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モニック多項式の根になる元を集める〜整拡大と整閉包

は の根なので 上整です。 は の根ですが、こちらは整ではありません。

差は最高次の係数だけ。モニックかどうかで結論が変わります[2]。

整元の定義

を環の拡大とします。 が 上整とは、 係数のモニック多項式の根になることです[2]。

この式を整従属関係といいます[2]。 のすべての元が 上整のとき、 を の整拡大と呼びます。

体の拡大での代数的という条件の、環の版にあたります。係数の分母を許さないぶん、条件は強くなる。

が整でないことは直接確かめられます。整従属関係に を掛けると 。左辺は奇数なので になりません。

canvas: 式は呼び出しにそのまま書いてください。この引数は焼けません -> drawMath(… item[0] …)

有限生成加群という言いかえ

整であることは、加群の有限性で言いかえられます[2,3]。

が 上整である。
が 加群として有限生成である。
を含む の部分環で、 加群として有限生成なものがある。

上から下は簡単です。整従属関係から が低い冪で書けるので、 が生成系になります[3]。

下から上には行列式を使います。生成系を とし、 と書く。

行列 が生成系をすべて消すので、Cramer の公式から行列式も環全体を消します。 が環に入っているので行列式が になり、展開すると整従属関係が出る[3]。

中山の補題と同じ手口です。行列式のトリックが、ここでも効いています。

整閉包は環になる

と が 上整なら、 と も整です[1]。

理由は 1 行で済みます。 が 加群として有限生成になるので、その中の元はすべて整[1]。

したがって の中で 上整な元の全体は部分環になります。これを における の整閉包といいます[3]。

和と積で閉じている、という事実が加群の有限性から出る。整従属関係を直接組み合わせる必要はありません。

推移性

で、 が 上整、 が 上整とします。このとき は 上整です[1]。

の整従属関係の係数 を集めて とおくと、 は 上有限。

は 上有限なので、あわせて 上有限になります。だから は 上整[1]。

系として、整閉包の整閉包はもとの整閉包に等しい。2 度とっても増えません。

整であることを加群の有限性に置きかえると、推移性が塔の公式に化ける。

有限次拡大を重ねると有限次になる、という体論の議論がそのまま通ります。

整であることと有限であること

が 代数として有限生成のとき、次が同値です[1,3]。

代数として有限生成というのは、 と書けること。加群として有限生成なら、もっと強い条件です。

は 代数として有限生成ですが、加群としては有限生成になりません。実際 は整でない。

有限生成という語がどちらの意味かで、話が変わります。

体になるかどうか

を整域の整拡大とします。 が体であることと が体であることは同値です[3,4]。

が体なら も体、という向きが面白いところ。 の逆元は の中にありますが、整従属関係に を掛けると の中で書けます[4]。

逆向きも同じ計算です。最小次数をとると定数項が でないので、そこから逆元が作れる[4]。

系として、素イデアル が極大であることと が極大であることが同値になります[4]。

素イデアルの動き方

整拡大では、素イデアルが行儀よくふるまいます。

Lying over。 の素イデアル に対し、 となる の素イデアルがある。
Incomparability。同じ の上にある 2 つが包含関係にあれば、それらは一致する。
Going-up。 の素イデアルの上昇列を、 の側へ延ばせる。

Incomparability の証明は局所化で済みます。 の上で考えると両方が極大イデアルになり、包含から一致が出る[4]。

は全射で、ファイバーの中に包含関係がない。ファイバーが離散的だということです。

次元が変わらない

Lying over と Going-up と Incomparability を合わせると、素イデアルの鎖が両側で対応します。

したがって整拡大では Krull 次元が保たれます。 です。

代数体の整数環が 上整なので、次元はどちらも 。有限次拡大をとっても次元は上がりません。

Noether の正規化定理は、この性質を使います。有限生成代数を多項式環の上に整にのせて、次元を多項式環の側で数える。

Going-up

整拡大というだけで成り立つ。上昇列を延ばせる

Going-down

下降列を延ばすには、下の環が整閉であることが要る

例をいくつか

は整拡大です。 が の根なので、生成元が整。

の における整閉包はガウス整数環 です[1]。

は整拡大ではありません。 が整でないためです。

体の有限次拡大 は整拡大です。代数的であることと整であることが、体の上では同じ意味になります[3]。

局所化しても整のまま

を の乗法的集合とします。 が 上整なら、 は 上整です[1]。

の整従属関係は、 の関係式の係数を の冪で割ったものになります。分母がそろうので、そのまま関係式が立つ。

有限であることも同じように保たれます[1]。だから整性の議論を局所化に持ち込めます。

、 とします。 は 上整ですか。

  • 整である
  • 整でない
  • 整だが有限生成加群ではない
__RESULT__

が 上整でないので、 は整拡大になりません。 は 代数としては有限生成ですが、加群としては有限生成にならず、この 2 つの条件が食い違う例になっています。

まちがえやすい点

モニックでない多項式の根を整だと思う。最高次の係数が であることが要ります。
代数として有限生成なら整だと考える。 が反例です。
Lying over を単射性と読む。全射性の主張で、ファイバーは複数の点を持てます。
Going-up が成り立つなら Going-down も成り立つと思う。後者には整閉性が要ります。
整拡大で次元が上がると考える。鎖の長さが対応するので変わりません。

分母を許さない。その一点で、素イデアルの動き方から次元の保存まで、まとまった性質が出てきます。

出典

Damian Rössler. *Commutative Algebra*, §8. University of Oxford.
Michel Waldschmidt. *Algèbre commutative*, §1.5. Institut de Mathématiques de Jussieu.
Wolfgang Soergel. *Kommutative Algebra und Geometrie*, §5.7–5.8. Universität Freiburg.
Nicolas Perrin. *Algèbre commutative*, §4. Université de Versailles Saint-Quentin-en-Yvelines.
$\sqrt{2}$ は $\mathbb{Z}$ 上整で、$1/2$ は整ではありません。差は最高次の係数だけ。整であることは $A[b]$ が有限生成加群になることと同値で、証明には行列式のトリックを使います。整閉包が環になること、推移性が塔の公式に化けること、$A$ が体であることと $B$ が体であることが同値になること。Lying over と Incomparability から素イデアルの鎖が対応し、Krull 次元が保たれます。