多様体の向き付け可能性は、多様体全体で「一貫した向き」を定められるかどうかを表す性質です。向き付け可能性はホモロジーやPoincaré双対性に深く関わります。
局所的な向き
次元多様体 の各点 で、接空間 の向き(基底の順序付けの同値類)を考えます。 の標準的な向きは の順序です。
局所座標 は を与え、 上の向きを定めます。
向き付け可能の定義
多様体 が向き付け可能(orientable)であるとは、各点に向きを一貫して定められることです。すなわち、 を覆う座標近傍系で、重なる部分での座標変換のヤコビアンがすべて正となるものが存在します。
向き付け不可能の例
メビウスの帯は向き付け不可能です。帯を一周すると向きが反転するため、大域的に一貫した向きを定められません。
クラインの壺と実射影平面 も向き付け不可能です。
向き付け可能の例
すべての球面 は向き付け可能です。
すべてのトーラス は向き付け可能です。
複素多様体は常に向き付け可能です。 の標準的な向きを用いられます。
ホモロジーによる特徴づけ
次元連結閉多様体 に対して、
向き付け不可能な場合 です。
基本類の存在
向き付け可能な 次元閉多様体には基本類 が存在します。これは 全体を「一周する」ホモロジー類で、Poincaré双対性の基礎となります。
向き付け不可能な場合、 係数の基本類は存在しませんが、 係数では存在します。
向き付け被覆
向き付け不可能な多様体 に対して、向き付け可能な2重被覆 (向き付け被覆)が存在します。
は の各点での2つの向きの選択肢を分離した空間です。 の向き付け被覆は です。
境界との関係
境界付き多様体 が向き付け可能ならば、境界 も向き付け可能です。逆に、向き付け不可能な閉曲面は向き付け可能な3次元多様体の境界にはなれません。
閉曲面の分類
閉曲面(2次元閉多様体)は次のように分類されます。
向き付け可能な曲面のEuler標数は 、向き付け不可能では です。
微分形式との関係
向き付け可能な 次元多様体には、どこでも にならない -形式(体積形式)が存在します。これは向き付け可能性の微分幾何的な特徴づけです。
Stokesの定理の正しい定式化には向き付け可能性が必要です。
。基本類が存在。Poincaré双対性が整数係数で成立。
。 係数で基本類存在。向き付け2重被覆を持つ。