3 次元球面を円で埋め尽くす「ホップ写像」とその絡み目
次元球面を、円で余すところなく分けられます。しかも、どの 2 本の円も必ず 1 回ずつ絡み合っている。
この分け方を与えるのがホップ写像 です[1]。1931 年にホップが作り、次元の高い球面から低い球面への写像が自明でない最初の例になりました。
以下では複素数を使った定義から始め、繊維が円になることを確かめ、絡み目としての様子と の生成元であることまで扱います。
複素数 2 つで書く
を の単位球面と見ます。 で を満たすもの。
写像を
で定めます[1]。第 1 成分が複素数、第 2 成分が実数なので、行き先は 。
値の長さを計算すると になり、 に落ちます。
比をとると見通しがよい
もっと簡単な書き方があります。 をリーマン球面の点と見る。
なので、 が同じ写像を与えます[2]。
比だけを見るので、両方に同じ複素数を掛けても値が変わりません。ここから繊維の形が読めます。
繊維は円になる
とすると、 で [1]。
の複素数は単位円をなすので、繊維は円です。
が円の族に分かれ、族のパラメータが 。これが繊維束としての構造。
主 束
が に自由に作用し、商が になります[1]。
局所的には の形ですが、大域的には積になりません。 と は同相でない。
自明でないところが、この束の面白さです。
立体射影で見る
から 点を抜いて へ立体射影すると、繊維が円として描けます[1,4]。
抜いた点を通る繊維だけが直線になります。無限遠を通る円、と読む。
残りの繊維は、入れ子のトーラスの上に乗ります。トーラス上のヴィラルソー円と呼ばれる円[4]。
4 本の円が互いに絡んでいます。1 本を動かしても、ほかを通り抜けずに引き離せない。
繊維の乗るトーラスの太さが変わると、円の傾きも変わります。 上のどの緯度に対応するかで決まる。
繊維の乗るトーラス
の緯度を固定すると、対応する繊維の全体が の中のトーラスをなします。

赤道に対応するトーラスがいちばん太く、極へ近づくほど細くなります。極では円 1 本に潰れる。
が 2 本の円と、あいだを埋めるトーラスの族に分かれる。ハイゼンベルグ分解と呼ばれる形です。
例:繊維を式で書き下す
の北極 の逆像を求めます。 と から 。
したがって逆像は で、単位円[1]。
南極の逆像は です。2 本は交わらず、しかも絡んでいる。
ホップ絡み目
異なる 2 本の繊維は、絡み数 で絡みます[3]。この 2 本組をホップ絡み目という。
絡み数が でないので、連続に動かしてほどけません。ここが写像の自明でなさの正体。
繊維がどれも絡んでいるので、 を円で分ける方法として「まっすぐでない」形になっています。
ホップ不変量
の写像に、整数の不変量が定まります[3]。
に 次元の胞体を写像で貼り、できた複体のコホモロジー環を見る。 次の生成元 について と書け、この が不変量。
ホップ写像では です。 でないので零ホモトピックになりません[3]。
絡み数としての読み方
ホップ不変量は、 点の逆像の絡み数としても書けます。
に対し と の絡み数が 。これがホップの元の証明です[3]。
コホモロジー環の言葉と、絡み目の言葉が同じ数を出す。位相の異なる側面が一致する場面。
次元の高いほうから低いほうへ、自明でない写像がある。ホモロジーでは なので、この情報は見えません。
高次ホモトピー群が消えるとは限らない、と分かった最初の例になっています。
です。 次元ぶんの情報が何も残りません。
です。ホップ写像が生成元として現れます。
繊維束の長完全列で確かめる
の長完全列を書きます。
、 なので、真ん中の 2 つが同型です。
なので 。繊維束の構造から計算が済みます。
実数版と四元数版
同じ構成が、ほかの division 代数でも動きます[1]。
| 代数 | 繊維束 | 繊維 |
|---|---|---|
| 実数 | S^0 → S^1 → S^1 | S^0 |
| 複素数 | S^1 → S^3 → S^2 | S^1 |
| 四元数 | S^3 → S^7 → S^4 | S^3 |
| 八元数 | S^7 → S^15 → S^8 | S^7 |
全体・底・繊維がすべて球面になる繊維束は、この 4 つだけです[3]。アダムスの定理。
ホップ不変量 の写像が存在する次元も、この 4 つに限られます。
例:四元数版
を の単位球面と見て、比 をとります。
繊維は単位四元数の全体で 。 が 次元球面の族に分かれます[2]。
に の部分が出てくる根拠になっています。
例:一般化された形
も同じ構成で作れます。繊維はいつでも [4]。
が元のホップ写像です。 なので、底が球面になる。
では底が球面になりません。だからアダムスの定理の列には入らない。
ホップ写像 について、正しいものはどれか。
- は と同相である
- 局所的には積だが、大域的には積にならない
- 繊維は点である
- 零ホモトピックである
量子ビットとの対応
準位系の状態は の単位ベクトルで書けます。位相の違いを無視すると、状態はブロッホ球面 の点[1]。
無視した位相が繊維の にあたります。ホップ写像が、状態空間からブロッホ球面への射影そのもの。
大域的に位相を選べないことが、束の非自明性に対応します。ベリー位相が現れる背景。
磁気単極子との対応
ディラックの磁気単極子は、 上の主 束として書けます。束の分類数がチャーン数[1]。
ホップ束はチャーン数 の場合です。単極子の磁荷が量子化されることに対応する。
物理の量子化条件が、束の分類が整数で行われることから出てくる、という構図。
剛体の回転との対応
単位四元数の全体が で、 が の回転を与えます[1]。
と が同じ回転を与えるので、。 が二重被覆になります。
こちらは繊維が の実数版に近い構造です。ホップ束とは別の束ですが、 の役割が共通している。











繊維は S1 で、局所自明性は成り立ちます。ところが π1(S2×S1)=Z に対し π1(S3)=0 なので同相ではありません。