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ネーターの正規化定理|主張・証明・次元と零点定理

Noether 正規化定理は、有限生成な代数がいつでも多項式環の上に有限に載る、という定理です。

複雑な環を、変数だけからできた素直な環の上に乗せ換えられます。次元論と零点定理の土台になっている結果です。

以下では主張の読み方から始め、証明を無限体の場合と一般の場合に分けて追います。計算例を手で追い、ザリスキの補題と零点定理まで扱います。

定理の主張

を体、 を有限生成 -代数とします。このとき次をみたす が存在します。

上代数的独立である
上の加群として有限生成である

変数の多項式環そのものです。1 つ目の条件から、 の中でこの部分環は多項式環と同一視できます。

2 つ目の条件は「有限」と呼ばれ、整拡大より強い性質です。 上有限生成なので、この場合は整拡大であることと同じになります。

さらに のクルル次元に一致します。 が整域なら、商体の 上の超越次数とも一致します。

整域という条件は要らない

定理を「 が整域のとき」と限定して述べることがありますが、その必要はありません。

有限生成 -代数であれば、整域でなくても、零因子があっても、べき零元があっても成り立ちます。Stacks Project の定式化 の下で扱っています。

整域の仮定が効くのは次元の解釈のほうです。超越次数として書けるのは商体があるときなので、そこでだけ整域が要ります。

商体を持たない場合も は成り立ちます。準素分解に分けてから各成分に適用する、といった手続きは不要です。

直観: 多項式環の上へ有限に載せる

有限生成 -代数は の形をしています。関係式 のせいで、変数どうしが絡み合っています。

定理が言うのは、絡みをほどいて独立な方向 を選び直せる、ということです。残りの方向は、その上に有限個ぶんだけ乗ります。

が独立に動ける方向の本数で、これが次元にあたります。乗っている有限個は次元に寄与しません。

幾何的な意味

をアフィン多様体 の座標環としましょう。 は、射 に対応します。

有限であることは、この射が有限射であるという意味です。 が代数閉体なら、どの点の逆像も有限集合で、しかも空になりません。

HTML
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<svg viewBox="0 0 700 320" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" style="max-width:100%;height:auto;display:block;margin:0 auto"><line x1="110" y1="170" x2="420" y2="170" stroke="#8a8a8a" stroke-width="1"/><line x1="170" y1="300" x2="170" y2="35" stroke="#8a8a8a" stroke-width="1"/><polyline points="343,298 324,276 305,258 288,241 271,227 256,215 243,205 230,196 219,189 208,183 199,179 192,176 185,173 180,172 175,171 172,170 171,170 170,170 171,170 172,170 175,169 180,168 185,167 192,164 199,161 208,157 219,151 230,144 243,135 256,125 271,113 288,99 305,82 324,64 343,42" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="2"/><line x1="230" y1="144" x2="230" y2="196" stroke="#a8d2f5" stroke-width="6"/><line x1="290" y1="97" x2="290" y2="244" stroke="#a8d2f5" stroke-width="6"/><circle cx="230" cy="144" r="3.5" fill="#1b81e0"/><circle cx="230" cy="196" r="3.5" fill="#1b81e0"/><circle cx="290" cy="97" r="3.5" fill="#1b81e0"/><circle cx="290" cy="244" r="3.5" fill="#1b81e0"/><circle cx="230" cy="170" r="3" fill="#8a8a8a"/><circle cx="290" cy="170" r="3" fill="#8a8a8a"/><text x="470" y="106" font-size="14" fill="#1f1f1f">曲線を x 軸へ射影する</text><text x="470" y="136" font-size="12" fill="#8a8a8a">どの x の上にも点は有限個</text><text x="470" y="160" font-size="12" fill="#8a8a8a">しかも空にならない</text><text x="470" y="190" font-size="12" fill="#8a8a8a">これが有限射という条件です</text><text x="255" y="316" font-size="12" fill="#8a8a8a" text-anchor="middle">y² = x³</text></svg>

