衝撃波とマッハ角、音速を超えた飛行機が引きずる円錐
音源が音速より速く動くと、出したばかりの音を音源自身が追い越します。前へ広がるはずだった波面は、次々と後ろへ置いていかれる。
置いていかれた球面波には、すべてに接する面が 1 つだけ引ける。それが円錐で、頂点にいるのが音源。この面が衝撃波です。
が音速、 が音源の速さ、 が円錐の半頂角。マッハ 2 なら で になります。
波の中心は出した場所に残る
音源が動いても、いったん空気に渡された音は、そのまま広がるだけ。広がりの中心は、出した瞬間に音源がいた場所に残ります[1]。
音源は次の瞬間には別の場所にいる。だから円は少しずつずれた中心を持ち、進行方向の前では詰まり、後ろでは開く。
前で詰まるぶん波長が短くなり、振動数が上がって聞こえる。動く音源の音が高く聞こえるのは、この詰まりのためです。
音速に届いた瞬間
音源が速くなるほど、前側の波面は詰まっていく。 が に届くと、前側の間隔はちょうど になる。
出した音がどれも音源と同じ位置に並び、1 枚の壁のように重なります[4]。音源はもう、自分の出した音より前へ出られません。
古くは音の壁と呼ばれた状態です。ドップラー効果の式で分母が になる場所でもある。
超えると円錐になる
になると、音源は自分の出した音をすべて追い越します。波面は音源の後方だけに残る。
残った球面のどれにも接する面が、ただ 1 つ引ける。円錐の面の上では無数の波面が同時に重なり、圧力の変化が一気に足し合わされる[2]。
3 つの場合を並べてみます。
小さい点が、音を出した場所です。マッハ 0.5 では前にも音が届き、マッハ 2 では円がどれも後方へ寄っている。
マッハ角を三角形で出す
円錐の半頂角は、直角三角形 1 つで求まる。
時刻 に音源が点 A で音を出し、時間 のあいだに点 B まで進んだとします。
A で出た音は半径 の球に広がり、音源は だけ進んだ。B からこの球へ引いた接線が、円錐の母線になる。

接点を P とすると です。、 なので、B のところの角について次が成り立つ。
が消えました。角度は速さの比だけで決まり、時間がどれだけたっても変わらない。
マッハ数
音源の速さを音速で割った値をマッハ数といいます[3]。
マッハ角の式は と書き直せる。 が大きいほど は小さく、円錐は細くなる。
では となり、 が決まりません。円錐ができないことが、式の側からも出ています。
速さの範囲は次のように呼び分けられます[3]。
| 亜音速 | |
| 遷音速 | |
| 超音速 | |
| 極超音速 |
例:マッハ 2 の円錐
とします。 なので 。
円錐全体の開き、つまり頂角は です。半頂角と頂角のとり違えが起きやすいところ。
式に出てくる は、円錐の軸から母線までの角です。頂角はその 2 倍になります。
軸は音源の進む向き。図の上では、進行方向の後ろ向きの直線から測る角にあたる。
例:半頂角からマッハ数を出す
円錐の半頂角を測ったら だったとします。
です。気温 で音速を とすると、速さは になります。
マッハ数と角度の対応
代表的な値を並べます。
| マッハ数 | 半頂角 | |
|---|---|---|
の は、円錐が平らな面に開ききった状態です。速くするほど後ろへ倒れ、細く尖っていく。
例:ライフルの弾丸
弾丸の速さを 、音速を とします。
です。 から 。
飛行機より細い円錐を引きずっている。的の近くにいる人が聞く鋭い音は、この円錐が通り過ぎた音です[4]。
音速は気温で決まる
マッハ 1 の速さは一定ではありません。音速が気温で変わるためです[3]。
は摂氏の気温です。地上の で 、上空の では まで落ちます。
同じ速さで飛んでも、高いところのほうがマッハ数は大きくなる。
例:地上と上空でマッハ数が変わる
速さ の機を考えます。
地上では 、上空では 。
半頂角は から 、 から になる。上空のほうが円錐は細い。
速さを変えていないのに角が変わる。基準にしている音速のほうが動いたため。
円錐が地面を掃く
円錐は音源について動く。地面と交わる線も同じ速さで進むので、航路に沿った帯の上を順に通過していく[5]。
機が真上を通り過ぎた時点では、まだ何も聞こえません。円錐の面がそこまで来ていないため。
面が届いた瞬間に、圧力が急に上がる。そのあと大気圧より下がり、また戻る。
例:真上を通ってから届くまで
高度 をマッハ 2 で水平に飛ぶ機があります。音速は とする。
半頂角 の円錐が地面と交わる位置は、機の真下から後方へ だけ離れている。
機がこの距離を進むのにかかる時間が、待ち時間です。速さは 。
真上を通ってから約 秒後に、ブームが届きます。
例:高度を 2 倍にする
高度 で同じ計算をします。、。
待ち時間も 2 倍になった。高度に比例するという形です。
一般に書けば次の形。 を使った。
、 なら です。
一度きりの音ではない
音速を超えた瞬間にだけ鳴る、と誤解されやすいところです。超音速で飛んでいるあいだ、円錐は作られ続けます[5]。
音の壁を破った瞬間に 1 回だけ鳴り、あとは静かに飛んでいく
超音速のあいだずっと円錐ができ、その足もとの帯を順に鳴らしていく
機体の各部から出た衝撃波は、進むうちにたがいに重なる。地面に届くころには 2 本にまとまっていることが多い[5]。
前の段差と後ろの段差で、ドンドンと 2 回聞こえる。圧力の時間変化が N の字に似ているので、N 波と呼ばれます。
高いところを飛ぶ機ほど、音が地面に届くまで時間がかかる。高度 ほどだと 1 分近い[5]。
水面では V 字になる
船が水面波より速く進むと、同じことが平面で起こる。円錐の代わりに、V 字の航跡ができる[2]。

水面は 2 次元なので、円錐を真上から見た形がそのまま出ます。V の半分の角が 。
音と同じ式です。波の種類が違っても、幾何は変わらない。
例:船の航跡の角
水面波の速さが 、船の速さが とします。
なので 。V の開きは になります。
船を速くすると V は細くなる。遅くして波の速さを下回ると、V 字そのものが消える。
円錐の外は静か
円錐の面より前の空間には、音がまだ 1 つも届いていません。機が近づいていることに気づけない領域。
面を境に、静けさから急な圧力の段差へ切り替わる。段差が耳に届いたものがブームです。
遠くまで届くあいだに段差はなまり、鋭さを失う。雷が近くでは鋭く、遠くではごろごろと鳴るのも同じ事情[2]。
音速 の空気の中を、 で飛ぶ機があります。衝撃波の円錐の半頂角はいくらですか。
角度から逆に速さを出す形も確かめます。
円錐の頂角が でした。この音源のマッハ数はいくらですか。
頂角が なら半頂角は です。 なので になります。半頂角と頂角をとり違えると となり、円錐ができない値が出ます。
よくある誤り
音源が音より速いかどうか。その一点だけで、広がる円が動かない円錐に変わります。











M=1020÷340=3 なので sinθ=31=0.333 です。θ=19.5∘ になります。30∘ はマッハ 2 の値、60∘ はマッハ 2 の頂角のほうです。