行列の転置は、行と列を入れ替える操作である。転置によって得られる行列の性質を理解することは、対称行列や直交行列など重要な行列のクラスを学ぶ上で欠かせない。
転置行列の定義
行列 の転置行列 は、 行列であり、 成分が で与えられる。つまり、もとの行列の第 行が転置後は第 列になる。
転置行列には以下の性質がある。
特に積の転置では順序が逆になることに注意が必要である。
対称行列と交代行列
正方行列 が を満たすとき、 を対称行列と呼ぶ。対称行列では 成分と 成分が等しく、対角線に関して対称な構造をもつ。
一方、 を満たす行列を交代行列(歪対称行列)と呼ぶ。交代行列では対角成分がすべて 0 になる。なぜなら より が従うからである。
任意の正方行列 は、対称行列と交代行列の和に一意に分解できる。
右辺の第1項は対称行列、第2項は交代行列である。
対称行列の重要性
対称行列は線形代数において特別な位置を占める。実対称行列の固有値はすべて実数であり、異なる固有値に属する固有ベクトルは直交する。さらに、実対称行列は直交行列によって対角化できる。この性質はスペクトル分解や主成分分析など、理論と応用の両面で重要な役割を果たす。