表示が違っても同じ群〜Tietze 変換で結ぶ 4 つの操作
と は、同じ群の表示です。生成元の個数も関係式の形も違うのに、定める群は一致します。
表示から表示へ移る操作が 4 つあり、それだけで同型な表示のあいだを行き来できる。Tietze が 1908 年に導入したものです[3]。
4 つの操作
を 上の自由群、 を の正規閉包とします。表示 に対する操作は次の 4 つです[1]。
前の 2 つは関係式だけを動かし、後の 2 つは生成元と関係式を同時に 1 つずつ動かします。
群が変わらない理由
1 番目は から出ます。 なら を足しても正規閉包は増えず、商が同じになる[2]。
3 番目には少し手が要ります。、 として、次の 2 本の準同型を作ります[2]。
は の元を自分自身へ、 を へ送ります。 の関係式は左辺に入っているので保たれ、 は に落ちる。だから well-defined です。
は の元を自分自身へ送るだけ。こちらも が両方に入っているので通ります。
合成を見ます。 は 上で恒等。 は 上で恒等で、 については となる。最後の等号は関係式 そのものです。
生成元の上で恒等なら準同型として恒等なので、 と は互いに逆。同型が示せました[2]。

例:対称群を二面体群の形に直す
の表示 から出発します[2]。
なので は の共役で、足せる関係式です。足したうえで のほうを消すと になる。
次に生成元 を で導入します。すると で、これは関係式から導ける。
なので も導ける。 も同じ。3 本とも足してよい関係式です。
足したあとは と が余分になるので消します。さらに を使って生成元 を消すと、次が残る。
最後の関係式を書き替えます。 から 、両辺に左から を掛けて 。 なので です。
位数 の回転と鏡映で書いた二面体群の表示になりました[2]。 が、表示の書き替えだけで出ています。
例:三葉結び目の群
冒頭の 2 つを結びます。 から始めます。
生成元を 2 つ導入します。 と です。
この 2 つから、もとの生成元が書けます。
と を関係式として足します。どちらも導けるので足してよい。
次に、この 2 本を使って を書き直します。
もとの関係式 は 、つまり と同じです。これを足す。
ここまで来ると と と が余分になります。消してから、 と を略記の除去で落とす。
生成元が 個、関係式が 本という数は変わりません。中身だけが入れ替わりました。
同じ群が とも書ける、というのは見え方を変えます。こちらの形からは、位数 と位数 の巡回群の融合積という構造がすぐ読める。 を見ているあいだは、それが見えません。
例:クラインの壺の群
もう 1 つ短い例を挙げます。 に 、 を導入します。
もとの関係式そのものになりました。逆向きには 、 と書けるので、 と を消せます。
左は「進んで曲がって戻ると裏返る」形、右は 乗が 本という形です。どちらもクラインの壺の基本群を表しています。
Tietze の定理
操作が群を変えないことは見ました。逆が定理です[1]。
有限表示 と が同型な群を定めるなら、有限回の Tietze 変換で一方から他方へ移れる。
証明は同型写像を表示に書き込む形で進みます[2]。 としてよく、同型 を固定します。
を 上の語 で、 を 上の語 で表します。まず に生成元 と関係式 を足す。ここまでは 3 番目の操作です。
次に と を関係式として足します。 が同型なので、 の関係式を で書き直したものは に入る。 も同じ。だから 1 番目の操作で足せます。
こうしてできた表示は と の両方を含み、 と の両方を関係式に持ちます。反対側から出発しても同じ表示に届く。操作には逆があるので、片方へ上がって他方へ下りればよい[2]。
定理が解いていないこと
同型なら有限回で移れる。それでも、何回で移れるかは分かりません。
だから 2 つの表示を渡されたとき、変換を順に試すだけでは判定になりません。同型なら探索はいつか当たりますが、同型でなければ止まる理由がない。
Tietze 自身が 1908 年の論文でそのことを書いています[3]。与えられた群のすべての生成のしかたを特徴づける一般的な問題も、2 つの表示が同型かを決める方法を見つける特別な問題も、解けていない。
3 年後に Dehn がこれを 3 つの判定問題として並べ直しました[3]。同型問題は、そのうちの 3 番目です。
同型な 2 つの表示は、必ず有限回の操作で結べる
その回数の上限が分からないので、同型かどうかの判定には使えない
生成元の個数と関係式の個数
有限表示 について を見ます。
略記の導入と除去では、生成元と関係式が同時に つずつ増減するので、この差は動きません。関係式の追加と削除では、関係式だけが動くので差が変わる。
同じ群にいくらでも冗長な関係式を足せるので、差はいくらでも小さくできます。上へは行けない。そこで表示にわたる最大値をとると、群の不変量になります。
三葉結び目の群は で、上に見た 2 つの表示のどちらでも同じ値でした。表示を替えても差が動かなかったのは、使った操作が略記の出し入れだけだったからです。
どこから来たか
Tietze がこの操作を作った目的は、群論の中にはありませんでした[3]。
1908 年の論文で、Tietze は多様体の基本群を定義し、それが位相不変量であることを示しています。空間を胞体に分けて基本群の表示を作ると、分け方ごとに違う表示が出る。同じ空間から出た表示が同じ群を定める、と言うために操作が要りました。
有限な 2 次元複体が有限表示群に対応し、複体の張り替えが表示の書き替えに対応する[4]。この対応が、いまも組み合わせ群論と低次元トポロジーをつないでいます。
平衡表示、つまり生成元と関係式の個数が等しい自明群の表示を、制限した操作だけで自明な表示へ落とせるか。Andrews と Curtis の予想と呼ばれるこの問いは、いまも開いています[4]。
表示 に生成元 を で導入し、 を関係式に足しました。この操作について正しいのはどれですか。
- 生成元が増えたので、定める群は大きくなる
- どちらの操作も導ける範囲なので、定める群は変わらない
- 関係式が増えたので、定める群は小さくなる
表示は群そのものではなく、群の書き方です。書き方を替える操作が 4 つあり、同型な書き方はすべてその操作で結ばれている。結べることと、結び方を見つけられることが別だという点だけが、100 年経っても動いていません。












生成元の導入は、その生成元を既存の語で定義する関係式とセットで行うので群を変えません。c5=(ab)5 はもとの関係式から導けるため、足しても正規閉包は増えない。どちらも Tietze 変換なので、群は同じままです。