微分形式の de Rham コホモロジー(ドラームコホモロジー)|閉形式・完全形式、トーラス・種数の計算など解説
円周の上を 1 周する角度 には、大域的な関数としての「角度」が存在しません。それでも という 1-形式は円周全体でちゃんと定義できます。この「微分はあるのに、もとの関数がない」というずれこそ、de Rham コホモロジーが測るものです。
de Rham コホモロジーは、微分形式と外微分だけを使って多様体からベクトル空間を取り出す仕組みです。閉じているのに完全でない形式がどれだけあるかを数え、その次元が空間の穴の個数という位相的な情報を与えます。微積分の道具で位相を計算できる、という点に他にない面白さがあります。
以下では微分形式を手早く復習してから定義を述べ、・球面・トーラスなどを実際に計算し、最後に電磁気学との直結までを追います。
微分形式のおさらい
滑らかな多様体 上の -形式とは、各点で 個の接ベクトルを受け取って実数を返す、交代的な多重線型写像です。-形式の全体を と書きます。
-形式は関数そのもの、-形式は のように書ける対象です。交代性から、同じ方向を 2 つ入れると になります。 次元多様体では の -形式はすべて です。
局所座標では、-形式は の一次結合で表せます。この基底の係数が滑らかな関数だと思えば、ひとまず十分です。
ウェッジ積
形式どうしは、ウェッジ積 で掛け合わせられます。-形式と -形式から -形式を作る操作です。
ウェッジ積は交代的で、次の反可換則を満たします。
特に -形式 と では 、そして です。この符号の規則が、あとで面積や体積の向きを正しく扱う仕掛けになります。
外微分と
-形式を -形式に送る作用素が外微分 です。
関数 に対しては全微分 を与え、一般の形式へはライプニッツ則で拡張します。決定的なのは、これを 2 回続けると必ず になることです。
偏微分の順序交換 と、ウェッジ積の反可換性 が打ち消し合って、この等式が出ます。 が de Rham コホモロジーの全出発点です。
では grad・curl・div がすべて
外微分は目新しい作用素に見えて、実はベクトル解析の 3 つの演算をひとまとめにしたものです。 では次の複体になります。
<div class="dr-fig">
<svg viewBox="0 0 470 130" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="R3 の de Rham 複体。関数から grad でベクトル場、curl でベクトル場、div で関数へ。">
<rect x="0" y="0" width="470" height="130" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12.5" fill="#1b1d22" text-anchor="middle">
<text x="45" y="60">Ω⁰</text>
<text x="45" y="78" font-size="10.5" fill="#5b6370">関数</text>
<text x="175" y="60">Ω¹</text>
<text x="175" y="78" font-size="10.5" fill="#5b6370">ベクトル場</text>
<text x="305" y="60">Ω²</text>
<text x="305" y="78" font-size="10.5" fill="#5b6370">ベクトル場</text>
<text x="430" y="60">Ω³</text>
<text x="430" y="78" font-size="10.5" fill="#5b6370">関数</text>
</g>
<g stroke="#1b4fb8" stroke-width="1.6" fill="none" marker-end="url(#dra)">
<line x1="68" y1="55" x2="150" y2="55"/>
<line x1="200" y1="55" x2="280" y2="55"/>
<line x1="328" y1="55" x2="405" y2="55"/>
</g>
<defs><marker id="dra" markerWidth="9" markerHeight="9" refX="7" refY="3" orient="auto"><path d="M0,0 L7,3 L0,6 z" fill="#1b4fb8"/></marker></defs>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12" fill="#1b4fb8" text-anchor="middle">
