被覆空間と基本群〜ループを持ち上げて閉じるかどうかを見る
で、実数直線 を円周 に巻きつけます。円周のループに対し、 で写すとそのループになる の道をとる操作が持ち上げです。
点 から 1 周するループは、 の から持ち上げると で終わり、閉じない。2 周なら から へ、逆向きに 1 周なら から へ持ち上がり、終点を見れば何周したかが分かります。
基点を動かさずにループを連続に変形しても、この終点は動きません[1]。被覆空間の点を見れば、基本群の元が見分けられる。
被覆写像の定義
連続写像 が被覆写像であるとは、 のどの点も次のような開近傍 を持つことをいいます[1]。 は互いに交わらない開集合の和に分かれ、どの開集合も によって へ同相に写る。
を被覆空間、 を底空間、 を の上のファイバーと呼びます。
冒頭の では、円周の短い弧 の逆像は、 と同じ長さの区間を ずつずらして並べたものです。 をらせんに描くと、それらの区間が の真上に積み重なる。

ファイバーは離散的な点の集まりで、 が連結なら点の個数はどこでも同じになります[2]。個数が なら 重被覆という。
| 、 | の上は の 乗根の 点 |
| 、 | の上は と の 2 点 |
| の分だけずれた点の全体 | |
| 、 | の整数倍ずつずれた点の全体 |
例:被覆にならない写像
から への は被覆写像ではありません。 の上のファイバーは だけで、ほかの点の上は 2 点になり、個数がそろわないため[3]。 に制限すれば 2 重被覆になる。
を区間 に制限した は全射で、各点の近くでは同相に写りますが、被覆写像にはなりません。
点 のまわりの短い弧 をとると、逆像は を含む区間と、 のすぐ右の短い区間 に分かれる。後ろの区間は、 の片側半分にしか写りません。

道の持ち上げも途中で止まる。 の を から まで動かす道を から持ち上げると、 になる。 が に近づくと は区間の端 に近づき、その先へは続きません。
道の持ち上げ
被覆写像 と、 の道 をとります。 の上の点 を 1 つ選ぶと、次の 2 つを満たす道 がちょうど 1 つある[1]。
この を から始まる の持ち上げといいます。
証明では を細かく分ける。定義の条件を満たす開集合 で を覆うと、 の全体がコンパクトな を覆い、ルベーグ数より短い小区間はどれも 1 つの の中へ写る[2]。
を小区間に分ける
最初の小区間は、 を含む開集合へ の逆写像で持ち上げる
その終点から次の小区間も同じように持ち上げる
有限回で に届く
持ち上げた小区間は連結だから、交わらない開集合のうち始点を含む 1 つに収まり、各段の持ち上げ方は 1 通りに決まる。
例:円周の 3 重被覆
、 とします。 の上のファイバーは、 として 、、 の 3 点です。
1 周のループ を から持ち上げると になる。 で、終点は です。
から持ち上げれば で、 から持ち上げれば で終わる。同じループの持ち上げを 3 回つなげたところで、はじめて出発点に戻ります。
ホモトピーの持ち上げ
から へ向かう の道 、 をとります。両端を止めたホモトピー で から へ変形できるとき、 の上の点 を選べば、 も を始点としてただ 1 つの に持ち上がる[1]。
示し方は道のときと同じで、正方形を小さな正方形に分け、左下から順に持ち上げていきます[2]。
持ち上げた正方形の左の辺は、 にとどまる定値の道の持ち上げなので から動かない。右の辺も定値の道の持ち上げで、1 点にとどまります[3]。
下の辺と上の辺は、 から始まる と の持ち上げ 、 そのものです。右の辺が 1 点だから、2 つの終点は一致する。

基本群がファイバーに作用する
の上にある点 と、 の元 をとります。 を から持ち上げた道の終点を と書く[2]。前の節から、終点は類 だけで決まる。
を持ち上げた終点から続けて を持ち上げると、つないだループ の持ち上げになります。だから次の式が成り立つ[2]。
これは、基本群がファイバーの点を動かす作用になっています。3 重被覆の例では、 が の順に 3 点を送っていた。
が弧状連結なら、この作用は推移的です。ファイバーの点 へ から の中で道を引いて で落とすと、 となるループ が得られる[1]。
例:射影平面のループ
は、 と を同じ点に写す 2 重被覆です。北極 から南極 へ大円の半分を進む道 をとり、 と置く。
と は では同じ点で、 は閉じたループになります。 から持ち上げると そのもので、 で終わる。
から持ち上げると になり、こちらは で終わります。 はファイバーの 2 点をいれかえる[1]。
を 2 回つないだループは、 から持ち上げると大円を 1 周して に戻る。 は単連結だからこの大円は の中で縮み、 で落とせば も縮みます。
自身は、持ち上げが閉じないため縮まない。 は位数 2 の元です[1]。
は単射になる
のとき、 から誘導される準同型 は単射です[1]。
のループ を で落としたループが、ホモトピー で定値のループへ縮むとする。 を から持ち上げると、一意性から始まりは 、終わりは定値のループになり、 も の中で縮む[1]。
像を と置く。 に入るのは から持ち上げたときに閉じるループの類で、作用でいえば を動かさない元の全体です[1]。
類は に入り、 となる。
類は の外にあり、 はファイバーの別の点へ移る。
例: の像
で、被覆空間の側を 1 周するループ を落とすと になり、底空間の円周を 周する。
と見れば、 は 倍する写像で、単射です。像は で、 から持ち上げて閉じるのは の倍数回まわるループに限られる[2]。
ファイバーの点と剰余類
と が弧状連結なら、次の対応は全単射です[1]。
左辺は の形の剰余類、右辺は の上にあるファイバーの点。
の元は を動かさないため、剰余類の代表を替えても行き先は変わりません。全射なのは、作用が推移的だから。
なら、 は を動かさずに に入り、 となるため、単射でもあります。
ファイバーの点の個数は、部分群 の指数に等しい[1]。
| 被覆 | ファイバーの点 | の指数 |
|---|---|---|
| 個 | ||
| 2 個 | 2 | |
| 無限個 | 無限 |
ファイバーの別の点 を基点に選び直すと、部分群は と共役な に替わる[1]。
例:トーラスの 2 重被覆で閉じるループ
の基本群は です。次の 3 つのループの類は、それぞれ 、、 になる。
縦の向きだけを 2 倍に広げた をとります。 の を の元として読み直す写像で、2 重被覆です。
を始点にとると、 の持ち上げ は閉じる。 の持ち上げ は で、 の持ち上げ は と同じ点 で終わり、どちらも閉じません。

