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English

ホモトピー〜連続に変形できるかどうかだけで同じとみなす

コーヒーカップとドーナツが同じ、という言い方があります。持ち手の穴を残したまま、粘土をこねるように移せる。

移せるかどうかを、写像の言葉で書き直したものがホモトピーです[1]。2 つの連続写像のあいだに、連続な中間の写像の族があるかどうかを問う。

以下では定義から始め、ホモトピー同値が同相より粗い関係であること、可縮という言葉の意味、変形レトラクトによる縮め方までを例で追います。

2 つの写像を連続につなぐ

位相空間 と連続写像 をとります。

連続写像

を満たすものがあるとき、 はホモトピックであるといいます[1,2] がホモトピー。

を時刻と読み、 とおけば、 から へ動く写像の族です。

連続性はどこに効くか

が連続、というだけでは足りません。 の上で連続であることを求めます。

の動きに対しても連続でなければならない、という条件です。途中で飛ぶ変形は認められない。

この差は具体例で見えます。各時刻では連続でも、時刻について不連続な族はいくらでも作れる。

ホモトピーは同値関係

でよい。対称性は に置き換える。

推移性は 2 つのホモトピーを時間で継ぎます。前半で 、後半で を使う。

貼り合わせ補題から、継いだ写像も連続です[2]。したがって同値関係になり、同値類をホモトピー類といいます。

合成とも両立する

なら、 です[1]

したがってホモトピー類のあいだに合成が定まります。空間を対象、ホモトピー類を射とする圏ができる。

これがホモトピー圏です。同型になることと、ホモトピー同値であることが一致します。

例:凸集合の中では何でもつながる

を凸集合とし、 を任意の連続写像とします。

とおけば、値は凸性から に入ります[1]。直線ホモトピーと呼ばれる作り方。

凸なら、どの 2 つの写像もホモトピック。ホモトピー類が 1 つしかありません。

直線ホモトピーが動く様子

2 つの道を直線でつなぐ変形を描きます。

端点を固定したまま、道が連続に移り変わります。平面には穴がないので、どの 2 本も移り合う。

穴を 1 つ空ければ、穴の両側を通る道は移り合わなくなります。この違いが基本群を作る。

零ホモトピック

定数写像にホモトピックな写像を、零ホモトピックといいます[1]

が零ホモトピックであることと、 へ連続に延ばせることが同値です。ループが円板で塞げるかどうか。

穴のない空間では、どのループも塞げます。穴があると塞げないループが残る。

例:円周への恒等写像

は零ホモトピックではありません。塞ごうとすると が要り、そんな写像は存在しない。

いっぽう への包含は零ホモトピックです。平面には穴がないため[4]

同じ円周でも、行き先の空間で答えが変わります。ホモトピーは写像についての性質で、図形だけでは決まらない。

ホモトピー同値

があって

が成り立つとき、 はホモトピー同値であるといいます[1,2]。同じホモトピー型を持つ、ともいう。

同相なら、合成が恒等写像に等しくなります。ホモトピックであればよい、と緩めたのがホモトピー同値。

同相よりも粗い

同相なら必ずホモトピー同値です。逆は成り立ちません[1]

円板と 1 点はホモトピー同値ですが、同相ではありません。片方は無限個の点を持ち、もう片方は 1 点。

粗いぶん、判定しやすくなります。位相不変量の多くは、じつはホモトピー不変量。

同相

点の対応が 1 対 1 で、両方向に連続。集合としての大きさまで一致します。

ホモトピー同値

合成が恒等写像に「連続に変形できる」ところまで緩める。次元も点の個数も変わってよい。

レトラクトと変形レトラクト

に対し、連続写像 の上では恒等写像になるものをレトラクションといいます[3]

さらに が成り立つとき、 を変形レトラクトといいます。 全体を へ連続に縮める。

縮めるあいだ の点が動かない、という条件まで課したものが強変形レトラクトです。

例:円環を円周へ縮める

を平面の円環とし、 を内側の境界とします。

とおけば、 に落ちます。半径方向に押し込む形。

したがって円環は円周へ強変形レトラクトします。ホモトピー同値なので、基本群も一致する。

例:穴あき平面

も同じ式で へ縮みます[3]

一般に へ強変形レトラクトします。原点だけを抜くと、球面の情報が残る。

次元球面の性質を調べれば、穴あき空間の性質も分かります。

例:メビウスの帯

メビウスの帯は中心の円周へ変形レトラクトします。幅を へ縮める形。

したがって円環ともホモトピー同値です。両方とも と同じホモトピー型。

いっぽう同相ではありません。境界が円環では 2 本、メビウスの帯では 1 本。ホモトピー同値では拾えない差。

縮んでいく様子

穴あき平面が円周へ落ちる過程を描きます。

外側の円がすべて内側の 1 本へ寄っていきます。赤い円周だけは最初から最後まで動かない。

原点を抜いていなければ、全体が 1 点へ落ちます。抜いた 1 点が、縮み方を止めている。

同じホモトピー型のものを並べる

円周と同じホモトピー型を持つ空間は、見た目がかなり違います。

3 つとも境界の様子も次元も違います。ホモトピー型だけが一致する。

基本群はどれも です。この不変量では 3 つを区別できません。

例:ホモトピー同値でも変形レトラクトとは限らない

の変形レトラクトなら、両者はホモトピー同値です。逆は必ずしも成り立ちません[3]

