環のテンソル積はなぜ零因子を生じるのか?普遍性とファイバー積
を の上で とテンソルすると、体ではなく つの の積になります。
体を つ持ってきても、できあがる環に零因子が入る。テンソル積は積を並べるだけの操作ではありません。
加群のテンソル積を思い出す
を可換環、 と を 加群とします。テンソル積 は、双線型写像を線型写像に直す場所として決まります[1]。
双線型写像 があれば、線型写像 がただ つとれる。
を満たすものが、その です。
この条件だけで は同型を除いて決まります[2]。存在のほうは、 の自由加群を双線型性の関係式で割って組み立てる[2]。

環のテンソル積
と を 代数とします。加群としてのテンソル積 に、成分ごとの積を入れる。
この式だけでは定義になりません。 の書き方が 通りではないため、代表元によらないことを確かめる必要がある。
変数の写像 が各成分について線型だから、普遍性を 回使えば積が の上の写像として決まります[3]。
単位元は 。、 で 代数になる。
普遍性で言い直す
は、 代数の圏での余積です[5]。 と の両方から への準同型の組が、 から への準同型 つと対応します。
対応は、 と の組に を返す形です。像が の中で交わっても構造は決まる。

生成元と関係式で計算する
多項式環の商どうしなら、変数をまとめて関係式を足すだけで計算できる。
右辺の と は の中で生成したイデアルです。変数を並べ、両方の関係式を課す形。
なら 。テンソル積が変数を増やす操作になる。
この式が、以下の計算のほとんどを引き受けます。
例:
と書いて、上の式に入れる。片側は係数の側へ移す。
の中では が と分かれる。 と は互いに素なイデアルだから、中国剰余定理が使える。
を つ並べた環になりました。 と の積が で、零因子が生まれている。
もとの つはどちらも体でした。テンソル積は体を体へ写しません。
例: と
を計算します。 と見て、剰余の式を当てる。
と が互いに素なら で、テンソル積は です。。
でない加群を つ持ってきても、テンソル積が になることがある。
剰余と局所化はテンソル積で書ける
イデアルで割る操作も、分母を入れる操作も、テンソル積の形になります[1]。
。 の側で割ると、 の側でも が生成するイデアルで割れる。
。 の側で分母を入れると、 の側にも同じ分母が入る。
は になります。 を と書き直せて、右側が だから。
分母を入れる側と、割る側がぶつかると何も残りません。
右完全だが左は崩れる
とのテンソル積は右完全関手です[2]。完全列 に当てると、次も完全になる。
左端の単射性は残りません。 に をかけると、 が零写像に変わる。
もとの写像は単射でしたが、テンソルしたあとは単射ではありません。このずれを測るのが です。
ではファイバー積
環の側の余積は、空間の側では引き戻しになります[4]。
で 、 が座標環なら、 が 点だから、普通の直積になります。 が、直線 直線 平面にあたる。
のほうは、 点の上に 点が つ乗った形。 上の 点を へ広げると 点に分かれる、という事情が零因子として現れている。

保たれない性質
テンソル積を通すと落ちる性質があります。整域どうしでも整域とは限らないことは、 で見たとおり。
被約でもなくなる。標数 の体 と をとる。
で、 の中では です。
の類が冪零元になる。分離的でない拡大では、こういう形が現れる。
ネーター性も保たれません[3]。 とすると、 の中で次のイデアルが真に増え続けます。
ここで 、。 は体でネーター環ですが、 つのテンソル積は昇鎖条件を満たさない。
はどれと同型ですか。
に をテンソルすると、どうなりますか。
- 単射のまま残る
- 零写像になり、単射が崩れる
- 全射になる
で、 は の上で零写像です。テンソル積は右完全なので右端の全射性は残りますが、左端の単射性は保証されません。このずれを測る道具が になります。
と の両方から へ向かう準同型を 本にまとめる場所、それが です。空間の側では引き戻しにあたり、点が割れたり潰れたりする分だけ、環の側に零因子や冪零元が現れます。













Z/mZ⊗Z/nZ≅Z/gcd(m,n)Z で、gcd(4,6)=2 です。24 になるのは直積のほうの大きさで、テンソル積は最大公約数までしか残しません。0 になるのは互いに素なとき。