素朴には「 次元の中の多様体を 次元へ有限対一に潰す」と読めます。潰したあとも次元が変わらない、というのが定理の内容です。

代数的独立とはなにか

上代数的独立であるとは、 でない多項式 となるものが存在しないことをいいます。

言い換えると、 が単射だということです。像は多項式環と同型になります。

変数なら、超越的であることと同じです。 上代数的独立ではなく、 は代数的独立です。

整拡大と加群としての有限性

を環の拡大とします。 上整であるとは、 係数のモニックな多項式の根になることをいいます。

モニック、つまり最高次の係数が であることが要です。ここが でない定数なら割れば にできますが、変数を含むと割れません。

加群として有限生成なら、 のどの元も 上整です。逆に 上有限個の元で生成される代数で、その生成元がすべて 上整なら、 加群として有限です。

整拡大については整域の整閉性は局所化で保存するでも扱っています。

計算例: 整拡大かどうかを確かめる

とし、 とします。 は次のモニック多項式の根です。

係数 の元で、最高次は です。よって 上整で、 加群として で生成されます。

対して では事情が違います。 上整だと仮定しましょう。

両辺に をかけると となります。

左辺は定数項が の多項式なので ではありません。矛盾するので は整ではなく、 上有限でもありません。

証明の方針

とし、生成元の個数 についての帰納法で進みます。

が代数的独立なら、 と取って で終わりです。何もすることがありません。

独立でないなら、 でない があって です。この関係式を使って、生成元を 個に減らします。

減らし方の要点は、 が残りの元の上で整になるように座標を取り替えることです。 について整理したときの主係数を、定数にできればうまくいきます。

証明: 無限体の場合

を無限体とします。 の次数を とし、 次の項だけを集めた斉次部分を と書きます。

なので、 でない多項式です。次数 の単項式は、 の指数が残りから決まるため、互いに別の単項式へ写るからです。

が無限体なら、 でない多項式には値が にならない点があります。そこで となる を取ります。

新しい生成元を )と置きます。 を代入しましょう。

の最高次の項は、斉次部分 だけから出てきて、その係数は です。これは でない元でした。

割ってモニックにできるので、 上整です。

計算例: 一次変換で主係数を定数にする

を見ます。 について整理すると で、主係数は です。定数ではありません。

なので です。 を取れば条件を満たします。 としましょう。

と置き、 を代入します。

の主係数が になりました。 で割れば というモニック多項式が得られます。

証明: どんな体でも通る置き換え

が有限体だと、上の が取れないことがあります。値を にしない点が の中にないかもしれないからです。

そこで一次でない置き換えを使います。 に現れるどの指数よりも大きい を取ります。 で十分です。

新しい生成元を )と置き、 を代入します。

単項式 から出る の最高次数を書き下すと、次のようになります。

どの より小さいので、これは を桁とする 進表示です。 進表示は一意なので、違う単項式は違う次数を与えます。

したがって最高次の項は打ち消し合いません。その係数はもとの単項式の係数 で、 ではありません。

割ってモニックにできるので、 上整です。無限体という仮定は使っていません。

計算例: 指数を 進法で読む

を見ます。 なので と取りましょう。

単項式は の 2 つです。それぞれの最高次数を計算します。

で別の値になりました。 進表示で なので、桁が違えば値も違います。

最高次は で、係数は です。よって 上でモニックな 次方程式をみたします。

計算例: 有限体で一次変換が効かない

同じ の上で見ます。 次の斉次多項式なので です。

一次変換で使うのは の値でした。計算します。

の元は だけです。 なら なら になります。

どちらでも なので、一次変換では主係数を定数にできません。前の節の置き換えが必要になるのは、こういう場合です。

証明: 帰納法でまとめる

置き換えのあと、 で生成されます。 と書けるからです。

上整なので、 加群として有限です。

個の元で生成される -代数です。帰納法の仮定から、代数的独立な があって 上有限になります。

有限性は推移的です。 上有限、 上有限なら、 上有限です。

生成元の個数が減っているので帰納法が回り、証明が終わります。

計算例: 多項式環そのもの

とします。変数どうしに関係式がないので、 は代数的独立です。

と取れば、 上の加群として で生成されます。

正規化は何もしなくて済みました。 もここから読めます。

計算例: 平面曲線

とします。 はモニック多項式 の根なので、 上整でした。

加群として で生成されます。 を使えば、どの元も の形に直せるからです。

上超越的です。, と同一視でき、 上超越的だからです。

したがって で、 になります。曲線なので次元 、という直観と合っています。

計算例: 二次曲面

とします。 はモニック多項式 の根です。

は単射です。 だけの多項式が の倍数になるのは、 の次数を見れば のときだけだからです。

加群として で生成されます。よって で、 です。

曲面なので次元 になりました。この例では変数を取り替える必要がありません。

計算例: 双曲線では素朴な射影が効かない

とします。 をそのまま使えばよさそうに見えますが、うまくいきません。

と同型で、 上整ではありませんでした。 は有限ではないのです。

幾何的にも見えます。 軸への射影は、 の上に点を持ちません。逆像が空になる点があるので有限射ではありません。

そこで と取り直します。 は和が 、積が なので、次のモニック多項式の根です。

どちらも 上整なので、 上有限です。 上超越的で、 になります。

HTML
