冪零元を足しても単元のまま(多項式環の単元と冪零元の判定)
で は単元です。 になる。
この は で、足した のほうは で冪零元です。偶然ではない。
冪零元は、単元に足しても単元をこわしません。この一点から、多項式環の単元の形まで決まる。
冪零元を 1 に足すと単元になる
とします。等比級数を 項で打ち切った式を、 にかけてみる。
右辺の は です。残るのは だけなので、 は単元になる。
という無限級数を、途中で打ち切った形。冪零だから打ち切れる、というのがこの計算の中身です。

例: で数える
の冪零元は です。、、。
単元のほうは の 4 個。並べると、単元は冪零元にちょうど を足したものになっています。
が単元になる、という事実がそのまま見える形。 で確かめると、。
単元に足しても単元
でなくても同じです。 を単元、 を冪零元とすると、 もまた単元になる。
は冪零元です。 になるため。かっこの中は単元で、単元どうしの積だから全体も単元。
つまり冪零元は、単元の集合を動かしません。足しても単元は単元のまま、非単元は非単元のまま。
冪零元はどの極大イデアルにも入る
この性質から、冪零元の居場所が決まります。 が冪零なら、 のどの極大イデアル にも が入る。
と仮定します。 は極大なので になり、 と書ける 、 がとれる。
移項すると です。 は冪零だから、右辺は単元になる。
に単元が入ると になってしまう。極大イデアルは真のイデアルなので、矛盾します。
冪零元の全体は、すべての極大イデアルの共通部分に含まれます。この共通部分をヤコブソン根基といいます。
逆向きの包含は成り立ちません。ヤコブソン根基の元は「 に足すと単元」までしか言えず、冪零とは限らない。
多項式環では定数以外にも単元がある
を体とすると、 の単元は でない定数だけです。次数が で足し算になるため、 なら両方が定数。
係数の環に冪零元があると、話が変わります。 で を 2 乗してみる。
なので、途中の項が消えました。 は自分自身を逆元に持つ単元になる。
次数の議論が通らないのは、 のせいで最高次の係数が消えるため。
単元の判定
一般に、 が単元であるための条件は次のとおりです。
が の単元であること。
がすべて の冪零元であること。
が体や整域なら冪零元は だけなので、 になる。定数しか単元にならない、というさきほどの話がこの特別な場合。

なぜ高次の係数が冪零になるのか
条件がそろえば単元になる側は短く済みます。 は冪零元の和なので冪零で、 は単元 に冪零元を足した形。さきほどの結果から単元です。
逆向きは、最高次から順に押さえていく。 とし、 と置く。
定数項を比べると で、 は単元になります。最高次の項を比べると 。
ここから が についての帰納法で従います。 の係数を見て、 をかけると、帰納法の仮定で余分な項が消えるため。
まで進むと で、 は単元だから 。 が冪零だと分かります。
すると も冪零なので、 もまた単元になる。次数が 1 つ下がった多項式に同じ議論をあてれば、 も冪零です。
定数項から a0 が単元だと分かる
最高次から an が冪零だと分かる
最高次の項を引いて次数を下げる
同じ議論を繰り返す
例: の単元を並べる
の単元は と 、冪零元は と です。判定にあてはめると、単元は定数項が か 、他の係数が か の多項式になる。
| なので自分自身が逆元 | |
| 定数項が単元、他は冪零 | |
| の係数 が冪零でないので単元でない | |
| 定数項 が単元でないので単元でない |
次数がいくら高くても、係数が か なら単元のままです。体の上では起こらない。
多項式環の冪零元
冪零のほうも係数で読めます。 が冪零であることと、係数 がすべて冪零であることは同値になる。
で を 2 乗すると 。係数が両方 なので、確かに冪零になります。
同値の片側は、冪零元の和と積がまた冪零だという事実そのもの。もう片側は、単元のときと同じように最高次から順に押さえます。
冪級数環では条件がゆるむ
係数が無限に続く では、単元の条件が定数項だけになります。高次の係数に冪零という縛りがつかない。
が単元で、 以降がすべて冪零。項が有限個なので、冪零指数の最大値がとれる
が単元であればよい。逆元の係数を先頭から順に決めていけるため、打ち切る必要がない
で単元でない が、 では を逆元に持ちます。止まらない級数をそのまま書けるかどうかの差。
冪零のほうは、この対応が片側でしか成り立ちません。 で が冪零なら各係数は冪零ですが、逆は言えない。
多項式なら係数が有限個なので冪零指数の最大値をとれますが、無限に続くと最大値がとれないためです。
とするとき、 で単元になるのはどれですか。
が冪零、 が単元のとき、 について正しいのはどれですか。
- かならず単元になる
- かならず冪零になる
- 単元になるとは限らない
と書けます。 は冪零なので は単元、単元どうしの積だから全体も単元です。冪零にはなりません。 が冪零だとすると も冪零元の差で冪零になりますが、単元は冪零になれない。
冪零元は単元をこわさない。 に足しても、どんな単元に足しても単元のままで、その性質が多項式環の単元の形をそのまま決めています。













Z/9Z の冪零元は 0,3,6 で、単元は 3 の倍数でない元です。4+3x は定数項 4 が単元、x の係数 3 が冪零なので条件を満たします。1+x は x の係数 1 が冪零でなく、3+3x は定数項 3 が単元ではありません。