ポアンカレ双対性〜ベッチ数が中央で折り返して一致する
閉じた向き付け可能な多様体では、ベッチ数の並びが前後で対称になります。 次元なら 。
対称になる理由は、 次のコホモロジーと 次のホモロジーが同型だから。これがポアンカレ双対性です[1]。
以下では基本類の作り方から始め、キャップ積による同型を書き下し、向き付けが崩れたときにどうなるかと、 次元の交叉形式まで扱います。
局所的な向き
点 のまわりの向きは、局所ホモロジー の生成元として定めます[6]。
生成元は 2 つあり、互いに符号が逆です。どちらを選ぶかが局所的な向きの選択。
次元多様体なら、どの点でもこの群が になります。局所的にはいつでも向きが入る。
大域的に貼り合わせられるか
各点で選んだ向きが、近くの点どうしで整合するかを問います。整合するようにすべての点で選べれば向き付け可能。
が連結な閉多様体なら、判定は最高次のホモロジーでできます[6]。
になります。生成元が 2 つあり、どちらを選ぶかが向き。
になります。生成元が存在せず、基本類が作れません。
第 1 シュティーフェル・ホイットニー類 が消えることとも同値です[6]。
向き付け二重被覆
どんな多様体にも、向きの選び方を組にした二重被覆 が作れます。点 と局所的な向き の組。
が向き付け可能なら は 2 つの連結成分に分かれ、不可能なら連結になります[6]。
メビウスの帯の二重被覆は円環です。一周すると向きが裏返るので、2 周してはじめて戻る。
一周すると裏返る
メビウスの帯で、局所的な向きを持ち歩く様子を描きます。
一周すると、黒い目印が反対側へ移ります。局所的な向きを整合させて選べない。
二重被覆をとれば、2 周してはじめて戻ります。被覆の側では向きが決まる[6]。
基本類
向き付けを選ぶと、 の生成元が 1 つ定まります。これが基本類 [2]。
三角形分割で言えば、最高次元の単体を向きをそろえて全部足したもの。境界が打ち消し合って輪体になる。
滑らかな多様体では、 形式 との対が に一致します[2]。積分の相手そのもの。
双対性の主張
を 次元の閉じた向き付け可能多様体とすると
コホモロジーとホモロジーを、次数を折り返して結びつけます。 と が対応する。
ベッチ数が折り返して一致する
体係数で見ると、次元が一致します。したがって
が成り立ちます[1,3]。ポアンカレが 1893 年に主張した形。
(連結なら)なので 。最高次が 次元になることと、基本類の存在が対応しています。
折り返しを絵で見る
ベッチ数の並びが中央で折り返す様子を描きます。
どの例でも、中央の破線で折り返すと棒の高さが一致します。
対称性は仮定ではなく結論です。閉じていて向き付け可能であることから出てくる。
例: 次元トーラス
、、 です。 が双対性。
次の 2 つの生成元は、それぞれ自分自身と双対な関係にあります。中央次元では自己双対。
例: 次元トーラス
、、、 です。 が成り立つ。
次の 3 本の円と、 次の 3 枚のトーラスが対応します。交わりが 1 点になる組み合わせ。
例:奇数次元では標数が消える
対称性から、オイラー標数は
で、 を代入すると が奇数のとき項が打ち消し合います。
したがって閉じた奇数次元多様体のオイラー標数は です[1]。
次元多様体ではいつでも 。これは強い制約で、 次元ではオイラー標数が情報を持ちません。
例:向き付け不可能な場合
クラインの壺では です。基本類が作れず、 係数の双対性が崩れる。
、、 で、折り返しても一致しません。
いっぽう 係数なら で、基本類が存在します。
係数なら向き付けが要らない
では と が同じなので、向きの選択が問題になりません[1]。
どの閉多様体にも 基本類があり、双対性が成り立ちます。
シュティーフェル・ホイットニー類が 係数で定義されるのも、この事情から[2]。
クラインの壺について、正しいものはどれか。
- 係数でも 係数でも双対性が成り立つ
- 係数でだけ成り立つ
- どちらでも成り立たない
- 係数でだけ成り立つ
境界があるとき
境界付き多様体では、絶対ホモロジーと相対ホモロジーが対応します。
これがレフシェッツ双対性です[5]。片方だけを相対にする。
境界のない場合は で、相対と絶対が一致します。もとの形に戻る。
例:実射影平面
は向き付け不可能です。 で基本類がありません。
係数なら で、折り返して一致します[6]。
係数では が 次に出てこないため、対称が崩れる。係数の選び方で見え方が変わります。
証明の筋
証明はふつう、 を小さな開集合で覆って帰納法で進めます。 で成り立つことを出発点にする。
貼り合わせにマイヤー・ヴィートリス列と五項補題を使い、、 で成り立てば でも成り立つ、と押し上げる形。
コンパクトでない場合はコンパクト台コホモロジーを使います。閉多様体ならこの区別が要りません[5]。
交わりを絵で見る
中央次元の 2 つの類が横断的に交わる様子を描きます。

青と赤が 1 点だけで交わります。この点の個数が交叉数。
向きを込めて符号を付けて数えるので、交わりが 2 点でも打ち消し合えば になります。横断的にとることが前提[4]。
交叉形式
の偶数次元で、中央次元どうしのカップ積を見ます。
が双線型形式を定めます。 が偶数なら対称、奇数なら交代[4]。
双対性から、この形式は捩れを除いてユニモジュラーになります。行列式が 。
次元での交叉形式
次元閉多様体では で、対称なユニモジュラー形式が出ます[4]。
幾何的には、2 枚の曲面が横断的に交わる点を符号付きで数えたもの。代数的にはカップ積を基本類で評価した値。
不変量は階数、符号数、パリティです。
フリードマンとドナルドソン
単連結な位相 次元多様体は、交叉形式でほぼ分類されます。どんなユニモジュラー対称形式も実現される[4]。
微分構造を課すと事情が変わります。正定値なら対角形に限られる、というのがドナルドソンの結果[4]。
位相的には作れるのに滑らかにはできない多様体があります。 多様体がその例。
交叉数として読む
双対を通すと、コホモロジー類が部分多様体に対応します。カップ積が交わりに対応する。
では、 次の 2 本の円が 1 点で交わり、交叉数が 。中央次元の自己双対性がこの形で見える。
では、 次の生成元が直線に対応し、2 本の直線が 1 点で交わります。交叉形式は という 行列。
ホッジ理論との対応
滑らかな多様体では、ド・ラームコホモロジーでも双対性が見えます。
リーマン計量を入れると、ホッジ作用素が の同型を与えます[3]。
位相の主張と解析の主張が、同じ次数の折り返しを別々に実現している格好です。










向き付け不可能なので H2(K;Z)=0 となり、Z 基本類がありません。Z/2 係数なら符号の区別が消えるので成り立ちます。