防火を理由に緩んだ建ぺい率 数年前の規制緩和は誰のためだったのか
2026年7月9日 21:54
数年前、建ぺい率が緩められた。防火を理由に。燃えにくい建物を建てれば、敷地に建てられる面積の上限が上がる。ねらいは密集市街地の火災対策だという。だが、規制を緩めれば街の空地は減り、得をするのは土地を持つ側だという見方もある。数年前の緩和を、いま問い直す。
きっかけは糸魚川の大火
2019 年 6 月、改正建築基準法が施行され、準防火地域の耐火・準耐火建築物の建ぺい率が 10% 緩められた。背景には、大きな火災があった。
背景には、約147棟の建物が焼損した新潟県・糸魚川大規模火災など、近年の大規模火災による甚大な被害があります。住宅などが密集する準防火地域の建ぺい率を緩和することにより、延焼防止性能が高い建物への建て替えを促進するための法改正です。
パナソニック ホームズ(建築基準法改正で建ぺい率が10%緩和)
国土交通省の資料は、危険な密集市街地が準防火地域の約 8 割、防火地域の約 1 割に及ぶとし、燃えにくい建物への建て替えを促すために、それまで防火地域に限られていた緩和を準防火地域へ広げた。理屈のうえでは、防災のための規制緩和である。
「消防法」ではなく建築基準法
まず整理しておきたい。この緩和は「消防法」ではなく「建築基準法」の話だ。建ぺい率は建築基準法 53 条で定められ、防火地域の耐火建築物、準防火地域の耐火・準耐火建築物、そして角地は、それぞれ上限に 10% を上乗せできる。さらに、もともとの建ぺい率が 80% の地域で、防火地域内に耐火建築物を建てると、上限そのものがなくなる。実質 100% だ。消防法は消火設備や防火管理などを定める別の法律で、建ぺい率の上乗せは、建築基準法の防火地域・耐火建築の要件で決まる。
消えるのは「空地」
疑問がくすぶるのは、この緩和が建ぺい率本来の役割を削るからだ。建ぺい率は、敷地に一定の空地を残し、日当たりと風通しを確保し、火を燃え移りにくくするための制限である。緩めれば、その空地が減る。とくに実質 100% になると、隣地の境界ぎりぎりまで建てられる。通常は民法で境界から 50cm 離すよう求められるが、その距離も実質的に外れる。「耐火建築なら延焼しにくい」という前提に立った緩和であり、前提が揺らげば、密集と防災のリスクがかえって高まりかねない。防火を掲げながら街の余白を削るという逆説が、ここにある。
誰のための規制緩和か
建ぺい率にせよ、容積率や高さ制限にせよ、規制を緩めれば、より大きく建てられる。増えた床は収益になり、土地の価値も上がる。だから緩和の恩恵は、土地を持つ側とデベロッパーへ向かいやすい。この構図には、行政が開発事業者に寄り添いすぎているのではないか、という批判がある。弁護士 JP ニュースは、高さ規制の緩和をめぐってこう書く。
行政が積極的に高さ規制をはずし、民間デベロッパーが開発しやすいように誘導しているとも受け取れる。
弁護士JPニュース(「タワマン乱立」背景に高さ規制大幅緩和 行政のデベロッパーファーストか)
同じ記事は、デベロッパーが不動産の価値を「縦」に積み上げて稼ぐ一方で、「横」に広がる街そのものの価値が見落とされていると指摘する。1990 年代半ばからの容積率の大幅緩和で、湾岸にタワーマンションが林立したのも、規制を緩めて床を増やす政策の帰結だった。
「大地主が動かした」のか
建ぺい率の緩和をめぐっては、大きな土地を持つ地主が背後にいる、という見方も語られる。ただ、今回調べた範囲では、それを裏づける確かな資料は見つからなかった。ここで断定はしない。確かなのは、床を増やす規制緩和が、土地を持つ側の利益と結びつきやすいという構図だ。防災という公共の目的と、地権者やデベロッパーの私的な利益は、同じ一つの緩和の表と裏になりうる。だからこそ、誰の負担で誰が得をするのか、制度の設計と説明責任が問われ続ける。防火を大義にした数年前の建ぺい率緩和は、その問いを先取りしていた。