音の速さとうなり:気温による変化とうなりの回数
音は空気の疎密が伝わる縦波です。空気そのものは前へ運ばれず、押し合いへし合いだけが先へ届く。
速さは音源ではなく空気で決まります。大声でも小声でも、高い声でも低い声でも、同じ気温なら同じ速さで進む。
以下では音の三要素と可聴域から始めて、気温で音速が変わる理由、媒質による違い、風と気温差による音の曲がり、うなりの回数が振動数の差になる仕組みまでを扱います。計算例には、気温から音速を出す手順と、うなりから相手の振動数を決める手順を置いた。
音は空気の疎密が伝わる縦波
音源が振動すると、まわりの空気を押したり引いたりします。押されたところは密になり、引かれたところは疎になる。
この疎密が次々に隣へ移っていくものが音波です。空気の分子は元の位置のまわりで前後に振動するだけ。
振動の向きが波の進む向きと同じなので、音は縦波になる。気体には横波を支える力がないので、ほかの選択肢はない。
疎密の変化は、圧力の変化としても表せる。密なところは圧力が高く、疎なところは低い。

図の上が空気の分子の並び、下が圧力の変化です。粒が寄り集まった位置で圧力が高くなっている。
圧力で測っても変位で測っても、同じ 1 つの波を見ていることになる。マイクが拾うのは圧力のほう。
音の三要素
音の違いは 3 つの量に分けられます。高さ、大きさ、音色の 3 つ。
高さを決めるのは振動数です。振動数が大きいほど高い音になり、小さいほど低い音になる。
大きさを決めるのは振幅。圧力の変化が大きいほど、大きな音として聞こえます。
振動数で決まる。 Hz なら中央のラ。振動数が 2 倍になると 1 オクターブ上がる
振幅で決まる。圧力の変化が大きいほど大きく聞こえる。高さとは無関係
音色を決めるのは波形です。同じ高さで同じ大きさでも、ピアノとバイオリンでは波形が違う。
波形の違いは、基本の振動に混ざる倍音の割合の違いによるもの。倍音の混ざり方が楽器ごとの個性になる。
音の大きさとデシベル
耳が感じる大きさは、音の強さにそのまま比例しません。強さが 倍になっても、 倍うるさいとは感じない。
そこで基準の強さとの比を対数にした量を使います。これが音の強さのレベルで、単位はデシベル。
は基準の強さで、 と決められている。人がやっと聞きとれる強さにあたります。
強さが 倍になるごとに dB ずつ増える。 倍なら dB、 倍なら dB です。
ふつうの会話が dB ほど、走行中の電車の中が dB ほど。差は dB でも、強さでは 倍の開きがある。
可聴域
人が聞きとれる振動数には範囲があります。おおよそ Hz から kHz まで。
上限は年齢とともに下がっていく。若い人には聞こえる高い音が、大人には届かないという現象が起きる。
kHz を超える音を超音波といいます。人には聞こえませんが、コウモリやイルカは使いこなす。
Hz より低い音は低周波音。耳では聞こえにくく、体で振動として感じることが多い。
超音波の使いみち
超音波の値打ちは、波長が短いところにあります。細かいものまで見分けられる。
波長より小さいものは、回折で波が回り込んで写りません。見分けられる細かさは波長で決まる。
医療の超音波検査では、数 MHz の音を体に当てます。波長が mm を下回り、臓器の形まで読みとれる。
魚群探知機も車の駐車センサーも、仕組みは同じ。跳ね返るまでの時間から距離を出しています。
コウモリは自分で超音波を出し、反射音を頼りに暗闇を飛ぶ。人が機械でやっていることを、体でやっている。
空気中の音速と温度
空気中の音速は、気温によって変わります。摂氏 度のときの値は、次の式で足ります。
度で m/s、 度で約 m/s、 度で約 m/s になる。気温が 度上がるごとに、およそ m/s ずつ速くなる。
ドイツ語版 Wikipedia の音速の項目は、この近似式が 度から 度の範囲で誤差 % 未満だと書いています。日常の範囲なら、この 1 本で困らない。
