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鎖を食べる関数の側から見る、特異コホモロジーの作り方

ホモロジーは鎖に境界作用素を当てて作りました。コホモロジーは、その鎖を実数や整数へ送る関数の側で同じことをします。

矢印の向きが逆になり、写像の誘導も逆向きになる。そのぶんカップ積という積が入り、環になります[1]

以下では余鎖複体の作り方から始め、ホモロジーとの関係を普遍係数定理で押さえ、コホモロジーのほうがよく使われる理由まで扱います。

特異鎖の復習

標準 単体 から への連続写像を特異 単体といいます[3]。単射である必要はありません。

これらを基底とする自由アーベル群が で、元を 鎖という。

境界作用素 は、面を符号付きで足したものです。 が成り立つ。

双対をとる

係数群 をとり、 とおきます[1]

鎖に値を返す関数の全体です。元を 余鎖という。

余境界作用素は の双対で、 と定めます。矢印の向きが逆になる。

コホモロジー群

から出ます。したがって商がとれる。

核の元を余輪体、像の元を余境界といいます[1,4]

形はホモロジーとまったく同じで、矢印の向きだけが違います。

矢印の向きだけが違い、 という構造は共通です。

商をとる操作もまったく同じ。だから定義の形が鏡写しになります。

例:グラフの上で余鎖を書く

頂点 3 つ、辺 2 本のグラフをとります。 は頂点の自由アーベル群、 は辺の自由アーベル群。

余鎖は頂点に数を割り当てる関数、 余鎖は辺に数を割り当てる関数です。

は、辺の両端の値の差になります。

例: が定数関数を数える

とは、どの辺でも両端の値が等しいこと。連結成分ごとに定数、という意味です。

次では余境界がないので、 は連結成分の個数ぶんの になります。

ホモロジーの と同じ答えですが、読み方が違います。 は点を数え、 は定数関数を数える。

向きが逆になる

連続写像 は、鎖では を誘導します。合成すると向きが順。

余鎖では合成の順が入れ替わり、 が出ます[1,5]。引き戻し。

です。反変関手になっている。

ホモロジー

共変。 で、写像と同じ向きに動きます。

コホモロジー

反変。 で、写像と逆向きに動きます。

向きの違いを絵で見る

同じ写像に対して、鎖と余鎖が逆方向へ流れます。

写像は 1 本しかないのに、流れる向きが違います。余鎖が「鎖を食べる関数」なので、関数のほうは逆向きに運べる。

引き戻しが自然に定まることが、コホモロジーの扱いやすさの一つになっています。

普遍係数定理

コホモロジーはホモロジーからほぼ決まります。ただし捩れのぶんだけずれる。

が完全で、しかも分裂します[2]。ただし分裂は自然ではありません。

の項が主要部、 の項が 1 つ下の次元の捩れから来る補正です。

係数が体なら双対空間になる

が体なら が消えます。したがって

です[1]。線型代数の双対空間そのもの。

有限次元なら次元が一致します。ベッチ数はホモロジーで数えてもコホモロジーで数えても同じ。

例:球面

、ほかは )です。捩れがありません。

の項が消えるので、 となり、ホモロジーと同じ形になります。

捩れのない空間では、コホモロジーは見た目としてホモロジーと変わりません。

例:実射影平面

です。 次に捩れがあります。

係数のコホモロジーは になります[2]

捩れが 1 つ上の次元へずれて現れる、というところが要点です。 に出る。

次数H_n(RP^2)H^n(RP^2)
0ZZ
1Z/20
20Z/2

です。この 2 つが表の食い違いを作っています。

カップ積

コホモロジーには積が入ります。

余鎖のレベルでは、単体の前半と後半に分けて評価する形で定めます[1,4]

次数付き可換です。

例:円周のコホモロジー

を頂点 1 つと辺 1 本の複体で書きます。 は辺の両端が同じ点なので

したがって で、 になります。

の生成元は、辺に を割り当てる余鎖です。ぐるっと回ったときの周回数を測る関数、と読めます。

カップ積が何をしているか

余鎖 余鎖 から、 余鎖を作ります。 単体を前半と後半に切り、それぞれに食わせて掛ける。

切る位置は の次数で決まります。 番目の頂点で切り、前半を 、後半を に渡す。

余鎖のレベルでは可換になりません。コホモロジーに落としたところで、符号付きの可換性が現れます[1]

コホモロジー環

すべての次数を集めた が環になります[4]

ホモロジーには自然な積がありません。ここがコホモロジーを使う最大の理由。

環として区別できるが群としては区別できない、という空間の組が実際にあります。

例:積構造で差が出る組

を比べます。コホモロジー群はどちらも 次に が並び、群としては同型。

環としては違います。 では 次の生成元 について 次の生成元になり、

では 次の生成元の 2 乗が です。群だけを見ると区別できず、積を見ると区別できる。

例:トーラスのコホモロジー環

では です。

次の生成元 について 次の生成元になり、

外積代数と同じ形をしています。微分形式の に対応する構造。

で、ほかのホモロジーが の空間について、 はどれか。

__RESULT__

で、 です。捩れが 1 つ上へずれます。

相対コホモロジー

に対し、 の上で になる余鎖を集めて とします。

長完全列

が出ます。ホモロジーの長完全列と向きが逆。

切除定理も成り立ちます。ホモロジーで使える道具は、たいていコホモロジーでも使える。

マイヤー・ヴィートリス列

と開集合で分けると

が完全になります。矢印の向きがホモロジー版と逆。

貼り合わせから計算できる点は同じです。実際の計算ではこの列がよく使われる。

ド・ラームコホモロジーとの一致

滑らかな多様体では、微分形式で作ったコホモロジーが実係数の特異コホモロジーと同型になります[6]

同型は積分で与えられます。 に対して を対応させる形。

環としても同型で、カップ積がウェッジ積に対応します[6]。実係数でだけ成り立ち、整数係数では捩れのぶん崩れる。

なぜコホモロジーを使うのか

理由は 3 つに整理できます。

カップ積があり、環として空間を区別できる
引き戻しが自然に定まり、写像との相性がよい
微分形式や層と直接つながる

ホモロジーのほうが直感的です。穴を数えている、という説明がそのまま通る。コホモロジーは 1 段抽象的なぶん、道具として強い[1]

よくある誤り

コホモロジーを単なるホモロジーの双対だと思う。捩れがあるとずれます
捩れが同じ次数に出ると思う。 の項は 1 つ下の次元から来ます
普遍係数定理の分裂が自然だと思う。分裂しますが自然ではありません
の向きを と同じにする。コホモロジーは反変です
ホモロジーにもカップ積があると思う。積が入るのはコホモロジーです
コホモロジー群が同型なら環も同型だと思う。 が反例です
ド・ラームの定理が整数係数で成り立つと思う。実係数までです

参考文献

Cohomology
Universal coefficient theorem
Singular homology
Kohomologie
Cohomologie
De Rham theorem
ホモロジーの鎖を整数や実数へ送る関数を集め、同じ手続きをやり直したものが特異コホモロジーです。矢印の向きが逆になり、連続写像は引き戻しを誘導する。ホモロジーからほぼ決まりますが、捩れは 1 つ上の次元にずれて現れます。$\mathbb{RP}^2$ では $H_1$ の $\mathbb{Z}/2$ が $H^2$ に出てくる。最大の違いはカップ積で、$S^2 \times S^4$ と $\mathbb{CP}^3$ のように群としては同型でも環としては違う空間を区別できます。