単純群と組成列|A5 が単純である理由と、群の素因数分解が一意になる話
群 が でなく、正規部分群が と しかないとき、 を単純群といいます。自明群 は単純群に入れない。
素数に を入れないのと同じ約束です。入れてしまうと、群を分解したときの一意性がこわれる。
これ以上ちぎれない群、というのが単純群の位置づけ。
正規部分群がないと準同型はどうなるか
単純群 から別の群への準同型 を考える。核 は の正規部分群なので、 か のどちらかです。
なら はすべてを単位元へ潰し、 なら は単射になる。つまり単純群からの準同型は、まるごと潰れるか、まるごと埋め込まれるかの二択。
途中まで情報を落とすような写像が作れない、という性質です。
例:素数位数の巡回群
位数が素数 の群 をとります。Lagrange の定理から、部分群の位数は を割る。
割るのは と だけなので、部分群は と しかない。正規かどうかを調べるまでもなく、 は単純群です。
ついでに は巡回群にもなる。単位元でない元が生成する部分群は、 そのものになるほかないからです。
可換な単純群は素数位数に限る
逆も成り立ちます。可換な単純群は、素数位数の巡回群しかない。
可換群では部分群がすべて正規になる。だから単純であることは、真の部分群を持たないことと同じ意味です。
単位元でない元 をとると で、 は巡回群。無限巡回群だとすると が真の部分群になってしまうので、位数は有限です。
位数 が合成数で と書けるなら、 が真の部分群になる。残るのは が素数の場合だけ。
例:位数 4 の群は単純にならない
位数 4 の群は と の 2 つです。どちらも可換なので、位数 2 の部分群がそのまま正規部分群になる。
では の一通り、 では三通りのとり方がある。位数が合成数の可換群は、この形でかならず崩れる。
最小の非可換単純群
非可換な単純群は、位数 60 の交代群 から始まります。これより小さい非可換単純群はない。
次に小さいのは位数 168 の で、そのあとに位数 360 の が続きます。交代群は ならすべて単純になる。
A5 の共役類を数える
の元を型ごとに数えます。3 次の巡回置換は、 個から 個を選ぶ 通りに並べ方 通りを掛けて 個。
互いに交わらない互換 2 つの積は 個ある。5 次の巡回置換は 個で、 の中では 個ずつ 2 つの類に割れる。
単位元を足して合計すると、ちょうど位数に一致する。

例:共役類の和で単純性を示す
正規部分群は、共役でうつり合う元をまとめて含みます。だから正規部分群は、いくつかの共役類の合併になる。
単位元の類は必ず入るので、位数は に他の類の大きさを足した形です。さらに Lagrange の定理から、その位数は を割らなければならない。
から始まる部分和を全部作っても、 と のほかに の約数は現れません。、、、、 と、どれも割り切れない。
よって正規部分群は と だけ。 は単純群です。
A4 が単純でない理由
一つ下の は位数 12 で、単純にはなりません。単位元と 3 つの二重互換を集めた集合が、位数 4 の部分群になる。
この は共役でうつり合う元をまるごと含むので、正規部分群です。同じ型の置換が共役になるという事実が効いている。
数え方で比べると差がはっきりします。 では二重互換が 3 個で が を割ってしまうのに対し、 では 15 個あって が を割らない。
組成列
単純でない群は、正規部分群と商に分けられる。これを繰り返し、単純な商だけが並ぶところまで進めたものが組成列。
各段の商 が単純群になる列のこと。有限群ならかならず組成列を持ちます。
位数が段ごとに真に減っていくので、有限回で止まるためである。無限群では持たないことがあり、 がその例です。
といくらでも続き、どこにも終わりがない。
Jordan-Hölder の定理
組成列のとり方は一つではありません。それでも、長さと組成因子の並びは変わらない。
有限群の 2 つの組成列は、長さが等しく、組成因子が並べ替えと同型を除いて一致します。これが Jordan-Hölder の定理。
整数の素因数分解にあたる主張になる。単純群が群の素数だ、という言い方の根拠です。
例:S4 の組成列を書き下す
は位数 24 です。交代群 が指数 2 の正規部分群で、商は 。
の中には位数 4 の正規部分群 があり、その商は位数 3 なので になる。 は で単純ではないため、位数 2 の部分群でもう一段割れる。
長さは 4 で、組成因子は 。 の段を飛ばして書いた列は組成列にならない。 自身が単純でないからです。

例:位数 12 の巡回群では組成列が 3 通り
には組成列が 3 通りあります。途中の部分群のとり方が違うので、列としては別物になる。
| 部分群の位数 | 組成因子 |
|---|---|
| 1, 2, 6, 12 | |
| 1, 2, 4, 12 | |
| 1, 3, 6, 12 |
それでも組成因子を集めると、どれも 、、 です。順番だけが入れかわっている。
組成因子が同じでも群は決まらない
組成因子から群を復元することはできない。 と は、どちらも組成因子が 、 です。
それでも には位数 4 の元があり、 にはない。非可換の例もあります。
と は、どちらも組成因子が と 。片方は可換で、もう片方は非可換になる。
素因数の並びから、もとの数が一つに戻る
組成因子の並びが同じでも、もとの群は一つに戻らない
因子を貼り合わせる方法が何通りもあるという問題が残る。これを拡大問題といい、有限群を分類する難しさはここに集まっている。
完全群との関係
非可換な単純群 では、交換子部分群 が 自身になります。 はいつでも正規部分群なので、 か のどちらか。
なら が可換になってしまうため、残るのは です。この条件を満たす群を完全群という。
非可換な単純群は完全群です。逆は成り立たないので、完全であることは単純であることの必要条件にすぎない。
は 完全群 ですが、中心が位数 2 の正規部分群になるので単純ではありません。完全性だけでは単純性に届かない。
交換子部分群が自分自身に一致する群のこと。
有限単純群の分類
有限単純群はすべて数え上げられています。
可換な単純群はこれだけになる。無限に存在する。
が で単純になる。これも無限系列。
など。16 の無限系列に分かれる。
どの系列にも入らない 26 個。モンスター群を含む。
1962 年に始まり、2004 年に最後の穴がふさがった長い仕事。全体では数百本の論文にわたる。
散在型の最大がモンスター群で、位数はおよそ になる。Feit と Thompson の定理からは、非可換な有限単純群の位数がかならず偶数になることも出ます。
が単純群であることを、共役類の大きさから示すときに使う事実はどれですか。
- 共役類の個数が 5 つある
- 正規部分群の位数は、1 を含む共役類の大きさの和で、しかも 60 を割る
- すべての共役類の大きさが等しい
- 5 次の巡回置換が 24 個ある
無限単純群もある
単純群は有限とは限りません。無限の単純群はかならず非可換になる。
可換なら素数位数に限られるので、無限では起こりえないからです。自然数の置換のうち、動かす文字が有限個の偶置換だけを集めた が例。
3 次元の回転群 も単純群になる。有限の世界だけの話ではありません。











正規部分群は共役類の合併なので位数は 1 に他の類を足した形になり、Lagrange の定理からその値は 60 を割ります。当てはまるのは 1 と 60 だけです。