基本群の計算:円周からトーラス、射影空間まで持ち上げと貼り合わせで決める
円周の上のループは、何回巻いたかという整数 1 つで決まります。トーラスなら整数が 2 つ、8 の字なら 2 つの文字を並べた語になる。
空間ごとに、その整数や語がなす群が基本群です[3]。
基本群をどう決めるか
位相空間 の基点 における基本群 は、 を始点と終点に持つループのホモトピー類全体です。積はループの結合で入れる[3]。
が弧状連結なら、基点のとり方によらず基本群は同型になります。このとき単に と書く。
計算の道具は 3 つです。被覆空間からの持ち上げ、積空間への分解、そして貼り合わせを扱う van Kampen の定理。
道を持ち上げる
を被覆とします。 の各点が、 で貼り合わさりなく写る開集合の和に持ち上がる近傍を持つ、という状況です[1]。
どちらも、 を貼り合わさりなく写る開集合で覆い、区間をこまかく分けて 1 枚ずつ持ち上げていくことで示せる[1]。区間がコンパクトなので有限回で終わる。
この 2 つがあれば、円周の基本群が決まる。
円周の基本群
、 をとる。これは被覆で、 です[1]。
基点 のループ に、 から始まる持ち上げ をとります。 だから、終点 は整数 になる。
この の持ち上げは です。 と はどちらも から への の道であり、 でまっすぐ結べます[1]。
を合成すると が示せる。よって で、 の類が全体を生成します。
が から一意に決まることも見ましょう。 とし、そのホモトピーを とします。
を を始点として持ち上げると が得られ、持ち上げの一意性から 、 です。道のホモトピーだから終点 は によらず、 になる[1]。
全射性が前半、単射性が後半にあたる。巻き数だけがループのホモトピー不変量である、という主張です[1]。
積の基本群とトーラス
積空間は分解できる。証明は積位相の定義から直に導けます[1]。
が連続であることと、2 つの成分 、 がどちらも連続であることは同値になる。だから のループは、 のループと のループの組と同じもの。
ホモトピーについても同じことが言えます。 のホモトピーは、成分ごとのホモトピーの組にほかなりません。
この対応が群の準同型であることは、結合を成分ごとに見れば分かる[1]。
トーラスに当てます。 より、次のようになります[2]。
生成元は 2 本のループです。 は第 1 成分の を一周して第 2 成分は動かさず、 は逆をやる。
は可換だから で、一般のループは の形に書けます。
同じ議論を繰り返すと 次元トーラスも決まる。

楔和と自由群
次は 8 の字型の空間 。積ではないため、別の道具が必要です。
van Kampen の定理を使います。楔和では、各 をわずかに太らせた開集合 、 をとると、 はそれぞれ に変形レトラクトし、 は 1 点に縮む[1]。
交わりが単連結なため、定理は自由積を与える[1]。
関係式が 1 つも入らないところが要点です。 の基本群が自明なため、貼り合わせで課される関係が空になる。
だから です。8 の字の 2 つのループを違う順でたどると、ホモトピー類が変わる。
円周を 個つないだ楔和なら、 元生成の自由群 になります[1]。
実射影空間
とし、商写像 を見ます。これは 2 重被覆です[2]。
なら は単連結だから、 は普遍被覆になる。普遍被覆では、基本群がデッキ変換群と同型です[2]。
デッキ変換は と両立する の同相写像で、ここでは恒等写像と の 2 つだけ。よって位数 2 の巡回群になります。
は別で、 なので になります。
自明でないループも書ける。 の北極から南極への半大円をとり、 で落とすと、両端が同一視されて閉じたループになる。
このループは自明ではありません。持ち上げが閉じないためです。ところが 2 回たどると の中で閉じたループに持ち上がり、 が単連結なため縮められる。

