対話型AI「Claude(クロード)」を開発する米アンソロピック(Anthropic)は2026年7月9日、元米連邦準備制度理事会(FRB)議長のベン・バーナンキ氏を、同社の独立監督機関「長期利益信託(Long-Term Benefit Trust、LTBT)」の新メンバーに起用したと発表した。バーナンキ氏は2006年から2014年までFRB議長を務め、2008年の世界金融危機で中央銀行を指揮した人物で、2022年にはノーベル経済学賞を受賞している。就任にあたり、本人は次のように述べた。

The potential of artificial intelligence is enormous, and so is the range of outcomes.

Anthropic

長期利益信託は、2023年に設けられたアンソロピック独自のガバナンス機構で、取締役会の上位に立ち、取締役の過半数を任命・解任する権限を持つ。受託者は株式を保有せず、経営陣や投資家から独立した立場で、AIの長期的な利益がリスクを上回るように監督する役割を担う。バーナンキ氏は4人目の受託者で、とくに「AIが経済や労働市場にどう影響するか」という分野で知見を提供する。共同創業者で社長のダニエラ・アモデイ氏は、起用の狙いをこう説明した。

AI may have the most significant economic effects of any technology in modern history, and Anthropic has a dual responsibility to understand those effects and to act on them.

Anthropic

AIの経済衝撃に備える

アンソロピックは2021年にOpenAI出身のダリオ・アモデイ氏(CEO)らが設立したAI企業で、安全性を重視する開発を掲げる。アモデイCEOは、AIがホワイトカラーの仕事の一部を代替しうると繰り返し警告しており、AIが雇用やマクロ経済に与える衝撃は業界の主要な論点になっている。金融危機とその後の景気回復を指揮した経済政策の第一人者を監督機構の中枢に据える今回の人事は、AI企業のガバナンスが成熟しつつあることを示す動きと受け止められている。

報道によると、アンソロピックは2026年6月に米証券取引委員会(SEC)へ新規株式公開(IPO)を秘密裏に申請したとされ、直近の資金調達後の企業価値は約9650億ドルに達すると伝えられる。今後の焦点は、上場の行方に加え、バーナンキ氏がAIの経済分析にどう貢献するか、そして信託が数年内に取締役会の過半数を握るという独特の監督モデルが実際に機能するかである。