波の基本(横波と縦波の違い・波長と振動数・v=fλ)
波は、媒質の一部に生まれた振動が、隣へ隣へと伝わっていく現象です。伝わるのは振動とエネルギーだけで、媒質そのものは元の場所に残る。
水面に石を落とすと輪が広がる。輪といっしょに水が運ばれるわけではなく、浮かべた葉は上下に揺れるだけで、その場から動かない。
以下では、媒質と振動の関係から始めて、横波と縦波の違い、波を表す 4 つの量、 の意味、グラフの読み分け、正弦波の式と位相までを扱います。計算例には、グラフから式を組み立てる手順と、媒質の動く向きを読む手順を置いた。
媒質は動かず、振動だけが伝わる
波を伝える物質を媒質、振動を始めた場所を波源といいます。媒質の各点は、つり合いの位置のまわりで行ったり来たりするだけ。
スタジアムのウェーブが、いちばん近い例になる。人は立って座るだけで、席を移らない。それでも波は客席を一周します。
伝わっているのは、立ち上がるという動作と、そのタイミングだけ。物質は運ばれず、形とエネルギーだけが進んでいく。
隣へ伝わるのに時間がかかることが、波の本体です。ある点が振動を始めると、その隣は少し遅れて同じ振動を始める。
波源が振動を始める
隣の点が少し遅れて同じ振動を始める
遅れが積み重なって波の形ができる
遅れが一定の割合で積み重なるので、波の形はくずれずに進む。この遅れの速さが、あとで出てくる波の速さそのものになります。
媒質を必要とする波を力学的な波といいます。フランス語版 Wikipedia の力学的な波の項目は、これを「物質を運ばずに局所的な乱れが伝わる現象」と書いている。
光は例外で、媒質がなくても進む。真空を通って太陽の光が届くのは、電場と磁場の振動が互いを作り合っているからです。
横波と縦波
媒質の振動する向きと、波の進む向きの関係で、波は 2 つに分かれます。振動が進行方向に垂直なものが横波。弦をはじいたときの波や、水面の波がこれにあたる。
振動が進行方向と平行なものが縦波。音がその代表で、ばねを軸方向に押し引きしたときの波も縦波になります。

図の上が横波、下が縦波です。どちらも媒質はその場で振動していて、右へ移っていくのは形だけになる。
縦波では、粒子が寄り集まったところと、まばらになったところが交互にできる。前者を密、後者を疎といい、この 2 つが波といっしょに進みます。
振動が進行方向に垂直。弦を伝わる波、水面の波、光がこれにあたる
振動が進行方向と平行。音、ばねを押し引きした波、地震の P 波がこれにあたる
地震では両方が同時に発生します。先に届く速い波が縦波の P 波、あとから届く遅い波が横波の S 波で、揺れが大きいのは後者になる。
初期微動継続時間から震源までの距離を出す計算は、この 2 つの速さの差を使ったもの。
気体と液体の中に横波は立たない
音は空気中でも水中でも縦波で、横波になることはない。理由は媒質の側にある。
横波が伝わるには、ずれた部分を元へ引き戻す力が要ります。固体は形を保とうとするので、ある層が横にずれると、隣の層がそれを引き戻す。
気体と液体には、この引き戻しがない。層が横にずれても、静かに滑るだけで元へ戻す力が働かない。
ドイツ語版 Wikipedia の力学的な波の項目も、横波が現れるのはずれ弾性率が十分に大きい固体に限られると書いています。
この違いは地球の内部でも観測される。地震の S 波は液体である外核を通り抜けられず、地球の反対側に S 波の影ができます。
外核が液体だと突き止められたのも、この影が手がかり。波の種類が、直接は見えない内部を教えてくれた例になる。
縦波を横波として描く
縦波は、そのままでは図に描きにくい。粒子の密集の度合いは目で測りにくく、波長も読みとりにくいためです。
そこで、各点の変位を 90 度回して描き直す。右向きの変位を上向き、左向きの変位を下向きに描く、という約束。
