区間が正方形を埋めても「次元」はなぜ変わらないのか
と が同相でないことは、当たり前に見えて証明が難しい問題でした。次元という言葉自体が、位相の言葉で定義されていなかったため。
ペアノ曲線のように、 次元の区間を 次元の正方形へ全射に写す連続写像があります。連続性だけでは次元が守られない[5]。
ホモロジーを使うと、この問題が片づきます。以下では次元不変性の証明の筋を追い、局所ホモロジーが次元と境界を検出する仕組みまで扱います。
何が問題なのか
素朴には「 の点を決めるのに 個の数が要る」と言いたくなります。ところがこれは位相の言葉ではありません。
全単射だけなら、 と のあいだに存在します。濃度が同じなので、集合としては区別が付かない。
連続性を課しても足りません。ペアノ曲線が全射な連続写像を与えます。同相まで求めて、はじめて次元が守られる[5]。
次元不変性
なら と は同相ではありません。空でない開集合どうしでも同相になりません[1]。
ブラウワーが 1912 年に示しました。証明には代数的位相幾何の道具が要ります。
素朴な議論では届かない、というところがこの定理の位置づけです。
領域不変性
もう少し強い形も成り立ちます。 を開集合、 を連続単射とすると、 は開で は同相写像[1]。
単射な連続写像が自動的に開写像になる、という主張です。次元がそろっているときだけ成り立つ。
無限次元では崩れます。 のシフト写像は連続単射ですが、像が開になりません[1]。
局所ホモロジー
点 のまわりだけを見る道具を作ります。
を局所ホモロジーといいます[2]。 を抜いたことで生じる穴を測る。
大域的な形には依存しません。切除定理から、 の小さな近傍だけで決まる。
多様体での値
を 次元多様体、 を内点とします。 の近傍を にとると、切除により
です[2]。 は とホモトピー同値で、 は可縮。
長完全列から 、ほかの次数は と出ます。 でない次数が 1 つだけ。
次元が読める
でない次数がそのまま次元です。 となる を探せばよい[2]。
同相写像は局所ホモロジーを保ちます。したがって次元も保たれる。
これが次元不変性の証明の筋です。局所の代数的な量に次元を翻訳してしまう。
次数ごとの値を見る
点を抜いたときに何が残るかを、次元ごとに描きます。
抜いた点のまわりに残るのは、 次元なら 2 点、 次元なら円、 次元なら球面です。
のホモロジーが 次に出るので、相対ホモロジーは 次に出ます。この 1 つの数が次元。
例: と
の点を抜くと が残り、 です。
では が残り、。 になる次数がずれています。
同相なら局所ホモロジーが対応するはずなので、この 2 つは同相になりません。
例:区間が正方形を埋める
ヒルベルト曲線の近似を重ねると、区間の像が正方形を埋めていきます。
極限では、区間から正方形への連続な全射になります。 次元のものが 次元を覆ってしまう。
それでも単射にはなりません。単射なら同相になり、次元不変性に反するため[1]。
例:ペアノ曲線では次元が守られない
から への全射連続写像が存在します。ペアノ曲線。
単射ではありません。単射にできれば、コンパクト空間からハウスドルフ空間への連続全単射が同相になり、次元不変性に反する。
したがってペアノ曲線は必ず自己交差します。次元不変性が、この事実を保証している[5]。
次元は守られません。区間から正方形へ、全射な連続写像が存在します。
次元が守られます。局所ホモロジーが保たれるためです。
境界を見分ける
境界付き多様体では、境界の点で値が変わります。
が境界の点なら、近傍が半空間 になり、 を抜いても可縮のまま。したがって局所ホモロジーがすべて [2]。
内点では です。この差で、境界と内部が代数的に区別できます。
| 点の種類 | 局所ホモロジー | 結論 |
|---|---|---|
| 内点 | H_n = Z | n 次元の内部 |
| 境界点 | すべて 0 | 境界にいる |
境界が同相写像で保たれることも、ここから出ます。境界という言葉が位相的に意味を持つ根拠。
例:円板の境界
の中心では、抜くと が残り です。
境界の点では、近傍が半円板で、抜いても可縮。すべての次数で になります。
円板と球面が同相でないことも、境界の有無から言えます。球面には境界点がない。
例:多様体にならない点
の中の 2 本の直線が原点で交わる図形を考えます。
原点を抜くと 4 本の半直線に分かれ、連結成分が 4 つ。ほかの点を抜くと 2 つに分かれます。
局所ホモロジーの が原点だけ になり、ほかの点では 。値が場所によって違うので、この図形は多様体になりません[2]。
局所ホモロジーで特異点を見つける
多様体では、局所ホモロジーがどの点でも同じ形をしています。違う点があれば、その点は特異点。
くさび形、円錐の頂点、交叉点などが典型です。代数的に特異性を検出する方法になっている。
複体や代数多様体の解析でも、この考え方がそのまま使われます。
証明にどこまで要るか
次元不変性の証明には、切除定理とホモトピー不変性、それに長完全列があれば足ります。
不動点定理を経由する道筋もあります[1]。どちらにせよ、代数の道具なしには届かない。
ブラウワー以前は、次元が同相で保たれることが未解決でした。素朴に見える主張ほど、道具を要することがあります。
被約ホモロジーと懸垂
懸垂 をとると、被約ホモロジーが 1 つずれます。
が成り立ちます[4]。 なので、球面のホモロジーが帰納的に求まる。
は 2 点で 。懸垂するたびに次数が 1 つ上がり、 が出ます。
次元と写像度
から への写像には次数が定まります。 の上で何倍になるかを見る。
次数が でなければ全射です。 への写像が像を持つため。
では が なので、次数という言葉自体が定義されません。次元がそろっていることが前提。
が 次元多様体で、 が内点のとき、 はどうなるか。
- 空間による
ほかの次元の定義
位相的な次元には、ホモロジーによるもの以外にも定義があります。
被覆次元は、開被覆の細分で各点が高々 個の集合に入るような最小の [3]。有限単体複体では、ふつうの次元と一致します。
帰納的次元は、境界の次元を 1 つ下げながら帰納的に定めます。よい空間ではすべて一致する[3]。
ハウスドルフ次元は別のもの
距離を使って測る次元もあります。ハウスドルフ次元は整数になるとは限りません[6]。
カントール集合は約 、コッホ曲線は約 、シェルピンスキーの三角形は約 。
位相的には、カントール集合は 次元、コッホ曲線は 次元です。粗さを測る量と、つながり方を測る量が別だということ[6]。
何が次元を守っているか
ホモロジーが同相で保たれるのは、関手性とホモトピー不変性から。同相なら誘導写像が同型になります。
局所ホモロジーはさらに、切除定理で局所へ絞り込めます。3 つの性質が組み合わさって、次元という言葉に位相的な意味を与えている。
素朴な直感を、公理から出る結論に置き換えたのが、この一連の定理です。










x を抜くと S2 が残り、相対ホモロジーが 0 でないのは 3 次だけです。2 次では 0 になります。