そもそも の部分空間でない場合は、レトラクトという言い方が使えません。円板と 1 点でも、点を円板の中にとれば変形レトラクト。

一般には、2 つの空間がホモトピー同値であることと、両方がある 1 つの大きな空間の変形レトラクトになることが同値です[3]

例:錐は必ず可縮

空間 に対し、 を錐といいます。底面を 1 点に潰した形。

とおけば、頂点へ縮みます[4] が何であっても可縮。

どんな空間も、可縮な空間の中に埋め込めることになります。埋め込んだ先の性質からは、元の空間の情報が出てこない。

可縮

1 点とホモトピー同値な空間を可縮といいます[4]。恒等写像が零ホモトピックであること。

、凸集合、星形集合はどれも可縮です。錐をとった空間も可縮になる。

可縮なら、ホモトピー群もホモロジー群も自明です。位相不変量の多くが何も見えなくなる。

— 原点へ直線で縮める
円板 — 同じく直線で縮める
星形集合 — 中心へ縮める
任意の空間の錐 — 頂点へ縮める

ホモトピー群が自明でも可縮とは限らない

すべてのホモトピー群が自明でも、可縮でない空間があります[4]

ワルシャワ円周がその例です。局所的な性質が悪く、写像を作れない。

CW 複体に限れば、両者は一致します。この主張がホワイトヘッドの定理。

円板 と 1 点について、正しいものはどれか。

  • 同相であり、ホモトピー同値でもある
  • ホモトピー同値だが、同相ではない
  • 同相だが、ホモトピー同値ではない
  • どちらでもない
__RESULT__

で 1 点へ縮むのでホモトピー同値です。点の個数が違うので同相ではありません。

相対ホモトピー

部分空間 の上では動かさない、という条件を付けたものが相対ホモトピーです[1]

をすべての で要求する。道のホモトピーでは、 が両端点。

基本群を定義するときに使うのがこの形です。端点を固定しないと、どのループも 1 点に縮んでしまう。

何が保たれるか

ホモトピー同値な空間では、次が一致します。

ホモトピー群
ホモロジー群とコホモロジー群
オイラー標数(有限 CW 複体のとき)
連結成分の個数

いっぽう次元、コンパクト性、境界の本数は保たれません。円板と 1 点で次元が違うことが、そのまま反例になります。

ホモトピーで何が捨てられるか

同相を求めると、対応が細かすぎて判定が難しくなります。緩めることで、代数の道具が使えるようになる。

捨てているのは「太さ」の情報です。穴の個数やつながり方は残り、大きさや次元は落ちる。

何を残して何を落とすかを選ぶ、というのが位相不変量の設計です。ホモトピーはその最初の選び方[5]

使われる場面

代数の定理の証明に位相が使われる場面があります。

代数学の基本定理 — 複素多項式が根を持つこと
ブラウワーの不動点定理 — 円板の連続写像に不動点があること
ボルスク・ウラムの定理 — 球面の対蹠点で値が一致すること

どれも、ホモトピー類が消えないことを使って矛盾を導く形をしています[5]

よくある誤り

各時刻で連続なら足りると思う。 の上での連続性が要ります
ホモトピー同値と同相を同じものだと思う。円板と 1 点が反例です
可縮なら 1 点と同相だと思う。同相ではなくホモトピー同値です
道のホモトピーで端点を固定し忘れる。固定しないと全部が同じ類になります
ホモトピー群が自明なら可縮だと思う。ワルシャワ円周が反例です
レトラクトと変形レトラクトを混同する。後者は恒等写像へのホモトピーまで要ります
零ホモトピックを「値が 」と読む。定数写像にホモトピック、という意味です

参考文献

Homotopy
Homotopie
Deformation retract
Contractible space
Homotopie (français)
Homotopía
2 つの連続写像のあいだに、時間をかけて移り変わる写像の族があるかどうか。それを問うのがホモトピーです。各時刻で連続なだけでは足りず、$X \times [0,1]$ 全体での連続性を求めます。合成とも両立するので、ホモトピー類を射とする圏ができる。円板と 1 点はホモトピー同値でも同相ではありません。円環と穴あき平面とメビウスの帯は、境界の本数も次元も違うのに 3 つとも円周と同じホモトピー型になる。何を残して何を落とすかの選び方です。