<text x="109" y="44">grad</text>
<text x="240" y="44">curl</text>
<text x="366" y="44">div</text>
</g>
</svg>
</div>.dr-fig { margin: 0; text-align: center; }
.dr-fig svg { width: 100%; max-width: 470px; height: auto; }-形式(関数)への は勾配 grad、-形式への は回転 curl、-形式への は発散 div に対応します。 では -形式も -形式もベクトル場と同一視できるので、見慣れた 3 つの演算が 1 つの に統一されます。
が含む恒等式
この対応のもとで を読み直すと、ベクトル解析でおなじみの 2 つの恒等式になります。
勾配場は渦なし、回転場は湧き出しなし、という事実です。ばらばらに覚えていた公式が、 という 1 本の等式の言い換えにすぎないと分かります。
de Rham コホモロジーは、この裏返しを問題にします。渦なしの場は必ず勾配場でしょうか。湧き出しなしの場は必ず回転場でしょうか。答えは空間の形に依存し、その依存の仕方こそがコホモロジーです。
引き戻し
滑らかな写像 があると、形式は逆向きに引き戻せます。 上の -形式 を 上の -形式 に移す操作です。
引き戻しは外微分と可換で、 が成り立ちます。この可換性のおかげで、写像はコホモロジーの間の線型写像 を誘導します。
空間の間の写像が、コホモロジーの間の写像に翻訳される。この関手性が、あとでホモトピー不変性やマイヤー・ヴィートリス列を支えます。
閉形式と完全形式
コホモロジーの主役は 2 種類の形式です。 で消える形式と、 で作られる形式です。
を満たす を閉形式、 と書ける を完全形式といいます。 から、完全形式は必ず閉形式です。 だからです。
問題は逆です。閉形式は必ず完全でしょうか。局所的にはそうですが、大域的には一般に成り立ちません。この「閉なのに完全でない」ずれを測るのが de Rham コホモロジーです。
de Rham コホモロジーの定義
閉形式の全体を、完全形式の全体で割ります。
次 de Rham コホモロジー群を次で定めます。
閉形式(分子)を完全形式(分母)で割った商。完全形式の分だけ同一視した、閉形式の類の全体です。
のおかげで完全形式は閉形式の中に含まれ、この商が意味をもちます。2 つの閉形式が同じ類を与えるのは、差が完全形式のときです。これをコホモロガスといいます。
de Rham コホモロジーは実ベクトル空間になります。以下ではその次元、つまり「閉だが完全でない形式が何次元分あるか」を空間ごとに計算していきます。
は連結成分の数
いちばん低い次数から見ます。 は空間の連結成分の個数を数えます。
-形式は関数で、 です。 を満たす関数は、各連結成分の上で定数になります。分母にあたる は なので、割る操作はありません。
したがって連結成分が 個の多様体では 、とくに連結なら です。 次のコホモロジーは、空間がいくつの塊に分かれているかを見ています。
ベッチ数
各次数のコホモロジーの次元に名前がついています。
番目のベッチ数を で定めます。 は連結成分の数、 は独立な「 次元の穴」の数、 は「 次元の空洞」の数、というふうに、各次元の穴を数える量です。
コンパクトな多様体ではベッチ数はすべて有限で、これらを並べたものが空間の位相を粗く要約します。de Rham コホモロジーの計算とは、要するにこのベッチ数を求めることです。
コホモロジーは完全性の障害
de Rham コホモロジーは、閉形式が完全になり損ねる度合いを測る量だと言えます。
ということは、 次の閉形式がすべて完全だ、という意味です。逆に なら、閉なのに完全でない形式が存在します。その一次独立な個数がちょうど です。
先の grad・curl・div の言葉でいえば、 は「渦なしなのに勾配でない場」が存在すること、 は「湧き出しなしなのに回転でない場」が存在することに対応します。コホモロジーは、局所的な性質が大域的に持ち上がるのを妨げる障害を数えているのです。
とポアンカレの補題
最初の計算は、いちばん素直な空間 です。ここではコホモロジーは自明になります。
で消えるという主張がポアンカレの補題です。言い換えれば、 上では閉形式は必ず完全形式になります。渦なしの場は必ず勾配場、という高校以来の事実の一般化です。
穴のない可縮な空間では、閉形式が完全になるのを妨げるものが何もありません。逆に言えば、コホモロジーが消えないのは空間に穴があるときだけです。
ポアンカレの補題の証明の勘所
なぜ で閉形式が完全になるのか。鍵は、原点へ縮める操作に沿って形式を積分する仕掛けです。
