三角関数の合成とベクトルの内積の関係
数学 II で習う三角関数の合成公式は、実はベクトルの内積として自然に理解できます。公式を丸暗記するのではなく、内積の幾何的な意味から合成の仕組みを見通してみましょう。
合成公式の復習
三角関数の合成公式とは、次の等式のことです。
ただし は
を満たす角です。左辺のサインとコサインの「混ざった式」を、右辺のように 1 つのサインにまとめるのが合成公式の役割になります。
この公式はたしかに便利ですが、 の条件を覚えるのがやや面倒で、符号を間違えやすいという悩みもあります。ところが、左辺をベクトルの内積として捉えると、合成の本質がすっきり見えてきます。
内積として見る
という式をよく眺めてみましょう。これは 2 つのベクトルの成分どうしの積の和、つまり内積の形をしています。
、 は定数なので、このベクトルは動かない。大きさは 。
によって方向が変わるが、大きさは常に 。原点を中心とする単位円上を動く。
の大きさが常に であることは、三角関数の基本公式から確認できます。
つまり は、 が変化するにつれて単位円の上をぐるぐる回る「長さ の矢印」です。
内積の幾何的定義を使う
ここで内積の幾何的定義を思い出しましょう。 と のなす角を とすると、
、 なので、
となります。たったこれだけの式変形で、合成公式の本質が現れました。
の値は、固定ベクトル と回転ベクトル のなす角 のコサインに を掛けたものにすぎません。
は から の範囲を動くので、全体の値域が直ちにわかる。
最大値と最小値
の値域は です。したがって、
が成り立ちます。
、すなわち と が同じ方向を向くとき。回転ベクトルが固定ベクトルにぴったり重なった瞬間に最大になる。
、すなわち と が正反対を向くとき。回転ベクトルが固定ベクトルの真逆を向いた瞬間に最小になる。
合成公式を経由しなくても、「内積 大きさ 大きさ (なす角)」という関係だけで最大値・最小値がわかるわけです。
具体例で確認
の最大値と最小値を求めてみましょう。、 の場合です。
内積の形に書くと、
、 なので、
と即座にわかります。合成公式で を計算するのと結果は同じですが、内積の視点だと「なぜ になるのか」が幾何的に納得できるのではないでしょうか。 という矢印の長さが であり、回転ベクトルがそれと同じ方向を向いたときに積が最大になる、というだけの話です。
もう一つの具体例
ではどうでしょうか。、 です。
なので、
最大値は 、最小値は です。
最大値をとる も求めてみましょう。 と が同じ方向を向くとき最大になります。 の方向は
なので、 がこれと一致するのは のときです。実際に代入すると、
確かに最大値 が得られます。
なぜ m = (b, a) なのか
一つ気になるのは、 を内積にするとき、固定ベクトルが ではなく になる点です。これは の成分の順番が「コサイン、サイン」だからです。
| 式の項 | の成分 | の対応成分 |
|---|---|---|
| (第 1 成分) | (第 1 成分) | |
| (第 2 成分) | (第 2 成分) |
内積 を計算すると、加法の交換法則により と一致します。成分の順番が入れ替わるのは、 が第 1 成分にくるという単位円の座標の取り方に合わせた結果です。
合成公式の の意味
内積の見方を踏まえると、合成公式に登場する角度 の正体もはっきりします。
の方向角( 軸正方向からの角度)を とすると、
一方、合成公式における は
を満たします。つまり は の方向角 と余角の関係にあり、固定ベクトルの向きがそのまま合成公式の位相のずれとして現れているのです。合成公式を「公式」として暗記するよりも、内積の幾何的な意味から が何を表しているかを理解するほうが、忘れにくく応用もしやすいでしょう。
練習問題
の最大値は?
の最大値は?
です。
が最大になる は?
の単位ベクトルは なので、 のとき最大です。
を内積 として表すとき、 は?
との内積が となるので、 です。
三角関数の合成公式は、ベクトルの内積として眺めると「固定された矢印と回転する矢印のなす角が変わることで値が変動する」という明快な絵に落とし込めます。公式の暗記に頼らずとも、内積の大きさ コサインという構造さえ押さえておけば、最大値・最小値や位相のずれが自然に導けるようになるでしょう。
a=1、b=−1 なので 12+(−1)2=2 です。