞の間隔が mm でした。光の波長を求めます。
式を について解いてから入れる。
緑の光にあたる波長が出ました。 つの長さを測るだけで、原子の大きさに近い量が求まる。
計算例:回折格子で明線の角度を出す
mm あたり 本の回折格子に、波長 nm の光を垂直に当てます。 次の明線が現れる角度を求めます。
まず格子定数を長さに直す。
明線の条件に を入れます。
となる角は約 度。ヤングの実験より角度がずっと大きく、遠方近似は使えません。
計算例:見える次数の上限
同じ回折格子と同じ波長で、何次の明線まで現れるかを調べます。
から、次数に上限がつく。
したがって 次まで。 次を満たす角度は存在しないので、スクリーンに現れません。
格子を細かくして を小さくすると、次数の上限は下がります。かわりに 次の角度が大きくなり、色の分離はよくなる。
計算例:回折格子で波長を測る
格子定数 m の回折格子で、 次の明線が の向きに現れました。波長を求めます。
条件式を について解く。
角度を測るだけで波長が出ました。分光器がこの仕組みで動いています。
よくある誤り
の 本を軸に置き、遠方近似を使うかどうかで書き分ける。この整理で、 つの実験を別々に覚える必要がなくなります。













Δx=λL/d で d は分母にあります。間隔を 2 倍にすれば、縞の間隔は半分になる。