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<svg viewBox="0 0 700 300" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" style="max-width:100%;height:auto;display:block;margin:0 auto"><line x1="45" y1="150" x2="295" y2="150" stroke="#8a8a8a" stroke-width="1"/><line x1="170" y1="270" x2="170" y2="30" stroke="#8a8a8a" stroke-width="1"/><polyline points="180,34 183,64 187,81 190,93 194,101 197,107 200,112 204,116 207,119 211,122 214,124 217,126 221,127 224,129 228,130 231,131 234,132 238,133 241,134 245,135 248,135 251,136 255,136 258,137 262,137 265,138 268,138 272,139 275,139 279,139 282,140 285,140" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="2"/><polyline points="54,160 58,160 61,161 65,161 68,161 71,162 75,162 78,163 82,163 85,164 88,164 92,165 95,165 99,166 102,167 105,168 109,169 112,170 116,171 119,173 122,174 126,176 129,178 133,181 136,184 139,188 143,193 146,199 150,207 153,218 156,235 160,263" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="2"/><line x1="170" y1="30" x2="170" y2="270" stroke="#a8d2f5" stroke-width="6" stroke-dasharray="7 5"/><line x1="170" y1="270" x2="170" y2="30" stroke="#8a8a8a" stroke-width="1"/><circle cx="170" cy="150" r="4" fill="#ffffff" stroke="#8a8a8a" stroke-width="1.5"/><text x="170" y="36" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">x 軸へ射影</text><text x="170" y="292" font-size="12" fill="#8a8a8a" text-anchor="middle">x = 0 の上に点がない</text><line x1="395" y1="150" x2="645" y2="150" stroke="#8a8a8a" stroke-width="1"/><line x1="520" y1="270" x2="520" y2="30" stroke="#8a8a8a" stroke-width="1"/><polyline points="530,34 533,64 537,81 540,93 544,101 547,107 550,112 554,116 557,119 561,122 564,124 567,126 571,127 574,129 578,130 581,131 584,132 588,133 591,134 595,135 598,135 601,136 605,136 608,137 612,137 615,138 618,138 622,139 625,139 629,139 632,140 635,140" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="2"/><polyline points="404,160 408,160 411,161 415,161 418,161 421,162 425,162 428,163 432,163 435,164 438,164 442,165 445,165 449,166 452,167 455,168 459,169 462,170 466,171 469,173 472,174 476,176 479,178 483,181 486,184 489,188 493,193 496,199 500,207 503,218 506,235 510,263" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="2"/><line x1="486" y1="31" x2="639" y2="184" stroke="#a8d2f5" stroke-width="6"/><circle cx="537" cy="82" r="4" fill="#1b81e0"/><circle cx="588" cy="133" r="4" fill="#1b81e0"/><text x="520" y="36" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">x + y の方向へ射影</text><text x="520" y="292" font-size="12" fill="#8a8a8a" text-anchor="middle">どの t の上にも 2 点そろう</text></svg>