閉形式 に対して、ホモトピー作用素と呼ばれる を作り、 という恒等式を導きます。 が閉なら なので、、つまり は の外微分として完全になります。
の中身は、 を原点へ引き絞る直線に沿った積分です。空間が 1 点に縮むという幾何が、そのまま原始形式 の構成を与えます。この作用素は次のホモトピー不変性でも中心的な役を果たします。
ホモトピー不変性
ポアンカレの補題は、もっと一般的な原理の特別な場合です。de Rham コホモロジーはホモトピー不変量です。
2 つの空間がホモトピー同値なら、de Rham コホモロジーは同型になります。とくに可縮な空間は 1 点とホモトピー同値なので、そのコホモロジーは 1 点のものと一致し、ポアンカレの補題が従います。
この不変性は強力です。空間を連続的に変形してよいので、複雑な多様体を扱いやすいものに取り替えて計算できます。次に見る穴あき平面は、まさにこの原理で円周に化けます。
穴あき平面と角度形式
穴が 1 つあくと何が起きるか。原点を除いた平面 を調べます。主役は角度形式です。
これは極座標の角度 の微分 にほかなりません。ところが角度 自身は、 の上で大域的な関数として定義できません。 周すると だけ飛ぶからです。
<div class="dr-fig">
<svg viewBox="0 0 420 220" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="穴あき平面。原点に穴があり、それを回るループに沿って角度形式を積分すると 2 パイ。">
<rect x="0" y="0" width="420" height="220" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<line x1="60" y1="110" x2="360" y2="110" stroke="#d4d8dd" stroke-width="1"/>
<line x1="210" y1="25" x2="210" y2="195" stroke="#d4d8dd" stroke-width="1"/>
<circle cx="210" cy="110" r="72" fill="none" stroke="#1b4fb8" stroke-width="2" stroke-dasharray="7 4"/>
<path d="M 282 110 A 72 72 0 0 1 276 140" fill="none" stroke="#1b4fb8" stroke-width="2" marker-end="url(#drl)"/>
<defs><marker id="drl" markerWidth="9" markerHeight="9" refX="4" refY="3" orient="auto"><path d="M0,0 L7,3 L0,6 z" fill="#1b4fb8"/></marker></defs>
<line x1="210" y1="110" x2="262" y2="74" stroke="#c93c41" stroke-width="1.8"/>
<path d="M 240 110 A 30 30 0 0 1 232 89" fill="none" stroke="#c93c41" stroke-width="1.4"/>
<circle cx="210" cy="110" r="5.5" fill="#fafbfc" stroke="#1b1d22" stroke-width="1.5" stroke-dasharray="3 2"/>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12.5" stroke="#fafbfc" stroke-width="3" paint-order="stroke">
<text x="248" y="97" fill="#c93c41">θ</text>
<text x="286" y="150" fill="#1b4fb8">γ</text>
<text x="196" y="102" font-size="11" fill="#1b1d22">0</text>
<text x="300" y="185" fill="#1b1d22">∮ dθ = 2π</text>
</g>
</svg>
</div>.dr-fig { margin: 0; text-align: center; }
.dr-fig svg { width: 100%; max-width: 420px; height: auto; }原点の穴が、角度をひと続きの関数にすることを妨げています。この穴の存在が、次に見るコホモロジーの非自明さとして現れます。
閉だが完全でない
