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座標が内積だけで出る〜正規直交基底とフーリエ係数

基底が正規直交なら、ベクトルの座標は内積を計算するだけで出る。連立方程式は要らない[1]。

で 、基底を 、 とする。

座標は と である。掛けて足すだけで出た。

この手軽さがどこから来るのか、そして座標以外に何が簡単になるのかを見ていく。

正規直交系

内積空間 のベクトルの組 が正規直交系であるとは、次を満たすことをいう[3]。

条件は 2 つに分かれる。異なるベクトルどうしが直交すること、各ベクトルの長さが であること。

正規直交系が基底にもなっているとき、正規直交基底と呼ぶ。

一次独立は確かめなくてよい

正規直交系は、それだけで一次独立になる[1]。基底かどうかを調べるとき、あとは本数を数えるだけで済む。

証明は短い。 とおき、両辺と の内積をとる。

の項が全部消えて、 だけが残る。 は何でもよいので、係数はすべて である。

次元空間で 本の正規直交系が見つかれば、その時点で基底になっている。

座標は内積で出る

を正規直交基底とし、 と書く。両辺と の内積をとると、上と同じ消え方をする。

つまり係数は内積そのもの。これを のフーリエ係数と呼ぶ[4]。

例: 度回した基底で座標を出す

、 は正規直交基底になる。長さはどちらも で、内積は 。

の座標を出す。

足し戻すと で、確かに に戻る。

例:正規直交でない基底と比べる

、 を基底にとる。この 2 本は直交していない。

内積をそのまま係数だと思うと 、。ところが で、 とはまるで違う。

正しい座標は連立方程式から出す。

解いて 、。次元が上がれば、この連立方程式も大きくなる。

正規直交基底

座標は内積 回で出る。 が増えても手順は変わらない

一般の基底

元連立方程式を解く。逆行列を作るか掃き出し法を回す

長さと内積が成分の計算に落ちる

正規直交基底で書くと、内積は座標の積和になる。、 とおいて展開すればよい。

が のときだけ なので、二重和が一重和につぶれる。

とおけば長さの式になる。これをパーセバルの等式と呼ぶ[4]。

上の例で確かめると 、右辺は で合う。

例: で座標を出す

次の 3 本は正規直交基底になる。

長さはどれも 。内積は のように、3 組とも になる。

の座標を出す。

パーセバルで確かめると 、 で一致する。

途中で切ると足りなくなる

本そろっていない正規直交系でも、係数は同じ式で出る。ただし足し戻しても には届かない。

本しか使わないと、長さの二乗は不等式になる。ベッセルの不等式と呼ぶ[5]。

上の の例で と だけを使うと で、 に届かない。差の が 方向に残った成分である。

等号が成り立つのは が の張る空間に入っているときに限る[5]。すべての で等号になるなら、その正規直交系は完全、つまり基底になっている。

正規直交系をとる

係数は内積で決まる

二乗の和が長さに届けば基底

行列として見ると直交行列になる

正規直交基底を列に並べた行列を とおく。 の 成分は、第 列と第 列の内積である[2]。

正方行列なら になり、逆行列を転置だけで書ける。これが直交行列である。

長さも保たれる。 となるためだ。

座標を出す操作は、行列で書けば という 1 回の積になる。

一般の基底なら で、逆行列を作る手間がかかる。転置で済むのが正規直交の利点。

例:関数の正規直交系

区間 上の連続関数に、次の内積を入れる。

このとき三角関数の族が正規直交系になる[3]。

長さが になるのは だからで、 で割ってちょうど 。

このときフーリエ係数は、まさにフーリエ級数の係数になる。名前が同じなのは偶然ではなく、有限次元の話をそのまま無限次元へ伸ばした結果である[5]。

例: の別の正規直交基底

、 も正規直交基底になる。-- の直角三角形から作った組である。

の座標は 、。

二乗の和は で に一致する。基底を回しても長さが変わらない、という事実がここに出ている。

の正規直交基底で、ベクトル の座標が でした。 はいくらですか。

__RESULT__

パーセバルの等式から なので です。座標を足す()のでも、いちばん大きい成分をとるのでもなく、二乗して足します。

正規直交でないとどうなるかも確かめる。

基底 が直交していないとき、 は何を表しますか。

  • 方向の座標
  • 座標ではない値
  • の長さ
__RESULT__

座標が内積に一致するのは正規直交基底のときだけです。直交していないと が残り、他の成分が混ざります。この場合の座標は連立方程式を解いて出します。

直交させて長さをそろえる。この下ごしらえを済ませておくと、座標も長さも内積の計算だけで片づく。

参考

Orthonormal basis. StatLect.
David Austin. *Orthogonal bases and projections*. Understanding Linear Algebra.
Orthonormal system. Encyclopedia of Mathematics.
Parseval's identity. Wikipedia.
Bessel inequality. Encyclopedia of Mathematics.
$v = (3, 1)$ の座標は、基底が正規直交なら内積 2 回で出ます。$\langle v, u_1 \rangle = 2\sqrt{2}$、$\langle v, u_2 \rangle = \sqrt{2}$。直交していない基底では、同じことをするのに連立方程式を解く。長さも成分の二乗和に落ちて、$8 + 2 = 10$ とパーセバルの等式で確かめられます。正規直交系がそれだけで一次独立になる理由、$m$ 本で切るとベッセルの不等式になる話、列に並べた行列が $Q^{\mathsf{T}}Q = I$ を満たすところ、三角関数の族が同じ形の正規直交系になるところまで。