薄膜干渉とニュートンリング:位相の反転と暗環の半径
シャボン玉が虹色に見えるのは、膜の表と裏で反射した光が干渉するからです。膜の厚さが場所ごとに違うので、強め合う色も場所ごとに変わる。
ここで効いてくるのは、反射のときに起きる位相の反転です。これを見落とすと、明暗の条件が入れ替わってしまう。
以下では位相の反転から始めて、薄膜の干渉条件、くさび形空気層とニュートンリングまでを扱います。計算例には、シャボン玉が色づく波長を出す手順と、ニュートンリングからレンズの曲率半径を求める手順を置いた。
反射のときに起きる位相の反転
光が境界で反射するとき、位相がそのままの場合と、 ずれる場合がある。どちらになるかは、両側の屈折率で決まる。
屈折率の小さい側から大きい側へ向かって反射すると、位相が ずれる。弦の固定端反射と同じ状況。
逆に、大きい側から小さい側へ向かう反射では、位相は変わりません。こちらは自由端反射にあたる。
| 反射する向き | 位相 | たとえ |
|---|---|---|
| 小さい屈折率から大きい屈折率へ | ずれる | 固定端反射 |
| 大きい屈折率から小さい屈折率へ | 変わらない | 自由端反射 |
英語版 Wikipedia の薄膜干渉の項目も、進んできた媒質より屈折率の大きい面で反射するときに 度の位相のずれが起きるとしている。
透過する光には、この反転がありません。膜を通り抜ける光は、位相をそのまま保って進む。
位相の反転が条件を入れ替える
位相が ずれることは、光路差が半波長だけ増えたことと同じ意味を持つ。 のずれは、半波長ぶん遅れて届いた波と見分けがつかない。
そこで計算では、 の反転が 回あるたびに を足すものとして扱います。この読み替えで、覚える条件が 組で済む。
反転が両方の面で起きる場合は、 が 回加わって になる。 波長ぶんはずれていないのと同じなので、条件はもとに戻る。
が余分に加わる。光路差が波長の整数倍のところが暗くなる
差し引きが になる。光路差が波長の整数倍のところが明るくなる
数える対象は反転の回数です。何回起きたかを先に確かめてから、条件式を立てる。
薄膜干渉の仕組み
厚さ 、屈折率 の膜に、真上から光を当てます。膜の上面で反射する光と、膜の中を往復してから出てくる光の 本を考える。
本目は膜の中を だけ余分に進む。膜の中では波長が に縮んでいるので、真空中の波長で数えると 進んだことになる。
上面での反射は、空気から膜へ向かう反射です。膜のほうが屈折率が大きいので、位相が ずれる。
下面での反射は膜から空気へ向かうので、位相は変わりません。反転が片方だけ起きる形になる。

薄膜の干渉条件
反転が片方だけなので、光路差に を足したものが実質の差になる。それが波長の整数倍のとき、強め合う。
整理すると、教科書でよく見る形が出ます。
弱め合う条件は、光路差そのものが波長の整数倍のとき。
条件が逆転して見えるところが、この単元のつまずきどころです。位相の反転を数え忘れると、明暗をそっくりとり違える。
斜めに入るとき
真上からではなく斜めに当てる場合、膜の中を進む距離が変わる。膜の中の屈折角を とすると、光路差は次の形。
のとき となり、垂直入射の式に戻る。見る角度を変えるとシャボン玉の色が変わるのは、この が動くから。
シャボン玉と油膜が色づく理由
白色光を当てると、膜の厚さに応じて強め合う波長が決まる。その波長の色だけが強く反射され、色づいて見える。
膜の厚さは場所によって少しずつ違う。だから場所ごとに強め合う色が変わり、虹のような模様になります。
シャボン玉が割れる直前に黒く見えることがある。膜が極端に薄くなり がほぼ になると、位相の反転だけが残ってどの波長も弱め合うからです。
水たまりの油膜も同じ仕組み。油の膜が薄く広がり、厚さの違いが色の帯になって現れる。
シャボン玉の膜が非常に薄くなり、厚さがほとんど になりました。反射光はどう見えますか。
- 白く見える
- 暗く見える
- 赤く見える
- 明るさは変わらない
反射防止膜
レンズの表面には、反射を減らす膜が塗られています。ここでは反転が 回起きるので、条件がひっくり返る。
膜の屈折率をガラスより小さく、空気より大きく選ぶ。すると上面でも下面でも「小さいほうから大きいほうへ」の反射になり、どちらも位相が ずれる。
反転が 回なので差し引き 。弱め合う条件は、光路差が半波長の奇数倍のときです。
いちばん薄い膜は のときで、 になる。膜の厚さを波長の 分の に合わせる、という設計の由来がここにある。
空気にはさまれた膜。反転は上面の 1 回だけ。 が強め合いの条件
空気とガラスにはさまれた膜。反転は 2 回。同じ式が弱め合いの条件に変わる
式の形は同じで、意味だけが入れ替わっています。反転の回数を数えるところが、そのまま答えを分ける。
くさび形空気層
枚の平らなガラス板を重ね、片方の端に薄い紙をはさむ。板のあいだにくさび形の空気層ができる。
上の板の下面での反射は、ガラスから空気へ向かうので位相が変わりません。下の板の上面での反射は空気からガラスへ向かうので、 ずれる。
反転は片方だけ。空気層なので で、光路差は になる。
接触している端では なので、そこは暗くなる。光路差が でも、位相の反転だけが残るためです。