角度形式 は、 上で閉形式ですが完全形式ではありません。
まず閉であることは計算で確かめられます。 とおくと となり、 です。
完全でないことは、原点を回る円 に沿った線積分でわかります。もし なら閉曲線上の積分は のはずですが、実際には
です。したがって は完全でなく、 です。実は は円周とホモトピー同値で、 となり、 の類がその生成元です。
円周
穴あき平面と同じ結論が、円周そのものでも成り立ちます。
は が連結だから 、 の生成元は角度形式 の類です。 は 全体で定義された閉 -形式ですが、大域的な関数の微分としては書けません。
証拠はやはり周回積分です。 なので、 は完全になりえません。円周にあいた つの穴が、 次元分のコホモロジーを生んでいます。
球面 と体積形式
次元を上げます。 次元球面 のコホモロジーは、両端だけが生き残ります。
は連結性から、 は体積形式から来ます。 上の体積形式は閉 -形式ですが、全体で積分すると球面の体積という正の値になるため、完全にはなりえません。
中間の次数 ではコホモロジーが消えます。球面には 次元の穴も途中の空洞もなく、あるのは全体を囲む 次元の空洞だけだからです。
と面積形式
の場合を具体的に見ます。球面 では 、、 です。
は、球面上では渦なしの場が必ず勾配場になることを意味します。円周と違い、球面には巻きつく穴がありません。一方 の生成元は面積形式 で、全球面で積分すると
となって完全でないことがわかります。 が囲む内部の空洞が、 次のコホモロジーとして検出されています。
マイヤー・ヴィートリス列
大きな空間を 2 つの開集合に分けて、部品から全体のコホモロジーを組み上げる道具がマイヤー・ヴィートリス列です。
を開被覆とすると、次の長完全列が存在します。
、、 のコホモロジーがわかれば、完全性から のコホモロジーが決まります。
完全列とは、各項で「入ってくる像」と「出ていく核」がぴったり一致する列のことです。この一致を次元の勘定に翻訳すると、未知のコホモロジーの次元が芋づる式に定まります。空間を単純な部品に切り分けて貼り合わせる、帰納的な計算法です。
マイヤー・ヴィートリスで
円周を実際にこの方法で計算します。 を少し重なる 2 つの弧 、 で覆います。
<div class="dr-fig">
<svg viewBox="0 0 300 210" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="円周を上下 2 つの弧 U と V で覆う。重なりは左右 2 か所。">
<rect x="0" y="0" width="300" height="210" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<path d="M 150 40 A 70 70 0 0 1 150 180" fill="none" stroke="#1b4fb8" stroke-width="9" stroke-linecap="round"/>
<path d="M 150 40 A 70 70 0 0 0 150 180" fill="none" stroke="#c93c41" stroke-width="5" stroke-linecap="round"/>
<circle cx="150" cy="40" r="5" fill="#7a52c0"/>
<circle cx="150" cy="180" r="5" fill="#7a52c0"/>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="13" stroke="#fafbfc" stroke-width="3" paint-order="stroke">
<text x="232" y="115" fill="#1b4fb8">U</text>
<text x="60" y="115" fill="#c93c41">V</text>
<text x="166" y="34" fill="#7a52c0">U∩V</text>
</g>
</svg>
</div>.dr-fig { margin: 0; text-align: center; }
.dr-fig svg { width: 100%; max-width: 300px; height: auto; }各弧 、 は可縮なので、コホモロジーは 点と同じで 、 です。重なり は離れた 2 つの弧なので 、 です。列に入れると次の完全列が残ります。
交代和が になるので 、 とあわせて を得ます。角度形式で見た結果が、貼り合わせからも出ました。
マイヤー・ヴィートリスで
同じ手口が次元によらず使え、球面のコホモロジーが帰納的に決まります。
