内積空間の定義と例

内積空間は、ベクトル空間に長さと角度の概念を導入した構造である。幾何学的な直観を抽象化し、関数空間など幅広い対象に適用できる。

内積の定義

実ベクトル空間 上の内積とは、写像 で次の条件を満たすものである。

対称性:
第一引数の線形性:
正定値性: かつ

対称性と第一引数の線形性から、第二引数についても線形性が従う。内積が定義されたベクトル空間を内積空間と呼ぶ。

複素ベクトル空間の場合は、対称性を (エルミート対称性)に置き換える。

ノルムと距離

内積からノルム(長さ)が定まる。

さらに距離も定義できる。

これにより内積空間は距離空間の構造をもつ。

内積空間の例

最も基本的な例は の標準内積である。

関数空間にも内積を定義できる。区間 上の連続関数の空間では

が内積になる。この内積は直交関数系やフーリエ級数の理論で重要な役割を果たす。

行列空間にも内積を定義できる。 行列の空間では

が内積になる。これをフロベニウス内積と呼ぶ。

コーシー・シュワルツの不等式

内積空間における最も重要な不等式はコーシー・シュワルツの不等式である。

等号が成り立つのは が一次従属のときに限る。この不等式から三角不等式 が導かれる。

直交性

のとき、 は直交するという。直交の概念は内積によって初めて意味をもつ。直交性を用いて射影や分解を定義でき、最小二乗法など応用上も重要である。