対角化できる行列とできない行列は何が違うのか
次の 2 つは、どちらも固有値が だけです。片方は対角行列そのもの、もう片方はどんな基底を選んでも対角行列になりません。
差は固有ベクトルの本数です。 は平面全体が固有ベクトルで埋まっていて、 は横軸の 1 方向しかない。
対角化とは基底を選び直すこと
正則行列 で が対角行列になるとき、 は対角化できるといいます[1]。
と書き直すと、意味が見えます。両辺の第 列を比べると、 の第 列を として 。
つまり の列は固有ベクトル、 の対角成分は対応する固有値です[1]。列の順番と対角成分の順番は、そろえて並べます。
が正則であることは、 本の列が一次独立であることと同じ。ここから条件が出ます。
本の一次独立な固有ベクトル
次正方行列 が対角化できるための必要十分条件は、 に の固有ベクトルからなる基底が存在することです[1,2]。
必要性は上の計算そのもの。 の列が固有ベクトルで、 が正則なら一次独立です。
十分性も同じ道を逆にたどります。固有ベクトルの基底 を列に並べて を作ると、 が成り立つ。 は正則なので です。
固有ベクトルからなる基底を固有基底と呼びます[2]。対角化できるかどうかは、固有基底がとれるかどうかと同じこと。
相異なる固有値なら自動でそろう
個の固有値がすべて異なるなら、対角化できます[2]。固有ベクトルが自動的に一次独立になるためです。
証明は本数についての帰納法です。 を相異なる固有値 の固有ベクトルとし、一次関係を置きます。
両辺に を掛けると、各項の が に変わります。もとの式を 倍したものを引くと、最後の項が消える。
本数が 1 つ減った関係になりました。帰納法の仮定から で、固有値が相異なるので 。
よって 。もとの式に戻すと となり、 から が出ます。
これは十分条件で、必要条件ではありません[2]。 は固有値が重なっていても対角行列です。
重複度をそろえる
固有値ごとに 2 つの数を比べます。固有多項式に現れる回数が代数的重複度、固有空間 の次元が幾何的重複度です。
つねに 代数的重複度。上の では で、代数的重複度の に届いていません。
すべての固有値で 2 つが一致すること。これが対角化できるための必要十分条件です[3]。
固有ベクトルの総本数は で、上限は (代数的重複度)。一致して初めて 本そろいます。
各固有値で幾何的重複度を数える
代数的重複度と比べる
全部一致すれば対角化できる
例:重解でも対角化できる
上三角なので固有値は対角成分の 。 の代数的重複度は です。
を書くと、 でない行が第 1 行だけになります。
階数が なので、次元定理から 。代数的重複度と一致しました。
固有ベクトルは を解いて と 。 のほうは です。
3 本そろったので対角化できます。固有値が重なっていても、固有空間が十分に広ければよい。
例:重解で対角化できない
固有値は で、形は上の とよく似ています。ところが の階数は 。
で、代数的重複度の に足りません。固有ベクトルは全部で 本。
3 本に届かないので、対角化できません。右上の が 1 か所あるだけで結論が変わります。

実対称行列はいつでもできる
を満たす実行列は、必ず対角化できます[2]。しかも直交行列 ()でできる。
固有値がすべて実数になること、異なる固有値の固有ベクトルが自動的に直交すること、重解でも固有空間が十分広いこと。この 3 つが成り立ちます。
複素数の場合はエルミート行列、さらに広くは正規行列()が同じ性質を持ちます[2]。
条件を成分の形で書けるので、判定が楽です。重複度を数えなくても、対称であることを見ればよい。
実数の中では対角化できない場合
度回転の行列を考えます。
固有多項式は で、実数の範囲に根がありません。どのベクトルも向きが変わるので、実の固有ベクトルは 本[2]。
複素数まで広げると が固有値になり、固有ベクトルは と 。 では対角化できます。
「対角化できない」と言うときは、どの体で考えているかを添える必要があります。ここが変わると結論も変わる。
固有多項式が実数の根を持たない場合がある。回転行列がその例
次方程式は必ず 個の根を持つ。あとは重複度の一致だけが問題になる
判定の手順
階数を求めるだけで済むので、固有ベクトルを最後まで書き下す必要はありません。判定と構成は分けて進められます。
重解があっても、階数を 1 回計算すれば判定が終わります。
は次元定理そのもの。掃き出して段の数を数えるだけ。
例:対角化できない行列を細胞に分ける
対角化できない行列にも、対角行列に近い標準形があります。ジョルダン標準形と呼ばれる形です。
上の なら、固有値 の 次の細胞と、固有値 の 次の細胞に分かれます。右上に が 1 つ残る。
細胞が全部 次のときが、ちょうど対角化できる場合にあたります。対角化はジョルダン標準形の特別な場合です。
次正方行列で、固有値が (代数的重複度 )と (代数的重複度 )です。、 のとき、対角化できますか。
- できる
- できない
- これだけでは決まらない
条件の向きも確かめます。
次正方行列が相異なる つの固有値を持つとき、対角化について言えるのはどれですか。
- 必ず対角化できる
- 対角化できないことがある
- 対称行列のときだけ対角化できる
異なる固有値の固有ベクトルは一次独立なので、 本そろって基底になります。相異なる固有値は十分条件で、必要条件ではありません。重解があっても対角化できる行列は多くあります。
要点
対角化できるかどうかは、固有値の重なりではなく固有ベクトルの本数で決まります。重解があっても、固有空間が広ければ足ります。
判定に要るのは階数の計算だけ。 が代数的重複度に届くかを、固有値ごとに見ます。
体を広げると結論が変わる場合がある点も、忘れずに確かめます。実で無理でも、複素なら通ることがあります。
固有方向が空間を張り切るか、それとも足りないか。対角化できる行列とできない行列の差は、この一点にあります。













dimE3=5−2=3、dimE7=5−3=2 で、どちらも代数的重複度と一致します。固有ベクトルが 3+2=5 本そろうので対角化できます。階数だけで判定が済む例です。