同じ多様体でも、射影の向きを変えると有限になったりならなかったりします。定理は「よい向きが必ずある」と言っています。

計算例: 次元が の場合

とします。これは体 です。

代数的独立な元は取れません。 のどの元も 上代数的だからです。よって です。

は変数が 個の多項式環、つまり 自身になります。 加群として で生成され、たしかに有限です。

に対応します。1 点だけの多様体だと思えばよいでしょう。

次元と超越次数

正規化が取れると、次元がすぐ読めます。有限射は次元を変えないからです。

が整域なら、商体 の代数拡大です。 の元が 上整だからです。

代数拡大では超越次数が変わりません。したがって次の等式が成り立ちます。

なお超越次数は商体について取ります。整域でない には商体がないので、この形では書けません。

直観: なぜ次元が超越次数になるのか

クルル次元は素イデアルの鎖の長さで定義され、超越次数は独立に動ける変数の本数です。定義の見た目はまるで違います。

正規化がこの 2 つを橋渡しします。 の上に有限に載せると、素イデアルの鎖が下の多項式環の鎖と対応します。

多項式環では、鎖の長さと変数の本数が一致します。 変数なら長さ の鎖が作れて、それより長くはできません。

上に乗っている有限個ぶんは、鎖を伸ばしません。だから の次元も になります。

証明: ザリスキの補題

を体とし、-代数として有限生成だとします。このとき の有限次拡大です。

正規化を使います。代数的独立な があって、 上有限、したがって整拡大です。

ここで整拡大についての事実を使います。 が整拡大で両方とも整域なら、 が体であることと が体であることは同値です。

は体なので も体です。ところが なら の中に逆元を持ちません。多項式環で の逆数は多項式にならないからです。

よって 、すなわち です。 加群として有限なので、 の有限次拡大になります。

証明: 弱形式の零点定理

を代数閉体、 を真のイデアルとします。 を示します。

は真のイデアルなので、極大イデアル に含まれます(極大イデアルの定義と性質)。

は体です。 の像で生成されるので、-代数として有限生成でもあります。

ザリスキの補題から、 の有限次拡大です。 は代数閉体なので真の代数拡大を持たず、 になります。

の像を と置きましょう。 の元はこの代入で になるので、点 の共通零点です。

なので、この点は の零点でもあります。よって です。

計算例: 零点定理を使う

を考えます。共通零点があるとすると かつ となり、 です。

共通零点はありません。零点定理の対偶から は真のイデアルではなく、 でなければなりません。

実際に を作ってみましょう。

が確かめられました。「解がない」という幾何の言明から「 が書ける」という代数の言明が出る、これが零点定理の使い方です。

一般化

いくつか方向があります。整域を仮定しなくてよいことは、すでに述べたとおりです。

次数付きの場合には斉次な正規化が取れます。 が次数付き -代数なら、 を斉次元に取れて、斉次パラメータ系と呼ばれます。

係数を体でなく一般の環にする一般化もあります。ただし形は変わり、基礎環の元を 1 つ逆にしてから述べるなど、条件が要ります。

下書きにあった「準素分解を用いて各成分に適用する」という手続きは要りません。定理そのものが整域を仮定していないからです。

よくある誤り

最後に、間違えやすい点を並べておきます。

整域でないと使えないと思う。有限生成 -代数なら整域でなくてよい
をもとの変数から選べると思う。座標の取り替えが必要なことがある
どの射影でも有限になると思う。 軸へ射影しても有限にならない
主係数が定数でなくてもよいと思う。定数でないとモニックにできず、整拡大が言えない
一次変換だけで足りると思う。有限体では取れないことがあり、べきの置き換えが要る
を生成元の個数だと思う。 は次元で、生成元の個数より小さいのがふつう
超越次数の式を整域でない場合にも使う。商体がないので、その形では書けない

どれも定義に戻れば防げます。有限であることと、主係数が定数であること。この 2 点が要になります。

参考文献

Wikipedia: Noether normalization lemma
Wikipedia: Zariski's lemma
Wikipedia: Hilbert's Nullstellensatz
Wikipedia: Integral element
Stacks Project: Noether normalization
Stacks Project: Dimension of finite type algebras over fields
有限生成な代数はいつでも多項式環の上に有限に載る、というのがネーターの正規化定理である。主張の読み方から始め、無限体の場合と一般の体の場合に分けて証明を追い、次元の等式とザリスキの補題、零点定理まで扱う。