を北と南の 2 つの開いた半球 、 で覆います。半球はそれぞれ に同相で可縮です。重なり は赤道のまわりの帯で、 つ下の次元の球面 とホモトピー同値です。
マイヤー・ヴィートリス列は、こうして を に結びつけます。 の結果を へ持ち上げる漸化式になり、両端だけが で中間は 、という球面の答えが次元に関する帰納法で確定します。
ウェッジ積が環構造を与える
de Rham コホモロジーは、ただのベクトル空間ではなく積をもちます。ウェッジ積がコホモロジーに下りてくるからです。
閉形式どうしのウェッジ積はまた閉形式で、片方が完全なら積も完全です。よって はコホモロジー類どうしの積 を定めます。これを全次数にわたって集めた
は、次数つきの環になります。位相でいう カップ積にあたる構造です。コホモロジーの次元だけでなく、類どうしの掛け算まで込めて空間を区別できるようになります。
キネットの公式
2 つの空間の直積のコホモロジーは、それぞれのコホモロジーのテンソル積で書けます。これがキネットの公式です。
となり、ポアンカレ多項式の積に対応します。
直積を作る操作が、コホモロジーのテンソル積という代数の操作に翻訳されます。片方の -形式ともう片方の -形式をウェッジで掛けると直積上の -形式ができる、という自然な対応がこの公式の中身です。次にトーラスで使ってみます。
キネットでトーラス
トーラス に公式を当てます。各因子は でした。
では で 、 では と の和で 、 では で です。まとめると次のようになります。
の生成元は 2 つの角度形式 、、 の生成元はそのウェッジ積 です。2 つの独立な穴を巻く方向が の 次元に、面全体を覆う形式が に対応します。
<div class="dr-fig">
<svg viewBox="0 0 240 220" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="トーラスの基本正方形。左右の辺と上下の辺を同一視し、2 つのサイクル シータ1 と シータ2 が生成元。">
<rect x="0" y="0" width="240" height="220" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<rect x="55" y="40" width="130" height="130" fill="#3468d6" fill-opacity="0.06" stroke="#9aa3ad" stroke-width="1.4"/>
<line x1="55" y1="170" x2="185" y2="170" stroke="#1b4fb8" stroke-width="3" marker-end="url(#drt1)"/>
<line x1="55" y1="40" x2="55" y2="170" stroke="#c93c41" stroke-width="3" marker-end="url(#drt2)"/>
<line x1="55" y1="40" x2="185" y2="40" stroke="#1b4fb8" stroke-width="2" stroke-dasharray="5 3"/>
<line x1="185" y1="40" x2="185" y2="170" stroke="#c93c41" stroke-width="2" stroke-dasharray="5 3"/>
<defs>
<marker id="drt1" markerWidth="9" markerHeight="9" refX="6" refY="3" orient="auto"><path d="M0,0 L7,3 L0,6 z" fill="#1b4fb8"/></marker>
<marker id="drt2" markerWidth="9" markerHeight="9" refX="6" refY="3" orient="auto"><path d="M0,0 L7,3 L0,6 z" fill="#c93c41"/></marker>
</defs>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="13" stroke="#fafbfc" stroke-width="3" paint-order="stroke">
<text x="118" y="188" fill="#1b4fb8">θ₁</text>
<text x="30" y="110" fill="#c93c41">θ₂</text>
</g>
</svg>
</div>.dr-fig { margin: 0; text-align: center; }
.dr-fig svg { width: 100%; max-width: 240px; height: auto; }のベッチ数
