閉グラフ定理はバナッハ空間上の線型作用素の有界性を判定する強力な道具である。作用素の連続性を直接示すのが難しい場合でも、グラフの閉性という比較的扱いやすい条件から有界性を導ける。
, をバナッハ空間、 を線型作用素とする。 のグラフとは直積空間 の部分集合
のことである。グラフが閉であるとは、 が の閉集合であることをいう。これは次の条件と同値である:( 内)かつ ( 内)ならば 。
閉グラフ定理の主張は次の通りである。
, をバナッハ空間、 を線型作用素とする。 のグラフが で閉ならば、 は有界である。
有界作用素は自動的に閉グラフをもつ(連続写像のグラフは閉)ので、バナッハ空間の間の線型作用素については「有界」と「閉グラフをもつ」が同値になる。
証明の概略
証明は開写像定理を経由する。 にノルム を入れると、 はバナッハ空間になる。 のグラフ が閉ならば、 は の閉部分空間であり、したがってそれ自身バナッハ空間である。
射影 を で定めると、 は全単射有界線型作用素である。開写像定理により は開写像であり、したがって は有界である。 は と書けるので()、有界作用素の合成として も有界である。
応用例
閉グラフ定理の典型的な応用として、微分作用素の有界性判定がある。
ヒルベルト空間 上で微分作用素 を考える。定義域を にとると、 は非有界である( に対し は有界だが となる)。
一方、 のグラフは閉である。()かつ ()ならば、弱微分の意味で となる。閉グラフ定理によれば「閉グラフかつ非有界」は矛盾するはずだが、ここでの問題は定義域 が で閉でない(完備でない)ことにある。閉グラフ定理の仮定はあくまで定義域がバナッハ空間であることを要求する。
このように、閉グラフ定理は作用素が有界であることの証明だけでなく、非有界作用素の定義域が完備でないことを示す道具としても使える。
開写像定理との関係
閉グラフ定理と開写像定理は論理的に同値であり、どちらか一方を認めれば他方が導ける。
全射有界線型作用素 (, バナッハ空間)は開写像である。すなわち の開集合を の開集合に写す。
線型作用素 (, バナッハ空間)のグラフが閉ならば は有界である。
両定理ともベールのカテゴリー定理に基づいており、完備性が本質的に使われる。ノルム空間が完備でなければ、どちらの定理も成り立たない反例が構成できる。