気圧は音速にほとんど効きません。山の上でも平地でも、気温が同じなら音速もほぼ同じ。
気温が 度から 度まで上がると、空気中の音速はどうなりますか。
- 変わらない
- およそ m/s 速くなる
- およそ m/s 遅くなる
- 2 倍になる
夏と冬では、音速が m/s ほど違う。距離を音速から出す問題では、その日の気温から計算し直すことになります。
なぜ温度で変わるのか
音を伝えるのは空気分子どうしの衝突です。分子が速く動くほど、疎密の情報も速く伝わる。
気体分子の速さは絶対温度の平方根に比例する。だから音速も、絶対温度の平方根に比例する。
は比熱比、 は気体定数、 は絶対温度、 はモル質量です。空気ならこれが という形にまとまる。
平方根の式を摂氏の付近で直線に近似したものが、さきほどの です。もとは平方根なので、範囲を大きく外れると合わなくなる。
分母にモル質量があるところも読めます。軽い気体ほど音が速く、ヘリウムを吸うと声が高く聞こえるのはこのため。
媒質による音速の違い
音は空気の中だけを進むわけではありません。水の中でも金属の中でも伝わり、しかも空気中よりずっと速い。
速さを決めるのは、媒質のかたさと密度です。かたいほど速く、重いほど遅い。
固体は分子どうしの結びつきが強いので、変形がすぐ隣へ伝わります。だから鉄の中では空気中の 17 倍もの速さで進む。
フランス語版 Wikipedia の音速の項目も、密度と圧縮率の 2 つで決まると説明しています。気体が遅いのは、密度が小さいことより圧縮されやすいことのほうが効くから。
中国語版 Wikipedia の声速の項目も、固体・液体・気体の順に速いと述べている。
媒質の種類と温度。空気なら 度で約 m/s、鉄なら空気の 17 倍になる
音の高さと大きさ、そして気圧。同じ空気なら、どんな音でも同じ速さで進む
高い音が低い音を追い越すことはありません。もし振動数で速さが違えば、遠くの音楽はばらばらに聞こえてしまう。
風があるときの音速
空気そのものが動いていれば、音はその流れに乗ります。風下へ向かう音は速く、風上へ向かう音は遅くなる。
地面から見た音速は、空気中の音速に風速を足し引きした値になる。
音源や観測者が動いても、空気に対する音速そのものは変わりません。変わるのは地面から見た値だけ。
この区別は、あとで出てくる問題を解くときに効いてきます。音速は空気に対して決まる、と押さえておけば混乱しない。
音の屈折
気温は高さによって違う。音速が場所で変われば、音の進む道筋は曲がる。
昼は地面が日射で暖まり、上空ほど気温が低くなる。地表付近のほうが音速が速いので、音線は上へ曲がる。
その結果、地表を進むはずだった音が空へ逃げていきます。昼間に遠くの音が届きにくいのは、この曲がりのため。
夜は逆になる。地面が放射で冷え、上空のほうが暖かくなるので、音線は下へ曲がって地表に戻ってきます。

夜のほうが遠くの音がよく聞こえるのは、静かだからだけではありません。音線そのものが地表へ戻ってくる。
地表が暖かく上空が冷たい。音線は上へ曲がり、遠方には届きにくくなる
地表が冷たく上空が暖かい。音線は下へ曲がり、遠方まで届く
同じ理由で、風が強い日には風上と風下で聞こえ方が変わります。風速も高さによって違うので、音線が曲がる。
音の反射
かたい壁に当たった音は跳ね返る。山や建物からの反射がやまびこ。
反射音が元の音から 秒ほど遅れて届くと、別の音として聞き分けられます。それより短いと、元の音に溶けて残響になる。
音楽ホールの設計では、この残響の長さを調整します。長すぎると音がにごり、短すぎると響きが乏しくなる。
うなり
振動数がわずかに違う 2 つの音を同時に鳴らすと、音の大きさが周期的に変わります。この現象がうなり。
大きくなったり小さくなったりを、耳がはっきり数えられる。1 秒間に何回大きくなるかが、うなりの回数です。