球面が単連結であること
で になります[1]。ループを直接縮めるのではなく、覆いに分けて示すのが早い。
を 2 つの開集合の和に書きます。対蹠点を 1 つずつ抜いた 、 をとると、どちらも と同相です[1]。
交わり は と同相で、 なら弧状連結になる。
ここで次の補題が効きます。 が弧状連結な開集合 の和で、どの も基点を含み、交わりも弧状連結なら、基点でのループはどれも「各 に収まるループの積」にホモトピックです[1]。
証明は区間を細かく分けることでできる。ループの各点に、行き先が 1 つの に収まる近傍をとり、区間のコンパクト性から有限個で覆う。分点を基点まで戻す道を挟むと、 ごとのループの積になります[1]。
いまの場合、 も も の基本群で自明になる。だから のループはすべて縮まります。
で崩れるのは、 が 2 つに分かれるためです。弧状連結という仮定がここで落ちる。
複素射影空間
は胞体分割で片づく。 に 次元の胞体を貼る操作を繰り返すと、次の形になる[1]。
胞体の次元がすべて偶数だから、 骨格は 胞体 1 つ、つまり 1 点です。
弧状連結な CW 複体では、 骨格の包含が の全射を導きます[1]。1 点の基本群は自明であり、全射の行き先も自明になる。
実射影空間と対照的です。 は各次元に胞体を持つため 骨格が になり、そこから が残ります。
閉曲面
種数 の向きづけ可能な閉曲面 は、 角形の辺を貼って作れる。胞体は 胞体が 1 つ、 胞体が 個、 胞体が 1 つ[1]。
骨格は 個の円周の楔和で、基本群は 元生成の自由群です。 胞体を貼る境界の語が、そのまま関係式になります[1]。
なら関係式は 、つまり です。トーラスで得た と合っている。
では非可換になる。可換化すると になるため、 が違えば基本群も違う。だから種数の違う閉曲面は、同相どころかホモトピー同値にもなりません[1]。
クラインの壺は向きづけ不可能な例です。正方形の辺を の語で貼るため、次の表示を持ちます[1]。
どんな群も基本群になる
計算例を並べると、現れる群の種類が気になる。答えは「全部」です[1]。
群 の表示 をとります。どの群も自由群の商だから、表示はかならず存在する。
生成元ごとに円周を 1 本用意して楔和を作り、関係式 の語に沿って 胞体を貼ります。できた 2 次元 CW 複体を とすると、基本群は になります[1]。
楔和の部分が生成元を、貼った胞体が関係式を出す。8 の字と閉曲面で見た手順を、そのまま一般の表示に当てた形です。
だから基本群だけを見て空間の種類を絞ることはできません。逆に、群を空間の言葉に翻訳する道が開ける。
一覧
ここまでの結果を並べます。
| 空間 | 基本群 |
|---|---|
、。積空間や、可換な関係式で貼った曲面から生じる。
。自由積や、種数 の閉曲面の関係式から生じる。
が ではなく になるのはなぜですか。
- 円周が 2 本あるから
- 貼り合わせの交わりが単連結で、関係式が 1 つも課されないから
- 楔和が弧状連結でないから
で になる理由はどれですか。
- が向きづけ不可能だから
- が普遍被覆で、デッキ変換群が位数 2 だから
- の 骨格が 1 点だから
では が単連結なので、2 重被覆 が普遍被覆になります。普遍被覆では基本群がデッキ変換群と同型で、ここでのデッキ変換は恒等写像と対蹠写像の 2 つだけです。 骨格が 1 点になるのは のほうで、そちらは単連結になります。
道具は 3 つだけでした。持ち上げ、成分への分解、貼り合わせ。空間の作り方が分かれば、基本群はその作り方をなぞって決まります。












トーラスは積なので、成分ごとに分けた時点で可換になります。楔和は積ではなく、van Kampen の定理が与えるのは自由積です。交わりの基本群が自明なため関係式が入らず、ab=ba も成り立ちません。