こうすると縦波が横波と同じ正弦曲線になり、波長も振幅もそのまま読めます。高校の問題文にある「縦波を横波のように表す」は、この操作を指している。

密と疎がどこに来るかは、描き直したグラフから読める。変位が最大や最小の点ではなく、変位が 0 の点に来ます。
理由は変位のずれ方にある。ある点の左側が右へ、右側が左へ変位していれば、粒子はそのあいだに寄り集まります。
これは変位のグラフが右下がりに 0 を横切る場所。逆に右上がりに 0 を横切る場所では、粒子が左右へ離れていくので疎になる。
音の圧力の変化が変位の傾きに比例することは、OpenStax の音速の章でも という形で示されています。
縦波を横波として描き直したグラフで、媒質がもっとも密になっているのはどの点ですか。
- 変位が最大の点
- 変位が最小の点
- 変位が 0 で、グラフが右下がりに横切る点
- 変位が 0 で、グラフが右上がりに横切る点
変位が最大の点は、まわりごと同じ向きへ動いている。間隔が変わらないので、密度も変わらない。
波を表す 4 つの量
正弦波は 4 つの量で決まります。振幅、波長、周期、振動数の 4 つ。
振幅は、つり合いの位置からの変位の最大値。記号は で、波の大きさを表します。
波長は、波の形がひと山ひと谷でくり返す長さになる。記号は で、山から次の山までの距離と読んでも同じ。
| 量 | 記号 | 単位 |
|---|---|---|
| 振幅 | m | |
| 波長 | m | |
| 周期 | s | |
| 振動数 | Hz |
周期は、媒質の 1 点が 1 回振動するのにかかる時間です。振動数は 1 秒あたりの振動の回数で、単位にはヘルツを使う。
この 2 つは同じことを裏返しに測った量。次の関係でつながっています。
周期が 秒なら振動数は Hz、周期が 秒なら振動数は Hz になる。掛けると必ず になる組。
1 周期で 1 波長進む
4 つの量のうち、波長と周期と速さのあいだには決まった関係があります。媒質の 1 点が 1 回振動するあいだに、波の形はちょうど 1 波長ぶん進む。これが関係式の中身のすべて。
速さは距離を時間で割った量なので、そのまま次の式になる。
を代入すれば、教科書でいちばんよく見る形が出ます。
中国語版 Wikipedia の波の項目も、 を波の基本関係として挙げている。
暗記する式ではない。1 周期で 1 波長という一文を覚えておけば、その場で組み立てられます。
速さを決めるのは媒質、振動数を決めるのは波源
には 3 つの量が並んでいるが、決まり方はそれぞれ違う。ここをとり違えると、あとの単元がまとめて崩れます。
速さを決めるのは媒質。弦なら張力と線密度、空気なら温度で決まり、波源をどう振っても変わらない。
振動数を決めるのは波源。毎秒 3 回振れば Hz の波が出て、媒質が何であっても変わらない。
残った波長は、この 2 つから決まる量です。 という形で、速さと振動数の割り算。
波が別の媒質へ入るときに、この違いがはっきり出る。振動の回数は境界で増えも減りもしないので、振動数は保たれます。
一方で速さは媒質とともに変わるので、波長のほうが伸び縮みする。ドイツ語版 Wikipedia も、媒質が変われば速さと波長が変わり、振動数は保たれると書いています。
波が空気中から水中へ入るとき、値が変わらないのはどれですか。
- 波の速さ
- 振動数
- 波長
- 速さと波長の両方
境界で振動の回数が増えたり減ったりすることはありません。速さは媒質で決まるので変わり、波長は にしたがって変わります。
光が水に入ると屈折するのも、この関係の現れになる。速さが落ちたぶんだけ波長が縮み、色は変わりません。
y-x グラフと y-t グラフ
波のグラフは 2 種類あります。見た目はどちらも正弦曲線なので、横軸を見ずに読むと必ず間違える。
