被覆空間は基本群を計算し理解するための強力な道具です。被覆空間の分類は基本群の部分群の分類に帰着されます。
被覆空間の定義
連続写像 が被覆写像(covering map)であるとは、各点 に対して開近傍 が存在し、 が互いに素な開集合の和 として書け、各 が同相写像となることです。
このとき を被覆空間、 を底空間と呼びます。 を均等被覆近傍といいます。
被覆空間の例
, は被覆写像です。 が を無限回巻いていると視覚化できます。各点 のファイバー は と同一視できます。
, は2重被覆です。各点のファイバーは対蹠点の対 で、2点からなります。
, は被覆写像です。平面がトーラスを無限に覆います。
リフトの存在と一意性
被覆空間の重要な性質として、道やホモトピーのリフト(持ち上げ)があります。
を被覆写像、 を道とします。 を固定すると、 かつ を満たす道 が一意に存在します。
道のリフトは始点を決めると一意に定まります。
ホモトピーのリフト
ホモトピー も同様にリフトできます。
を固定すると、 かつ を満たすホモトピー が一意に存在します。
基本群への作用
被覆写像 と基点 , に対して、準同型
が誘導されます。 はループをそのまま に射影する操作です。
の単射性
は常に単射です。
が でのループで が で自明(定値ループにホモトピック)ならば、そのホモトピーを にリフトできます。リフトされたホモトピーは が自明であることを示します。
ファイバーと基本群の関係
重要な定理として、ファイバー と基本群の剰余類の間に全単射があります。
特に、 が単連結()ならば、 です。
普遍被覆
単連結な被覆空間を普遍被覆(universal cover)といいます。
普遍被覆 が存在するとき、 なので
となります。より正確には、(デッキ変換群)です。
デッキ変換
デッキ変換(被覆変換)とは、被覆空間の自己同相 で を満たすものです。
の被覆では、()がデッキ変換です。デッキ変換群は と同型であり、 と一致します。
の被覆では、 がデッキ変換です。デッキ変換群は であり、 と一致します。
被覆空間の分類定理
連結で局所弧状連結で半局所単連結な空間 に対して、次の1対1対応があります。
被覆 に対して部分群 が対応します。
分類定理の例
の基本群は です。 の部分群は ()です。
重被覆 では、円周が自分自身を 回巻きます。
Galois被覆
が の正規部分群であるとき、被覆を正規被覆またはGalois被覆といいます。
このとき となり、群論のGalois対応と類似した構造があります。普遍被覆は常に正規被覆です。
被覆空間と持ち上げ問題
被覆空間の理論は、写像の持ち上げ問題に応用されます。
写像 が にリフトできる( で となるものが存在する)ための必要十分条件は
です。基本群の包含関係がリフトの存在を決定します。
単連結な被覆空間。 全体をデッキ変換群として持つ。基本群の計算に直接使える。
の部分群に対応。部分群が大きいほど被覆空間は「小さい」。正規部分群ならGalois被覆。