の像は第 2 成分が偶数の元の全体で、指数は 2。ファイバーの点も と の 2 個で、数が合います。
の指数 2 の部分群 をとると、 は 2 重被覆で、像は そのものです[2]。そうした部分群は 3 つあり、閉じるループがそれぞれ違う。
| 第 1 成分が偶数 | だけが閉じる |
| 第 2 成分が偶数 | だけが閉じる |
| 成分の和が偶数 | だけが閉じる |
写像が持ち上がる条件
を弧状連結かつ局所弧状連結な空間、 を連続写像とします。、 を満たす が存在するための必要十分条件は、次の包含です[1]。
仮定の局所弧状連結は、 が連続であることを示す段で使う。
どの点も、そのどんな近傍の中にも、その点を含む弧状連結な開集合がとれること。
条件が必要なのは、 から となり、像が の像に収まるため。
逆向きは、 を道の持ち上げで決めて示します。 へ から道 を引き、 を から持ち上げた終点を とする[1]。
別の道 を選んだとする。 のあとに を逆にたどったループの類は に入って にも入り、持ち上げると閉じます。だから と の持ち上げは同じ点で終わり、 は道の選び方によらない。
が連結なら、1 点で一致する 2 つの持ち上げは 全体で一致し、持ち上げは 1 通りに決まります[1]。一致する点の集合が、開集合でも閉集合でもあるため。
例:球面から円周への写像
連続写像 をとります。 は自明で条件が成り立ち、 は に持ち上がる。
の中では、 を から へ動かす で を定値写像 へ縮められます。 と合成すれば、 から定値写像へのホモトピーになる。
から円周への写像も同じです。 の生成元の行き先 は を満たし、 に決まる。 の像は自明で、やはり持ち上がって縮みます[1]。
逆に、恒等写像 は持ち上がらない。像の が に収まらないため。
例:局所弧状連結でない空間
仮定を外すと、包含の条件を満たしても持ち上がらない写像があります[1]。
のグラフの一部と 軸上の線分 を弧で下からつなぎ、できた空間を とする。グラフは で激しく振動し、 にいくらでも近づく。

道はグラフの振動する部分を通り抜けて までたどり着けません。 のループは 1 周できずにどれも縮み、 は自明になる。
を 1 点につぶすと は円周になり、つぶす写像 が得られる。 は自明で条件を満たすのに、 は へ持ち上がりません[1]。
持ち上がったとすると、 は で 1 点に写る連結な集合だから、 は の上で 1 つの整数 をとります。
弧からグラフへとたどると は円周を 1 周し、グラフの振動する部分で は か に近い値になる。そこは にいくらでも近く、 は連続になれません。
普遍被覆とファイバー
が単連結な被覆空間を普遍被覆といいます。このとき は自明で、ファイバーの点と の元が 1 対 1 に対応する[1]。
ではファイバーの整数点が に、 では格子点が に対応します。 の なら、 と の 2 点が の 2 つの元にあたる[1]。
で決まる被覆 で、 から持ち上げて閉じるのはどのループですか。
- 円周を 2 周するループ
- 円周を 4 周するループ
- 円周を 6 周するループ
連続写像 がどれも へ持ち上がる理由はどれですか。
- がコンパクトだから
- から への準同型が自明なものに限られるから
- がどれも全射にならないから
の生成元の行き先 は を満たし、 の像は自明です。持ち上がる条件は基本群の包含だけで決まり、コンパクトかどうかは関係しません。
ループを持ち上げて、終点がファイバーのどこにくるかを見る。 が単射であることも、ファイバーの点の個数も、写像が持ち上がる条件も、この操作から導けます。










q∗ の像は 4Z で、閉じて持ち上がるのは 4 の倍数回まわるループだけです。2 周と 6 周のループは、どちらも 1 から −1 へ持ち上がって閉じません。