横軸が位置 のグラフは、ある時刻に撮った写真。波の形がそのまま写り、山から山までの距離が波長になります。
横軸が時刻 のグラフは、ある 1 点をずっと見張った記録。その点の上下動が写り、山から山までの時間が周期になる。

同じ形をしていても、読みとれる量は別になる。左からは波長、右からは周期。
振幅はどちらのグラフからも読めます。中心線から山の頂上までの高さが振幅で、これは 2 つのグラフで共通になる。
ある瞬間の波全体の写真。波長が読める。速さと組み合わせて周期が出る
ある 1 点の記録。周期が読める。速さと組み合わせて波長が出る
問題文で「 での波の形」とあれば前者、「 での媒質の変位」とあれば後者です。ここを最初に確かめると、以降の計算がずれない。
波形から媒質の動きを読む
ある時刻の波形を渡されて、その瞬間に各点が上下どちらへ動くかを問われることがあります。速さや振動数を使わずに答えられる問題。
やり方は 1 つ。波形をわずかに進行方向へずらし、同じ位置で高さがどう変わったかを見ます。
高さが上がっていればその点は上へ、下がっていれば下へ動く。少しあとの形と今の形を比べるだけの操作。

図の点線が、少しあとの波形です。各点の矢印は、実線から点線へ高さが動いた向きを表している。
言いかえると、その点は進行方向の後ろ側にある高さを、次の瞬間にとる。右へ進む波なら、左隣の高さが順に送られてきます。
山の頂上と谷の底では、矢印の長さが 0 になる。上下の折り返し点なので、その瞬間だけ速度が消える。
いちばん速く動くのは、変位が 0 の点です。振り子が最下点でもっとも速いのと同じ事情になる。
正弦波の式
グラフではなく式で書くと、任意の位置と時刻の変位を一度に扱える。組み立ては 2 段階。
まず原点の振動を書きます。振幅 、周期 の単振動なので、次の形になる。
次に、位置 の点を考えます。そこへ振動が届くのは、距離を速さで割った だけあと。
つまり位置 の点は、原点が 前にしていた動きを、今している。時刻を だけ巻き戻せばよいことになります。
を代入して整理すると、教科書の形が出る。
時間と位置が同じ形で並んでいるところが、この式の見どころです。 と が、それぞれの向きのくり返しの単位になっている。
角振動数 と波数 を使うと、もっと短く書ける。
OpenStax の進行波の節は、この と による表し方を標準の形として採用しています。
の前の符号が波の向きを決める。負なら の正の向きへ進む波、正なら負の向きへ進む波になる。
符号の意味は、式を睨まずに確かめられます。 が増えたとき同じ変位を保つには がどちらへ動く必要があるか、を見ればよい。
位相
の中身をまとめて位相といいます。波のどの部分にいるかを表す量で、単位はラジアン。
2 点の位相の差が位相差になる。同じ波の上の 2 点なら、位相差は距離だけで決まります。
1 波長離れると位相差は 、半波長なら になる。位相差は距離を波長で測り直した量。
2 点の変位がいつも同じなら同位相、いつも逆向きなら逆位相で、位相差 が の整数倍か、 の奇数倍かで分かれます。
の中身の差。距離の差を波長で割り、 を掛けた値になる。
同位相の点は、山になるときも谷になるときもそろっている。逆位相の点は、片方が山のときもう片方が谷になります。
位相差が の整数倍。距離の差が波長の整数倍のとき。2 点はいつも同じ変位をとる。
位相差が の奇数倍。距離の差が半波長の奇数倍のとき。2 点はいつも逆向きの変位をとる。
この分け方は、波が重なり合うときの強め合いと弱め合いに直結する。位相差が の整数倍なら強め合い、 の奇数倍なら弱め合います。
波の速さと媒質の速さは別物
の は、波形が進む速さ。媒質の点が動く速さではない。
媒質の点が動く速さは、変位の式を時刻で微分すれば出ます。単振動そのものなので、最大値は になる。
2 つの式を見比べると、含まれる量が違う。波の速さに振幅は出てきませんが、媒質の速さには振幅が効いてきます。
