なぜ 26 個だけが余るのか?有限単純群の分類と散在型
有限単純群は 4 つの型に尽きます[2]。素数位数の巡回群、 の交代群、Lie 型の群、そして 26 個の散在型。
述べるだけなら 4 行です。証明には 100 年かかりました[1]。
分類定理
主張の形を先に置きます。有限単純群 は、次のいずれかに同型です[1]。
Aschbacher が注意しているとおり、この文はやさしく見えて中身が薄いわけではありません[2]。「Lie 型」と「散在型」が何を指すかを定めて初めて、主張として立ちます。

可換なものは素数位数の巡回群しかない
1 番目の型は、その場で証明できます。
を可換な単純群とします。可換なので部分群はすべて正規です。 なので をとると、 は自明でない正規部分群になる。単純性から で、 は巡回群です。
無限巡回群だとすると で、 が真の正規部分群になってしまう。だから は有限です。
位数 が合成数だとして 、 と書きます。すると は位数 の部分群で、 から真の正規部分群になる。単純性に反します。
よって は素数。可換な単純群は素数位数の巡回群だけ、と決まりました。
残りの 3 つの型は非可換です。分類の難しさは、そちらに全部あります。
小さい位数はふるいで落ちる
非可換単純群がどこから始まるかは、Sylow の定理で下から詰められます。
位数が ( はどちらも素数)の群は単純ではありません。Sylow 部分群の個数 は かつ を満たす。 なので は を要求し、これは成り立たない。残るのは で、その Sylow 部分群が正規になります。
位数が ()の群も単純ではありません。類等式から中心 は自明でなく、 なら可換、 なら真の正規部分群になる。どちらでも単純性は崩れます。
こうして落としていくと、非可換単純群の最小位数は になります。 がそれです。
交代群と Lie 型
は で単純になり、位数は です。 で 、 で 、 で と伸びていく。
Lie 型は有限体上の行列群から作ります。いちばん小さい系列は で、位数は次の形。
で 、 でも 、 で 、 で になります。
位数が一致するところは、実際に同型です。、、。
最後のものは数えれば合います。 で、。
系列が違うのに同じ群になる例が、低い位数に集中して 現れます。
小さいところでは偶然の一致が多い。分類の一覧が「系列」だけで書けない理由のひとつ。
Lie 型には、代数群の自己同型でひねった系列も入ります。Suzuki が 1960 年前後に見つけた がその代表で、位数が で割り切れない非可換単純群という、それまでの見込みを外す例になりました[1]。
26 個だけ余る
系列に乗らない群が 26 個あります。1860 年代から 70 年代にかけて Mathieu が見つけた が最初の 5 個です[3]。
そこから 90 年ほど、新しい散在型は出ませんでした。1964 年の暮れ、Janko が位数 の群 を報告します[3]。反例になりそうな仮想の群を調べていたら、それが実在した、という経緯でした。
以後 10 年ほどで残りが出そろいます。最大のものが Monster で、位数の素因数分解はこうなる[4]。
を超える大きさです。存在の証明は Griess が 1980 年に与え、一意性は Griess と Meierfrankenfeld と Segev が 1989 年に片づけました[1]。
散在型は「余り」です。系列で説明が付かず、1 つずつ構成して 1 つずつ一意性を示すほかにない。分類定理のうち、この 26 という数字だけが、証明を読まないと信じにくい部分になります。
対合から入る
分類の実際の入口は、位数 の元でした。
Feit と Thompson が 1963 年に、奇数位数の有限群はすべて可解だと証明します[1]。裏返すと、非可換な有限単純群の位数は偶数です。Cauchy の定理から、そこには必ず位数 の元、つまり対合が入っている。
論文は ページありました[1]。Feit と Thompson は当初 ページ程度と見積もっていたそうです。
対合が必ずあると分かると、Brauer と Fowler の定理が効きます[1]。
が偶数位数の有限単純群、 がその対合のときに成り立ちます。この上界そのものは実用にならないほど粗い。それでも意味は決定的です。
対合の中心化群として現れうる群 を 1 つ固定すると、中心化群が と同型な有限単純群は有限個しかない。無限の探索が有限の探索に変わります[1]。
対合の中心化群として現れうる構造を全部並べる
それぞれについて、そうなる単純群を全部決める
現れた群の一覧が、単純群の一覧になる
これが分類の 2 段構えです。1950 年代に Brauer が示した方針が、そのまま 30 年間の設計図になりました[1]。
証明の規模
Aschbacher の整理では、証明は極小反例をとり、その局所構造が既知の群に似ていることを示す段階と、そこから群そのものを特定する段階に分かれます[2]。局所部分群とは、自明でない 部分群の正規化群のことです。
素数 が特別扱いされるのは、上のとおり単純群が必ず対合を持つためです[2]。
個々の論文の厚みは、次のようになります。
本で ページ級のものが並び、全体では膨大な量になります。 年に Gorenstein が完成を宣言したときも、それは 1 人が読み通した結果ではありませんでした[1]。
穴が見つかる
1989 年ごろ、Aschbacher が準薄群の扱いに不備があることに気づきます[1]。Mason による 800 ページの原稿が、いくつかの小さい場合を落としていた。
準薄群とは、局所構造の「大きさ」を測る量 が 以下の群のことです[2]。分類は の大小と標数の型で 4 つの区画に分けて進められ、準薄群はそのうちのひとつを占めます。
Aschbacher と Smith が 1996 年から 7 年かけてこの区画を埋め、およそ 1200 ページの原稿として書き上げました[2]。完成が 2004 年になったのはそのためです。
宣言から実際の完成まで 20 年以上ある。証明の長さがそのまま、証明の点検にかかる時間になっています。
文献のどこかに全部の部品がある、という形。読み通した人がいない
Gorenstein と Lyons と Solomon が、1 か所にまとめ直している。刊行は続いている
第二世代の計画は、証明のすべてを扱うわけではありません[2]。それでも大部分をひとつながりの本にすることを目指していて、Aschbacher の執筆時点で 5 巻が出ていました。
分類が効く場所
分類が済んだあと、有限群論の問題を解く手順が変わりました[2]。一般の有限群を直接扱わず、問題を単純群についての問いに落とし、一覧を見て個別に片づける。
Aschbacher は、1980 年以前に開いていた有限群論の主要問題がほとんど残っていないと書いています[2]。
Schreier 予想がその典型です。非可換有限単純群 について が可解になる、という主張で、いまも分類の系としての証明しか知られていません[1]。
一覧を 1 つずつ見て確かめた、というのが唯一の証明である。定理としては異例の形です。
有限単純群の分類について正しいのはどれですか。
- 散在型は無限に多いが、系列としては書けない
- 可換な有限単純群は素数位数の巡回群に限る
- 非可換な有限単純群には位数が奇数のものもある
4 行に収まる主張の裏に、対合という 1 種類の元から始まる 100 年ぶんの探索がある。数え上げが終わったこと自体より、終わったと確かめる作業がまだ続いていることのほうが、この定理の姿をよく表しています。










可換な単純群は巡回群になり、位数が合成数だと真の正規部分群ができるので、位数は素数です。散在型はちょうど 26 個です。奇数位数の群は Feit と Thompson の定理で可解になるため、非可換な単純群の位数は必ず偶数になります。