クルル次元は素イデアルの鎖の長さで決まる
可換環 のクルル次元とは、素イデアルの鎖がどこまで長くなれるかを測った数です[1,4]。
この形の鎖の長さは 、つまり真の包含の本数で数えます。素イデアルの個数ではありません[1]。
長さの上限をとったものが です。上限なので、有限の値になるとは限らない。
数えるのは矢印の本数
素イデアルを 個並べた鎖の長さは です。個数から を引く、と覚えても同じことになる。
この のずれが効く。体には素イデアルが ひとつだけあり、鎖は 個で終わるので長さは 。
玉が 個増えるたびに線が 本増える。だから体の次元は 、 は になります。
例: 体の次元は 0
体 の素イデアルは だけです。真のイデアルが しかないので、鎖はそこで打ち止め。
長さ の鎖しか作れないので になる[1]。 点だけの空間、という幾何の像と合います。
例: 整数環の次元は 1
の素イデアルは と です。鎖は の 段だけ伸びる。
の上には しかなく、 は素イデアルに数えません。したがって です[1]。
体でない単項イデアル整域なら、どれも同じ理由で 次元になる[1]。 もここに入る。
例: 多項式環は変数の本数
体 上の の次元は です[1,3]。変数を 本足すごとに、鎖が 段長くなる。
変数なら、次の鎖が長さ を実現します。
平面、直線、点という 段の図形に対応する。図形の次元が と落ちていくので、鎖の段数と一致する。
次元 0 の環
すべての素イデアルが極大になる環は、クルル次元が です[5]。鎖が 段も伸びる余地がないため。
体はその最小の例。 が素であると同時に極大でもあります。
アルティン環もここに入ります[1]。 の素イデアルは の像だけで、それが極大になる。
も 次元です。素イデアルは と の つで、どちらも上に何も持ちません。
高さ
素イデアル の高さとは、 に含まれる素イデアルだけで作った鎖の長さの上限です[1,4]。
局所化の次元として言いかえられます[4]。 より上を切り捨てて、下だけを見る操作にあたる。
環の次元は、素イデアルの高さの上限として書き直せます[1,4]。極大イデアルだけ見れば足りる。
鎖はどれも極大イデアルまで伸ばせるので、途中で止まった鎖を数える必要がありません。
クルルの標高定理
ネーター環で、 が 個の元で生成されるイデアルの極小素イデアルなら、 が成り立ちます[1,4]。
生成元の本数が高さを抑える、という形の定理です。 の場合が単項イデアル定理で、 個の元で切ると高さは か にしかならない[4]。
幾何で言えば「 本の方程式を課すと次元が しか落ちない」に当たる。 本課しても より多くは落ちない。
逆向きも成り立ちます。高さ の素イデアルは、 個の元が生成するイデアルの極小素として実現できる[1]。
割ると次元は増えない
イデアルで割っても次元は上がりません。 が成り立つ。 の素イデアルは を含む素イデアルに対応するので、鎖の候補が減るだけです。
局所化でも同じ。 なので、 を超えません。
ネーター局所環で をとると、次の不等式が立ちます[4]。
が極小素イデアルのどれにも入っていなければ等号になる[4]。 本の方程式で切って次元がちょうど 落ちる状況が、この等号にあたります。
超曲面は 1 つ落ちる
次元のアフィン空間の中で、 つの方程式 が定める図形は 次元です[3]。
環の言葉では となる。標高定理が保証する落ち方の、いちばん素直な形です。
球面 なら 次元。曲面としての次元と一致する。
有限生成代数の次元は超越次数
体 上の整な代数多様体では、次元が有理関数体の超越次数に一致する[3]。
の分数体は で、 上の超越次数が 。次元 と合っています。
代数的な独立変数が何本とれるか、という数え方に翻訳できる。幾何の「自由に動ける方向の本数」と同じ発想になる。
局所環は有限、環全体は無限もある
ネーター局所環の次元は必ず有限です[1]。極大イデアルが一つなので、鎖の伸びる先が限られる。
ネーター環全体では有限とは限りません。永田がクルル次元の無限なネーター環を作っています[1]。
作り方は、高さがいくらでも大きい極大イデアルを無限に並べるというもの。各点では有限なのに、全体の上限が発散する。
「昇鎖が止まる」という条件は、鎖の長さに一様な上限を与えません。ここが直感からずれるところ。
変数を 1 本足すと 1 増える
の次元が になるのは、この公式からです。 が 次元なので 。
ネーター性を落とすと崩れる。 のとき は から のあいだのどこかにしか定まりません[1]。
形式的冪級数環でも同じ形が成り立つ[2]。 です。
幾何との対応
の閉集合のうち既約なものを並べた鎖の長さでも、同じ次元が測れます[2,3]。
素イデアルと既約閉集合が対応するので、鎖もそのまま対応する。包含の向きは逆になる。
イデアルが太るほど図形はやせるので、素イデアルの鎖を上へたどることと、図形を小さくしていくことが同じ操作。 が成り立ちます。
位相空間に当てると 0 になる
同じ定義を位相空間へ持っていくと、思わぬ結果が出る。ハウスドルフ空間のクルル次元は です[2]。
既約な閉集合が 点だけになるためです。 に通常の位相を入れると、次元は ではなく になる[3]。
ザリスキ位相でないと意味をなさない、という点が見えます。閉集合が少ない位相だからこそ、既約なものが大きく育つ。












