台車を坂の上から放します。速くなっていくのは重力が引いているからですが、レールも台車を押しています。まずはこの 2 つを分けます。
レールが押す向きは、いつでも面に垂直です。台車が進むのは面に沿う向きですから、この 2 つは直角に交わります。
力が仕事をするのは、動いた向きに成分を持つときだけです。垂直抗力は進む向きの成分を持ちません。ですから、どれだけ強く押していても仕事は です。
速さを変えているのは重力だけ、ということになります。レールは台車の向きを変えるだけで、速さには手を出しません。これがこの先の話の土台になります。
重力がする仕事は、位置エネルギーの減り方として書き直せます。高さ のところでの位置エネルギーは です。
高さをどこから測るかは、決めてしまえばどこでもかまいません。 の値そのものは基準で変わりますが、使うのは差だけだからです。図では平らな区間を に取ってあります。
大事なのは、 が高さだけで決まることです。台車がコースのどこにいるかではなく、どれだけ高いかしか効きません。同じ高さなら、坂の途中でもループの横でも同じ値です。
ここに道すじが出てきません。それがこの講義の題です。
運動エネルギーは です。これと の和を力学的エネルギーといいます。
仕事をするのは重力だけでした。そして重力がする仕事は、そのまま の減りです。ですから が増えた分だけ が減り、和は変わりません。
図の棒がその和です。境目は動きますが、全長は動きません。坂を下れば境目が寄って が増え、丘を登れば戻ります。
式にすると です。放したところでは でしたから、右辺には だけが残ります。
いまの式を について解きます。 です。
質量が消えました。重い台車も軽い台車も、同じ高さから放せば同じ速さになります。
道すじも消えました。急な坂でも緩い坂でも、同じ高さまで下れば同じ速さです。図の 2 台は形の違う道を通っていますが、破線が同じ高さを指しているあいだ、矢印の長さは変わりません。
違うのは、そこへ着くまでの時間です。急な坂のほうが早く着きます。速さは高さで決まり、時間は道すじで決まる。この 2 つを混ぜないことです。