前の講義で、摩擦力の限界が だと分かりました。 は面と面の組み合わせで決まる数で、木と木、氷と金属というように、触れ合っているものの種類が変われば変わります。動くのはもう一つのほう、 です。
は垂直抗力、つまり面がものを押し返している力です。面をどれだけ強く押しているか、と言い換えてもかまいません。
図で、ブロックを上から押しつけてみます。押した分だけ面は強く押し返すので、 と伸びます。すると限界の目印も、同じ割合で遠ざかっていきます。手を緩めれば、両方が戻ります。
は一度も変えていません。動いているのは だけです。紙を押さえつけると消しゴムで消しにくくなるのも、押さえた手が を増やしているからです。
逆に を減らすこともできます。ものを引くとき、真横ではなく少し上へ向けて引いてみてください。
引く力 を水平と鉛直に分けます。横向きの成分 がものを動かそうとする分、上向きの成分 が重力を肩代わりする分です。面が受け持つのは残りだけになるので、 となります。
図で角を起こしていくと、 の矢印が縮み、限界の目印が近づいてきます。引く力の大きさは最後まで変えていません。変えたのは向きだけです。
重い荷物を引きずるとき、真横に引くよりも少し上へ向けたほうが軽く感じます。横向きの成分は のぶん減りますが、それ以上に限界のほうが下がるからです。ただし起こしすぎると横向きの成分がなくなって、今度は進まなくなります。
ここで一つ、直感に反することを見ておきます。摩擦力は接触面積によりません。
図の 2 つは同じものです。左は寝かせて置き、右は立てて置いてあります。床に触れている幅はずいぶん違いますが、限界の目印は同じ距離にあります。同じ力で押していくと、2 つは同じ瞬間にすべり出し、そのあとも並んで進みます。
広く触れているほうが摩擦も強そうに思えます。ところが、広くなるぶん 1 か所あたりが受け持つ押しつけは弱くなります。この 2 つが打ち消し合うので、差し引きで面積は消えてしまいます。
という式に、面積を表す文字は 1 つも入っていません。入っているのは、面の種類を表す と、押しつけの強さを表す だけです。式がそう言っている、というのがいちばん確かな答えです。
3 つをまとめます。 は面をどれだけ押しているかで、上から押す力は足し、斜め上へ引く力の鉛直成分は引きます。図のように両方はたらいていれば です。
摩擦の限界は、この に を掛けただけのものです。 を先に求めてから を作る。この順番を崩さなければ、どんな置かれ方をしていても迷いません。
図では押す力と引く角を交互に強めてあります。押しているときは目印がいちばん遠くなり、引き上げているときはいちばん近くなります。同じ 、同じ重さのままで、これだけ変わります。
次の講義では、面そのものを傾けます。斜面に置いたとき が何になるかが分かれば、すべり出す角が決まります。