同じ計算を繰り返すと、 次元トーラス のベッチ数がきれいな形になります。
キネットの公式を 回使うと、 の次元は 個から 個を選ぶ組合せの数になります。
生成元は、 個の角度形式 から 個を選んでウェッジした です。ベッチ数の総和は で、コホモロジー環全体の次元は になります。
種数 の曲面
閉じた向き付け可能な曲面では、穴の数がそのままコホモロジーに出ます。種数 、つまり取っ手が 個ついた曲面を考えます。
の次元 は、各取っ手に巻きつく 2 種類のサイクル(穴を通る向きと回る向き)が、取っ手 個分あることに対応します。球面は で 、トーラスは で となり、先の計算と合います。取っ手が増えるほど がまっすぐ大きくなる、見通しのよい例です。
ストークスの定理が橋渡し
微分形式による記述が位相と結びつく理由は、ストークスの定理にあります。積分が形式と領域の両方を、境界を通して結びつけます。
この定理から、閉形式をサイクル(境界を持たない部分多様体)に沿って積分した値 が、 の完全形式の分と の境界の分によらずに決まることがわかります。完全形式をサイクルで積分すると 、境界で閉形式を積分しても になるからです。
つまり は、 のコホモロジー類と のホモロジー類だけで決まる量です。微分形式の側と、位相的なサイクルの側とが、積分を仲立ちに対応します。
de Rham の定理
この対応が完全な同型になる、というのが de Rham の定理です。微分形式で作ったコホモロジーが、位相的に定義される特異コホモロジーと一致します。
滑らかな多様体 に対して、実係数の特異コホモロジーと自然に同型です。
微積分で計算したコホモロジーと、連続写像だけで定義される位相的なコホモロジーが、完全に一致します。
左辺は微分と積分という解析の産物、右辺は連続変形だけで決まる位相の産物です。まったく出自の違う 2 つが同じ答えを与えるところに、この定理の深さがあります。滑らかさに依存して定義したのに、結果は位相だけで決まるのです。
積分による同型
同型を具体的に与えるのが、先ほどの積分の対応です。
閉形式 に、サイクル を に送る写像を対応させます。
ストークスの定理がこの対応の矛盾のなさを保証し、de Rham の定理がそれが同型だと言い切ります。角度形式 を円周で積分すると 、面積形式を で積分すると という計算は、まさにこの同型を通して穴を数えていたのです。
構成の歴史
de Rham コホモロジーは、20 世紀前半の幾何学の発展の中で形になりました。
アンリ・ポアンカレが位相幾何学(アナリシス・シチュス)を創始し、ホモロジーの原型を導入した。
エリ・カルタンが微分形式と外微分の計算体系を整え、閉形式と完全形式の問題を明確にした。
ジョルジュ・ド・ラームが博士論文で、微分形式のコホモロジーと位相的なコホモロジーの一致を証明した。
ウィリアム・ホッジが調和形式の理論を築き、各コホモロジー類に解析的な代表元を与えた。
ポアンカレが位相の枠組みを、カルタンが形式の計算を、ド・ラームが両者の一致を、ホッジが解析的な精密化を与えました。今日の姿はこれらの積み重ねの上にあります。
ベッチ数とオイラー標数
コホモロジーの次元を交代に足し合わせると、古典的なオイラー標数が現れます。
多面体で数えた「頂点 辺 面」のオイラー標数が、ベッチ数の交代和と一致します。de Rham コホモロジーは、この素朴な不変量を各次元の穴の情報にまで精密化したものだと言えます。
例: オイラー標数の計算
具体的な曲面で交代和を計算します。ベッチ数はすでに求めてあります。
球面は なので です。トーラスは なので になります。種数 の曲面では から次が出ます。
取っ手を 1 つ増やすごとにオイラー標数が ずつ減る、という有名な公式です。穴の数え上げが、そのまま古典的な不変量に化けています。
向き付け不可能な場合
これまでは向き付け可能な空間でした。向き付けできないと、最高次のコホモロジーが消えます。
閉じた 次元多様体が向き付け不可能なら、 です。全体で積分できる体積形式が存在しないため、 を生む形式が作れないのです。たとえばクラインの壺 では となり、向き付け可能なトーラスの と対照的です。
向き付け可能性という幾何的な性質が、最高次コホモロジーの有無としてはっきり現れます。実係数で見ているので、整数係数なら残る捻れの情報は消えている点には注意が必要です。
ポアンカレ双対性
向き付け可能な閉多様体では、コホモロジーが上下対称になります。ポアンカレ双対性です。
次元の向き付け可能な閉多様体では、 次と 次のベッチ数が一致します。
対応はウェッジ積と全体での積分による組み合わせで、 と が互いの双対空間になります。トーラス の や種数 曲面の が左右対称なのは、この双対性の現れです。
ホッジ理論
