ここまで扱ってきたものには、大きさがありませんでした。ばねに吊るしたおもりも、投げた球も、点として扱ってきました。こういう扱い方を質点といいます。
質点がつり合う条件は 1 つだけです。はたらく力をぜんぶ足して 0 になること。それだけで、動き出すことはありません。
大きさのあるものでも、力を 1 点に集めているかぎりは同じです。図の棒には、同じ大きさで逆を向いた 2 力が、まったく同じ点にかかっています。合力は 0 で、棒はそこから動きません。2 力をそろって強めても、そろって弱めても、動きません。
ところが、大きさのあるものには質点になかった自由があります。回るという自由です。
いまの 2 力を、大きさも向きも変えずに、棒の両端へ離してかけてみます。
足し算は何も変わりません。同じ大きさで逆を向いているのですから、合力はやはり 0 です。式に書けば で、前の場面とまったく同じです。
それなのに、棒は回りはじめました。同じ式なのに、結果が違う。ということは、合力だけでは足りなかったということです。
足りなかったのは、力をどこにかけたかという情報です。質点では力の作用点がどこでも同じでしたが、大きさのあるものではそこが効きます。こうして回そうとするはたらきを、力のモーメントといいます。
では、回そうとするはたらきの大きさは何で決まるのでしょうか。ドアを押すところを思い出してください。丁番の近くを押しても重く、遠くの端を押せば軽い。同じ力でも、離れているほうがよく回ります。
決めているのは、力の大きさと、支点から力までの距離の積です。この距離を腕といい、積を と書きます。
図は天びんです。左には小さい力を遠くにかけ、右には大きい力をかけて、その位置を動かしています。右を近づけていくと、どこかで水平になります。 になったところです。そこを通り過ぎれば、また傾きます。
力の大きさが違っても釣り合うのは、腕の長さで埋め合わせているからです。小さい力を遠くにかければ、大きい力を近くにかけたのと同じだけ回せます。
まとめます。大きさのあるものがつり合うには、条件が 2 つ要ります。力の和が 0 であることと、モーメントの和が 0 であることです。 と を、どちらも満たさなければなりません。
モーメントはどの点のまわりで測ってもかまいません。つり合っていれば、どこで測っても和は 0 になります。これは計算のうえでとても都合がよく、うまい点を選べば、知りたくない力を消してしまえます。次の講義で実際にそうします。
図では棒を 2 点で支え、重さを真ん中にかけています。右の支えを動かすと、2 つの支えが受け持つ割合が変わります。それでも合力は 0 のまま、モーメントの和も 0 のままなので、棒は動きません。
受け持つ割合は、支点のまわりのモーメントのつり合いから決まります。右の支えを重さから遠ざけるほど、右のぶんは減り、左が増える。重い荷物を 2 人で運ぶとき、荷物に近いほうが重く感じるのと同じことです。