数値を入れると差がはっきりする。振幅 cm、振動数 Hz、波長 cm の波で見てみます。
波の速さは m/s。媒質の最大の速さは m/s で、3 倍以上の開きがあります。
振幅を 2 倍にしても、波の速さは変わらない。変わるのは媒質の速さのほうだけ。
波が運ぶエネルギー
波は媒質を運ばないが、エネルギーは運ぶ。海の波が防波堤をこわすのは、この運ばれてきたエネルギーによるものです。
弦を伝わる正弦波が単位時間に運ぶエネルギーは、次の形になる。 は弦の線密度。
大切なのは比例関係のほうで、 と が並んでいます。OpenStax の波のエネルギーの節も、振幅の 2 乗と角振動数の 2 乗に比例すると述べている。
振幅を 2 倍にすればエネルギーは 4 倍、振動数を 2 倍にしても 4 倍になる。どちらも 2 乗で効いてくるところが要点。
音の大きさが振幅で決まり、しかも振幅の変化に対して急に変わるのは、この 2 乗のためです。
波面と射線
平面や空間を伝わる波では、同位相の点をつないだ面を考えると見通しがよくなる。この面が波面。
波面はいつも進行方向に垂直です。そこで波面に垂直な線を引くと、波の進む道筋が描ける。この線が射線。
波面が平らなものが平面波、球状のものが球面波になる。点波源から広がる波は球面波で、十分に遠くから見れば平面波として扱えます。
球面波では、同じエネルギーが広がった面に分配される。面積は距離の 2 乗に比例するので、強さは距離の 2 乗に反比例して落ちます。
離れた星の光が弱く見えるのも、遠くの音が小さいのも、この分配で説明できる。
計算例:波長と振動数から速さを出す
振動数 Hz、波長 m の波の速さと周期を求めます。速さは にそのまま入れるだけ。
周期は振動数の逆数になる。
検算として、 秒で m/s の波がどれだけ進むかを見ます。 m となり、波長と一致した。
1 周期で 1 波長という関係を、そのまま数値で確かめた形。
計算例:グラフから式を組み立てる
ある時刻の波形が、振幅 m、波長 m の正弦波だったとします。波は の正の向きへ m/s で進んでいる。
まず周期を出す。速さと波長がわかっているので、割り算だけで済みます。
振動数は Hz になる。ここまでで 4 つの量がそろいました。
あとは形に入れるだけ。正の向きへ進む波なので、 の前は負号がつく。
角振動数と波数で書き直すと、 rad/s、 rad/m です。
どちらの形でも同じ波を表す。問題の指定に合わせて選べばよく、変換は と の 2 本で足ります。
計算例:ある時刻に媒質が動く向き
の正の向きへ進む波があり、ある時刻に の点が変位 で、そのすぐ右が山になっているとします。この点が次に動く向きを求める。
波形をわずかに右へずらす。すると右にあった山が へ近づいてくる。
したがって の高さは上がり、この点は上へ動きます。右隣の高さが順に送られてくる、という読み方そのもの。
同じ状況で波が左へ進むなら、答えは逆になる。今度は左側の谷が近づいてくるので、点は下へ動きます。
向きの判定に速さや振動数は要らない。波形と進行方向だけで決まる問題。
計算例:位相差から距離を出す
波長 m の波の上に 2 点があり、位相差が だとします。位相差と距離の関係を、距離について解く。
は の 6 分の 1 なので、距離も波長の 6 分の 1 になった。比で考えれば計算はいりません。
逆に距離が m なら、波長のちょうど半分なので位相差は になる。この 2 点は逆位相。
よくある誤り
どれも、波の形と媒質の動きを別々に見れば防げる。図を 2 段に描き、上に波形、下に注目する点の動きを書くと、とり違えが減ります。












左側が右へ、右側が左へ変位している場所に粒子が寄り集まります。変位が最大の点では、まわりも同じ向きに動いているので密度は変わりません。