くさび形の縞の間隔
板の長さを 、はさんだ紙の厚さを とします。接触端から の位置での空気層の厚さは、比例配分で出る。
暗線の条件 に入れると、暗線の位置が求まる。
隣り合う暗線の間隔は、 を つ増やしたときの差。
縞が等間隔に並ぶのは、厚さが に比例しているからです。傾きが一定なら、同じ厚さの増分ごとに縞が現れる。
紙を厚くすると が増え、縞は詰まる。ガラスの平面性を調べる検査に使われるのは、少しの凹凸で縞が曲がるため。
ニュートンリング
平凸レンズを平面ガラスの上に置くと、接触点を中心とした同心円の縞が現れる。ニュートンリングと呼ばれる模様。
くさび形との違いは、空気層の厚さが位置の 乗で増えるところ。だから縞の間隔は外側ほど詰まる。
反射の事情はくさび形と同じです。上のレンズの下面では位相が変わらず、下の平面ガラスの上面で ずれる。
中心からの距離 r での空気層の厚さを求める
反転が片方だけなので、暗環の条件は
d を r で書き直して代入する
暗環の半径 が出る
空気層の厚さと半径の関係
レンズの曲率半径を 、中心からの距離を とします。空気層の厚さは幾何学から出る。
が に比べてずっと小さいので、近似が使える。
中国語版 Wikipedia のニュートンリングの項目も、厚さを と書いている。
暗環の半径
暗環の条件 に、近似した厚さを入れます。
ドイツ語版 Wikipedia のニュートンリングの項目も、 という同じ式を挙げている。
半径が の平方根に比例するので、外側ほど間隔が詰まる。 番目と 番目の差より、 番目と 番目の差のほうが小さい。
中心では 、つまり です。光路差が でも位相の反転が残るので、中心は暗い点になる。
ニュートンリングを反射光で見たとき、中心はどう見えますか。
- 明るい点になる
- 暗い点になる
- 虹色に見える
- 何も見えない
中心では空気層の厚さが で、光路差も です。それでも下の面での反射による のずれが残るので、弱め合って暗くなります。
厚さが なのに暗い、というところがこの模様の要点。位相の反転を数えていなければ、説明がつかない。

反射光と透過光で明暗が逆になる
ここまでは反射して戻ってくる光を見ていました。下から透かして見ると、明暗がそっくり入れ替わる。
透過する光には位相の反転がないためです。反射で ずれた分が効かなくなり、条件が反対になる。
エネルギーの保存から考えても筋が通る。反射で弱め合った光は、どこかへ消えるのではなく透過側へ回っている。
位相の反転が効く。ニュートンリングの中心は暗く、くさび形の接触端も暗い
反転がないので条件が逆転する。中心は明るく、明暗がすべて入れ替わる
計算例:シャボン玉が強く反射する波長
厚さ nm、屈折率 のシャボン玉の膜に、白色光が垂直に当たります。もっとも強く反射される波長を求めます。
強め合いの条件に を入れる。
緑にあたる波長です。この膜は緑を強く返し、その色に見える。
厚さが変われば強め合う色も変わる。シャボン玉の表面で色が移り変わるのは、膜の厚さがゆっくり変化しているからです。
計算例:反射防止膜の厚さ
屈折率 の膜をガラスの表面に塗り、波長 nm の光の反射をもっとも小さくしたい。膜の最小の厚さを求めます。
反転が 回なので、弱め合いの条件は半波長の奇数倍。 をとる。
膜の中の波長の 分の という厚さになりました。カメラのレンズが薄く色づいて見えるのは、この膜が付いているから。
計算例:くさび形の縞の間隔
長さ cm のガラス板の端に、厚さ mm の紙をはさみます。波長 nm の光を当てたときの縞の間隔を求めます。
式に代入する。単位はメートルにそろえます。
mm 間隔の縞が並ぶ。紙を厚くすれば が増え、縞はさらに詰まります。
計算例:ニュートンリングの半径
曲率半径 m の平凸レンズを使い、波長 nm の光を当てる。 番目の暗環の半径を求めます。
式にそのまま入れる。
番目なら mm。番号の平方根で増えるので、外へ行くほど間隔が狭まっていきます。
計算例:半径からレンズの曲率半径を出す
波長 nm の光で、 番目の暗環の半径が mm だった。レンズの曲率半径を求めます。
式を について解く。
m という値が出ました。定規では測りにくい大きな曲率半径が、mm 単位の縞から求まる。
レンズの検査でこの方法が使われるのは、この感度のためです。表面がわずかにゆがんでいれば、環の形が崩れて見える。
よくある誤り
手順はいつも同じです。反転の回数を数え、光路差を書き、 を足すかどうかを決める。この 段で条件が立ちます。











2nd がほぼ 0 になっても、上面の反射による π のずれが残ります。どの波長でも弱め合うので、暗く見えます。