図では振動数の差を 4 にしてあります。ふくらみの数を数えると、ちょうど 4 つ。
うなりの式
2 つの音の重ね合わせを式で書きます。振幅を 、振動数を と とする。
和積の公式を当てると、積の形に変わる。
右の が、聞こえる音そのものです。振動数は 2 つの平均で、 Hz と Hz なら Hz の音として聞こえる。
左の は振幅をゆっくり変える部分。この部分が包絡線を作り、音の大きさの変化になる。
うなりの回数が振動数の差になる理由
包絡線の の振動数は です。ところが耳が数えるうなりの回数は、その 2 倍になる。
理由は、耳が振幅の符号を聞き分けないところにあります。包絡線が正の山でも負の谷でも、音としては同じ大きさ。
したがって包絡線の 1 周期のあいだに、音が大きくなる瞬間が 2 回訪れる。回数が 2 倍になり、差そのものと一致する。
英語版 Wikipedia のうなりの項目も、包絡線の 1 周期に山が 2 回現れるため、聞こえる回数が差に等しくなると説明している。
Hz のおんさと Hz のおんさを同時に鳴らしました。1 秒間に何回のうなりが聞こえますか。
- 3 回
- 6 回
- 443 回
- 886 回
うなりの回数は 2 つの振動数の差です。 で、毎秒 6 回になります。聞こえる音の高さは平均の Hz。
差が大きくなるほど、うなりは速くなります。差が Hz を超えると数えられなくなり、にごった 1 つの音として聞こえる。
うなりの使い道
楽器の調律は、うなりを使う仕事です。基準の音といっしょに鳴らし、うなりが消えるまで調整する。
うなりが遅くなるほど、2 つの振動数は近づいています。完全にそろえばうなりは消える。
基準の音といっしょに鳴らす
うなりの回数を数える
弦の張力を変える
うなりが消えたら合っている
耳は絶対的な高さを測る仕事に向きませんが、うなりの有無なら正確に判定できます。差を に追い込む方法なので、精度が高い。
計算例:気温から音速を出す
気温 度の日の音速を求めます。近似式に代入するだけ。
気温 度なら m/s になる。 度の差で m/s の違い。
音速を m/s として計算する問題が多いのは、 度のときの値だからです。断りがなければこの値を使う。
計算例:やまびこから崖までの距離を出す
気温 度の日、崖に向かって叫んだところ、 秒後にやまびこが返ってきました。崖までの距離を求めます。
まず音速を出す。
音は往復しているので、片道の時間は 秒です。
往復と片道をとり違えると、答えが 2 倍になります。距離を出す問題では、まず往復か片道かを確かめる。
計算例:うなりから相手の振動数を決める
振動数 Hz のおんさと、振動数のわからないおんさを同時に鳴らすと、毎秒 回のうなりが聞こえました。相手の振動数を求めます。
うなりの回数は差なので、候補は 2 つ出る。
この段階では、どちらかを決められません。うなりの回数だけでは、相手が高いか低いかがわからない。
計算例:おもりを付けて振動数の大小を決める
前の例の続き。わからないほうのおんさにおもりを付けると、うなりが毎秒 回に増えました。どちらが正しいかを決めます。
おもりを付けると、おんさは振動しにくくなって振動数が下がる。ここが手がかりになります。
もとが Hz なら、下がって Hz になり、 Hz との差は に広がる。観測と合っています。
もとが Hz なら、下がって Hz になり、差は に縮むはず。観測と合わない。
したがって相手の振動数は Hz。うなりの回数が増えたか減ったかで、大小が決まります。
よくある誤り
音速の式は覚えるより組み立てるほうが速い。 度で m/s、 度ごとに m/s、この 2 つだけで足ります。












1 度あたり約 0.6 m/s なので、30 度ぶんで 18 m/s の増加。331.5 m/s から約 349.5 m/s になります。