つむじを消せない理由はどこに書いてあるのか?特性類から読む
球面の上に、どこでも にならない接ベクトル場は作れません。頭髪をつむじなく撫でつけられない、という言い方でも知られています。
作れない理由を数で書き下したものが特性類です[3]。束のねじれ具合をコホモロジー類としてとり出し、 でなければ「作れない」と結論する。
以下では特性類の定義から始め、実束のシュティーフェル・ホイットニー類、複素束のチャーン類、オイラー類を順に見て、それぞれが何の障害を測っているのかを扱います。
何を測る道具なのか
ベクトル束 が自明であれば、大域的な枠がとれます。切断を 本、どこでも一次独立に選べる。
自明でなければ選べません。判定を直接やるのは難しいので、自明なら必ず になる量を作ります[3]。
でなければ自明でない、と結論できる。逆は言えないところが、この道具の限界でもあります。
特性類の定義
各ベクトル束にコホモロジー類を対応させ、引き戻しと両立するものを特性類といいます。
が任意の連続写像 で成り立つ、という条件[3]。自然変換になっている。
同型な束には同じ類を返します。だから束の同型類の不変量。
分類空間から見る
階数 の実ベクトル束は、グラスマン多様体への写像で分類されます。普遍束の引き戻しとして書ける。
したがって特性類は、分類空間のコホモロジーの元と同じものです[6]。 の元を引き戻す。
分類する側の空間のコホモロジーを一度計算しておけば、あらゆる束に使い回せます。
シュティーフェル・ホイットニー類
実ベクトル束 に対し、 が定まります[1]。
4 つの公理で一意に決まります。
係数が なので、向きの情報を持ちません。そのぶん、どんな実束にも定義できる。
は向き付けの障害
であることと、 が向き付け可能であることが同値です[1]。
なので、 はループに を返す準同型と読めます。
一周して向きが裏返るループで を返す。障害を 1 つの類に押し込んだ形。
例:メビウス束
の上の直線束を 2 つ考えます。自明な帯と、メビウスの帯。
メビウスの帯では、中心の円周を一周すると向きが裏返ります。[1]。
自明な帯では 。 なので、直線束はこの 2 つで尽きます。
左の矢印は向きを保ちます。右は半回転して戻り、逆向きになる。
この違いが の値です。 の 2 元が、そのまま 2 種類の束に対応している。
とスピン構造
向き付け可能な束が、さらにスピン構造を持つかどうかを が測ります[1]。
かつ が、スピン構造を持つ条件。
物理でフェルミオンを載せるために要る条件が、この 2 つの類で書けます。
例: の接束
の接束について、全類は の形になります。 は の生成元[1]。
なら (係数は )。 なので向き付け不可能。
なら で、。 が向き付け可能であることと合っています。
チャーン類
複素ベクトル束には、整数係数の類が定まります[2]。。
公理はシュティーフェル・ホイットニー類と同じ形です。、自然性、ホイットニー和、規格化。
次数が と偶数になるところが違います。複素構造のぶん、奇数次が現れない。
実束。係数は 、次数は 。向きの情報を持ちません。
複素束。係数は 、次数は 。符号まで含めた情報を持ちます。
は直線束を分類する
複素直線束では だけが残ります。しかもこれが完全な不変量[2]。
上の複素直線束の同型類と が 1 対 1 に対応します。
を計算すれば、直線束が何種類あるかが分かる。分類が完全に済む珍しい場合です。
例: 上の直線束
なので、直線束は整数で分類されます。
恒真直線束 が 、その双対 が [2]。
接束は で 。積分すると になり、オイラー標数と一致します。
オイラー類
向き付けられた実ベクトル束には、オイラー類 が定まります[4]。 は階数。
最高次のシュティーフェル・ホイットニー類は、オイラー類を に落としたものです。向きを忘れた形。
なら、どこでも でない切断が存在しません[4]。障害としてのいちばん直接的な形。
例:毛玉の定理
の接束のオイラー類を基本類で評価すると、オイラー標数 が出ます[4]。
でないので、どこでも でない接ベクトル場が存在しません。
では で、実際にベクトル場が作れます。 や には零点のない場がある。
零点の指数を数える
球面上のベクトル場は、どう作っても零点を持ちます。指数を足すと必ず になる。
零点を近づけても、ぶつけても消えません。指数が打ち消し合わないため。
トーラスなら なので、零点のない場が作れます。オイラー類が になる[4]。
例:階数と次数の対応を並べる
どの類がどこに住むかを表にします。
| 類 | 対象 | 係数と次数 |
|---|---|---|
| w_i | 実束 | Z/2 係数、i 次 |
| c_i | 複素束 | Z 係数、2i 次 |
| p_k | 実束 | Z 係数、4k 次 |
| e | 向き付き実束 | Z 係数、階数と同じ次数 |
次数の上がり方が、それぞれの構造の細かさに対応しています。複素構造があると 2 つずつ、四元数的な事情が入ると 4 つずつ[5]。
例:ホイットニー和で計算する
の接束に自明な直線束を足すと、 本の恒真直線束の和になります。
全類は で、自明束の類は 。したがって接束の全類も [1]。
直接計算せずに、和の公式から答えが出ます。公理だけで計算が進む例。
ポアンカレ・ホップの定理
零点を持つベクトル場をとり、各零点の指数を足すとオイラー標数になります[4]。
つむじを消せないだけでなく、つむじの「向き」を足した数まで決まっている、という主張。
オイラー類が言っているのは、この和が でないこと。個々の零点の位置は自由でも、総和は動きません。
複素直線束 について、 から言えることはどれか。
- は自明束と同型である
- には零点のない切断がない
- の階数が である
- 自明束と同型で、しかも が完全な不変量である
ポントリャーギン類
実束を複素化してからチャーン類をとります[5]。
次数は です。実束に整数係数の類を入れる方法として使われます。
奇数番目のチャーン類は 捩れを除いて消えます。複素共役の対称性が効くため。
障害としての読み方
特性類の一般的な読み方は「切断を 本とる障害」です[1,3]。
が消えないと、独立な切断を一定本数そろえられない。 が消えないと、 でない切断が 1 本もとれない。
作れるときは になり、作れないときは でない。作れるかどうかを直接調べる代わりに、計算できる量へ翻訳しています。
消えても自明とは限らない
障害が消えることと、束が自明であることは別です。
でも自明でない実束があります。特性類は完全な不変量ではありません[3]。
平坦な束では特性類が消えるので、より細かい二次特性類が要ります[6]。
曲率からも作れる
滑らかな多様体では、接続の曲率から特性類を作れます。チャーン・ヴェイユの構成[6]。
実係数までしか届かないので、 係数のシュティーフェル・ホイットニー類はこの方法では作れません。
位相的な定義と微分幾何的な定義が、実係数の範囲で一致する、という関係になっています。










複素直線束は c1 で完全に分類されます。したがって c1=0 なら自明束と同型。実束ではこう単純にはいきません。