t=tan2x と置くと、sinx も cosx も dx も、t の分数式に変わります。
sinx=1+t22t,cosx=1+t21−t2,dx=1+t22dt
三角関数が消えて、多項式の割り算だけが残る。sin と cos の分数式は、これで必ず積分できます[1]。
強力なぶん式が膨らみやすいので、ほかの手が使えないときの最後の道具として持っておきます。
3 本とも半角から出る
sinx=2sin2xcos2x から始めます。tan を作りたいので cos22x でくくる。
2tan2xcos22x です。ここで cos22x=1+tan22x1=1+t21。
1+tan2θ=cos2θ1 を逆に読んだ形です[2]。まとめると sinx=1+t22t。
cosx は 2 倍角から。cosx=2cos22x−1=1+t22−1=1+t21−t2。
dx は t を微分します。dxdt=21(1+tan22x)=21+t2。
逆数をとって dx=1+t22dt。3 本とも半角の公式から出ました。覚える式ではありません。
分母がそろっているのが要
3 つの式の分母は、どれも 1+t2 です。ここが効きます。
分数式に代入すると、分母どうしが約分し合って t の多項式の割り算に落ちる。
だから答えは必ず、t の有理式の積分になります。三角関数が完全に消えるのが、この置換の値打ちです[1]。
例:1 + cos x の逆数
∫1+cosxdx を計算します。
cosx=1+t21−t2 を入れます。分母は 1+1+t21−t2=1+t2(1+t2)+(1−t2)=1+t22。
dx の 1+t22 と割り算すると、きれいに 1 になります。
∫1+cosxdx=∫1+t221+t22dt=∫dt=t+C=tan2x+C
答えが t そのものになりました。
半角の公式でも同じ答えに着きます。1+cosx=2cos22x なので、被積分関数は 21⋅cos22x1。
これは tan2x の微分そのものです。置換を使わないほうが速い例でもあります。
例:1 + sin x の逆数
∫1+sinxdx は、半角ではうまくいきません。置換の出番です。
分母は 1+1+t22t=1+t21+2t+t2=1+t2(1+t)2。
分子の 2 乗が出てきました。dx と合わせます。
∫1+t2(1+t)21+t22dt=∫(1+t)22dt=−1+t2+C
t を戻して −1+tan2x2+C。
微分して確かめます。(1+t)22×21+t2=(1+t)21+t2。
一方 1+sinx1=1+t2(1+t)21=(1+t)21+t2。一致しました。
例:sin x の逆数
∫sinxdx も置換で片づきます。
sinx=1+t22t を入れます。
∫1+t22t1+t22dt=∫tdt=log∣t∣+C=logtan2x+C
t1 という最も簡単な形になりました。
分母が 2+cosx のように定数がずれると、t2+32 のような形が残ります。
こうなったら t=3tanφ と置く別の置換に移ります。1 回で終わらないこともある。
単位円の有理点との関係
この置換には、図形としての意味があります。点 (−1, 0) から傾き t の直線を引いてみます。
円と交わるもう 1 つの点が (1+t21−t2, 1+t22t) です。
直線が x 軸となす角が 2x になるのは、円周角の定理から出ます。中心角の半分だからです。
t が有理数なら、交点の座標も有理数になります。分数式に有理数を入れているだけなので。
t=21 なら (53, 54)。3、4、5 の直角三角形が出てきました。
t=32 なら (135, 1312) で 5、12、13。積分の道具が、整数の話につながっています。
t を −∞ から ∞ まで動かすと、円周のうち (−1, 0) だけが残ります。
x=π のとき tan2x が定義できないためです。積分区間に π が入る場合は、区間を分けて扱います。
使わないほうがよい場合
万能ですが、式が膨らみます。ほかの手があるならそちらが速い。
∫sin3xdx は sin を 1 つ外して u=cosx と置けば 3 行で終わります。置換を当てると分数式の割り算になり、遠回りです。
∫sin3xcosxdx も積和で開けば済みます。
置換が要るのは、sin や cos が分母に入っていて、しかも半角では消えない形です。
1+sinx1、2+cosx1、sinx+cosx1 などが当てはまります。
置換が向く形
sin や cos が分母にある分数式。ほかの手では約分できない
置換が向かない形
sin や cos の積や累乗。積和や次数下げ、u の置きかえのほうが短い
まちがえやすい点
cosx の分子を t2−1 とする符号ミスが最も多い。1−t2 で、1 が先です。
t=0 で確かめられます。x=0 なので cos0=1。1+01−0=1 で合います。
dx を dt に替え忘れる誤りもよく起きます。1+t22 を掛けるのを忘れると、答えが別物になる。
t を戻し忘れる形も減点になります。答えは x の式で書きます。
定積分では積分区間も t に直します。x の区間をそのまま使うと値が変わります。
t=tan2x と置くとき、cosx はどれになりますか。
- 1+t22t
- 1+t21−t2
- 1+t2t2−1
__RESULT__
cosx=2cos22x−1 に cos22x=1+t21 を入れると 1+t22−1=1+t21−t2 です。t=0 すなわち x=0 を入れると 1 になり、cos0=1 と合います。
積分の形も確かめます。
∫1+cosxdx の答えはどれですか。
- tan2x+C
- log∣1+cosx∣+C
- −1+tan2x2+C
__RESULT__
分母に cosx=1+t21−t2 を入れると 1+t22 になり、dx の 1+t22 と約分して ∫dt=t です。1+cosx=2cos22x と直しても同じ答えに着きます。−1+tan2x2 は 1+sinx のほうの答えです。
半角の公式から 3 本を作り、分母をそろえて有理式に落とす。最後の手段として持っておく置換です。
参考文献
Weierstrass Substitution. MathWorld(t=tan(θ/2) による sin、cos、dθ の書き換え). É. Bouchet. Trigonométrie, Cours de PCSI, Proposition 1.9 と 1.10(2 倍角と、1+tan2θ=cos2θ1).
$t = \tan\dfrac{x}{2}$ と置くと $\sin x = \dfrac{2t}{1+t^2}$、$\cos x = \dfrac{1-t^2}{1+t^2}$、$dx = \dfrac{2}{1+t^2}dt$ となり、三角関数が消えて多項式の割り算だけが残ります。3 本とも半角の公式から作れるので覚える必要はありません。分母がどれも $1+t^2$ でそろっているところが効いて、代入すると約分し合う。$\displaystyle\int\frac{dx}{1+\sin x}$ のように半角では消えない形が本領で、$\sin^3 x$ のような積や累乗にはむしろ遠回りです。単位円の有理点と $3$、$4$、$5$ の直角三角形につながる話まで。
cosx=2cos22x−1 に cos22x=1+t21 を入れると 1+t22−1=1+t21−t2 です。t=0 すなわち x=0 を入れると 1 になり、cos0=1 と合います。