ワンルームマンション投資はなぜ社会問題になったのか 勧誘・サブリース・不正融資の全体像
2026年7月9日 22:12
「節税になる」「年金の代わりになる」「生命保険の代わりになる」。耳あたりのいい言葉で、不動産の知識が浅い会社員に売られてきたのが、投資用のワンルームマンションだ。だが、その多くは割高で、家賃を保証するはずのサブリースは途中で減らされ、出口では借金だけが残る。強引な勧誘、書類の改ざん、銀行の不正融資までが絡み、訴訟が相次いだ。その象徴が「かぼちゃの馬車」事件である。全体の流れを整理する。
売り文句と、割高のからくり
勧誘は電話から始まることが多い。狙われるのは、知識は浅いが融資を受けやすい会社員だ。「節税」「年金」「生命保険代わり」を並べ、将来の不安をあおる。だが新築ワンルームの価格には、広告費と販売会社の利益が厚く乗る。買った瞬間に中古となり、市場価格まで下がりやすい。示される「表面利回り」は満室を前提にした数字で、管理費や修繕、空室、金利を含まない。国民生活センターは、若い世代への強引な勧誘に繰り返し注意を促してきた。
マンションへの投資にはリスクがあり、必ず儲かるわけではありません
国民生活センター(20歳代に増える投資用マンションの強引な勧誘に注意)
断っても続く勧誘や、深夜・長時間の勧誘は、宅地建物取引業法で禁じられている。それでも被害が絶えないのは、売れば売るほど営業担当の実入りが増える仕組みが、勧誘を強く後押しするからだ。
サブリースという時限爆弾
多くの契約には「サブリース(家賃保証)」がつく。「30 年家賃保証」とうたっても、借地借家法のもとでは、保証する側の会社があとから家賃の減額を求められる。「減額しない」という特約さえ、無効とされることがある。だから、物件が古びて空室が増える頃に、保証賃料は 2〜3 割も引き下げられ、あるいは打ち切られる。国はようやく規制に動いた。2020 年 12 月に施行された賃貸住宅管理業法(サブリース新法)は、次のように定める。
実際の契約条件よりも良い条件だと一般消費者に誤認させるおそれのあること、著しく事実に相違する表示をすること、ある事項を表示しないことにより結果として誤認させることを禁止しております。
国土交通省(賃貸住宅管理業法・サブリースの適正化)
「家賃保証」という言葉のそばには、将来減額されうることを併記するよう求められるようになった。裏を返せば、それまでは「保証」の一語だけが独り歩きしていた。
「かぼちゃの馬車」と銀行の不正融資
問題が最も鋭く噴き出したのが、女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」だ。運営会社のスマートデイズは「頭金 0 円・30 年家賃保証・利回り 8%」といった好条件を掲げ、会社員を中心に 700 名を超えるオーナーへ物件を売った。融資の多くはスルガ銀行が担った。ところが 2018 年 1 月、サブリース料の支払いが止まり、会社は破綻。保証を当てにローンを組んだオーナーは返済不能に陥り、自己破産する人も出た。金融庁はスルガ銀行を処分し、その手口をこう記した。
チャネルが、当行の融資審査を通すために、(ⅰ)自己資金のない債務者の預金通帳の残高の改ざん、(ⅱ)債務者の口座へ所要自己資金の振り込み(見せ金)、(ⅲ)一定の年収基準を満たすよう債務者の所得確認資料の改ざん、(ⅳ)売買契約書を二重に作成、等を実施している。
金融庁(スルガ銀行株式会社に対する行政処分について)
金融庁は 2018 年 10 月、スルガ銀行に新規の投資用不動産融資を半年間停止させた。通帳の残高を書き換え、年収を偽り、金融機関用に水増しした二重の契約書を作る。返済能力を偽って、割高な物件に過大な借金を負わせる。これが「スルガスキーム」と呼ばれた手口だ。
帳消しと、終わらない後始末
かぼちゃの馬車の被害者は弁護団を作り、スルガ銀行と交渉した。2020 年 3 月、オーナーが土地建物を手放せば残る借金を帳消しにする「代物弁済」方式で和解が成立する。詐欺的な融資からの救済として前例が少なく、以後も 2022 年まで複数回にわたり、あわせて千人規模のオーナーの借金が帳消しにされた。「帳消しは甘すぎる」という批判も出たほどだ。だが、話はそこで終わらない。シェアハウス以外の投資用不動産、つまりアパートやワンルームでも、同じ不正が続いていたことがわかってきた。スルガ銀行の投資用不動産融資の被害総額は 5000 億円を超えるとも言われ、約 3 万 8 千物件のうち 2 割ほどで書類の改ざんや偽造が見つかったとされる。組織的な交渉先は 2025 年 9 月末でも 694 物件が残り、2025 年 5 月には金融庁が解決の長期化を問題視して報告徴求に踏み切った。判決ではスルガ側の損害賠償責任は認められておらず、救済のかたちは被害者によって大きく異なる。
広がる警鐘、変わらぬ核心
いま YouTube には、「ワンルーム投資はやめとけ」「詐欺まがいの手口」を告発し、注意を促す動画が数多く上がっている。被害の記憶と、繰り返される勧誘への警戒が、そうした発信を後押しする。だが、規制や自衛が追いつくかは別の問題だ。核心は単純である。借金で割高な物件を買い、減額を前提にした「保証」と、審査を通すための書類の改ざんが重なれば、あとに残るのは返せない借金だ。「必ず儲かる」という言葉こそ、最も警戒すべき合図だといえる。