コンパクトなリーマン多様体では、各コホモロジー類に「いちばん素直な」代表元がただ 1 つ選べます。ホッジ理論です。
計量を入れると、ラプラシアン で消える調和形式が定義できます。 次の調和形式の全体を と書くと、ホッジの定理は各 de Rham コホモロジー類にちょうど 1 つの調和形式が属することを主張します。
これにより、抽象的なコホモロジー類が具体的な微分方程式の解として実現され、コホモロジーが解析の道具で扱えるようになります。 の体積形式や の は、標準計量に関する調和形式の典型例です。
ベクトル解析: 渦なしだが勾配でない
物理に下ります。 の空間には、渦なしなのに勾配でないベクトル場が存在します。
軸を とすると、抜いた空間 は円周とホモトピー同値で、 です。生成元は、軸のまわりを回る角度形式に対応する場です。この場は回転(curl)が で渦なしですが、軸を 1 周する線積分が にならないので、大域的なポテンシャルの勾配としては書けません。
直線電流のまわりの磁場がまさにこの形です。電流のない場所では渦なしなのに、電流を囲む経路に沿った循環が消えない。空間にあいた穴が、局所的な渦なし性と大域的なポテンシャルの不在を両立させています。
湧き出しなしだが回転でない
次元を上げると、 が別の現象を生みます。湧き出しなしなのに回転で書けない場です。
原点を抜いた は球面 とホモトピー同値で、 です。クーロン場 は原点以外で発散(div)が ですが、原点を囲む球面を貫く流束は
です。流束が でないので、この場は大域的なベクトルポテンシャルの回転としては書けません。ガウスの法則が、 という位相の言葉そのものだったわけです。
電磁場は 2-形式
電磁気学は、de Rham コホモロジーの言葉で最も自然に書けます。電場と磁場は、時空上の 1 つの -形式 にまとまります。
を電磁場の -形式とすると、マクスウェル方程式の半分は という一行で表せます。これはファラデーの法則と「磁気単極子が存在しない」ことをまとめたものです。局所的には と書け、 が電磁ポテンシャルの -形式です。
は から自動的に従います。マクスウェル方程式の一部が、外微分の恒等式として最初から組み込まれているのです。
ゲージ変換は完全形式の分
ポテンシャル には決め方の自由があります。この自由がちょうど完全形式の分です。
を に取り替えても、 は変わりません。 だからです。
これがゲージ変換です。物理的に意味があるのは 、つまり完全形式を法として見た の類です。ポテンシャルの取り替えの自由が、コホモロジーで割り算する操作と正確に対応しています。
アハラノフ・ボーム効果
コホモロジーが観測にかかる、という驚きの例がアハラノフ・ボーム効果です。 が電子の干渉に現れます。
細いソレノイドの外側では磁場が なので、ポテンシャル は閉形式です。しかしソレノイドを囲む経路では となり、この は の非自明な類を表します。
場が の領域を通る電子でも、この非自明な類のために干渉縞がずれます。局所的には何もない空間の穴が、量子力学では観測可能な位相差として顔を出す。コホモロジーが物理的に実在することを示す実験です。
磁気単極子
最後は磁気単極子です。もし存在すれば、 がその符牒になります。
単極子を囲む球面を貫く磁束は ではありません。すると磁場の -形式 は、単極子の外で閉じているのに完全ではなく、 の非自明な類を表します。 となる大域的なポテンシャル は存在できません。
ディラックは、この障害を回避するには磁荷が量子化されねばならないことを見抜きました。単極子の存在そのものが、球面の 次コホモロジーが消えないという位相の帰結として語られます。
特異コホモロジーとの比較
de Rham コホモロジーと特異コホモロジーは、de Rham の定理で一致しますが、性格は対照的です。
任意の位相空間で定義できる。連続写像とサイクルによる組み合わせ的な構成で、滑らかさを要求しない。
滑らかな多様体でのみ定義できる。微分形式と積分による解析的な構成で、微積分だけで計算できる。物理(電磁気・ゲージ理論)と直結する。
一般性では特異コホモロジーが勝り、計算のしやすさと物理とのつながりでは de Rham コホモロジーが勝ります。同じ不変量を、位相の側と解析の側の両方から捉えられること自体が、de Rham の定理の恩恵です。
理解の確認
最後に 1 問。角度形式が教えてくれたことを思い出してください。
上の角度形式 について、正しいのはどれですか。
- 完全形式であり、閉形式でもある
- 閉形式だが完全形式ではない
- 閉形式でなく、完全形式でもない
- 完全形式だが閉形式ではない










dω=0 なので閉形式です。しかし原点を回る円で積分すると ∮ω=2π=0 となり、完全形式ではありません。この「閉だが完全でない」ことが H1(R2∖{0})≅R を生みます。