切除公理がない代わりの道具 - ホモトピー群の長完全列
ホモトピー群には切除公理がありません。空間を分けて計算する、という道が使えない。
代わりの道具が繊維束の長完全列です[1]。繊維・全空間・底空間の 3 つのホモトピー群が、1 本の完全列に並びます。
以下では持ち上げの性質から始め、列の作り方と使い方を追い、ホップ束や被覆空間での計算を書き下します。
ホモトピーの持ち上げ
が、ある空間 についてホモトピー持ち上げ性を持つとは、次が成り立つことです[1,5]。
の中のホモトピー と、その始点の持ち上げ が与えられたとき、 を覆うホモトピー が存在する。
底空間での動きを、全空間の中でなぞれる、という条件です。一意性は要求しません。
ファイブレーションの種類
すべての空間について持ち上げ性を持つものをフレヴィッツ・ファイブレーション、CW 複体についてだけ持つものをセール・ファイブレーションといいます[1,5]。
前者のほうが強い条件です。フレヴィッツならセールでもある。
繊維束は、底空間がパラコンパクトかつハウスドルフならフレヴィッツ・ファイブレーションになります[1]。ふつうに出てくる束はこの条件を満たす。
長完全列
をセール・ファイブレーション、 を繊維とします。
が完全です[1,2]。像と核が一致しながら、次数を下げつつ続く。
が境界写像です。底空間のループを持ち上げると、始点と終点が繊維の中でずれる。そのずれを見る。
完全列の読み方
完全であるとは、各所で像と核が一致することです。これだけで、かなりのことが言えます[4]。
未知の群を、既知の群のあいだに挟んで決める、というのが基本的な使い方です。
挟んで決める様子
両隣が になると、真ん中が同型になります。
両隣が になると、真ん中の 2 つが同型でつながります。 から来る像も、 へ行く核も、全体になる。
計算は「どこかが になる状況を探す」形で進みます。
例:ホップ束
に当てはめます。 が で成り立つ[2]。
したがって では両隣が になり、。
なので が出ます。ホモロジーでは見えない群が、この列 1 本で決まる。
例: を確かめる
同じ列で を見ます。、、、。
が完全なので、。
例:被覆空間
被覆写像はファイブレーションで、繊維が離散集合です[1]。したがって が で成り立つ。
では両隣が になり、[2]。
高次ホモトピー群は被覆で変わりません。基本群だけが変わる。
例:
が二重被覆です。 なら が で成り立つ。
で、こちらは とは違います。
被覆が変えるのは だけ、というのがこの計算から見えます。
繊維が離散。 だけが変わり、高次は同じままです。
繊維が 。 と が動き、高次は でつながります。
例:道と輪の束
の基点から出る道の全体 をとると、(終点を返す)がファイブレーションになります[1,5]。
繊維は基点に戻る道の全体、つまりループ空間 。 は可縮です。
長完全列で を入れると、 が出ます。次数を 1 つずらす関係。
例:球面束
も同じ形です[1]。
のとき 、 が 。
では全空間 が可縮なので、 でほかがすべて 。 になります。
繊維が離散集合の被覆 について、 と の関係はどれか。
- 同型になる
- が の部分群になる
- 関係は決まらない
対の長完全列
繊維束がなくても、対 に対して同じ形の列が作れます。
が完全です[2]。相対ホモトピー群を挟む形。
繊維束の列は、この対の列から出せます。 という同型を経由する。
境界写像の中身
を具体的に書きます。
の中の 次元球面の写像をとり、持ち上げようとする。持ち上がりますが、境界が繊維の中で閉じません[2]。
閉じないぶんが の元です。持ち上げの失敗の度合いを測っている。
持ち上げの失敗を絵で見る
底空間のループを持ち上げると、繊維の中で始点と終点がずれます。
青が底空間のループ、赤がその持ち上げです。一周しても、赤い道は始点に戻りません。
戻らないぶんが繊維の中の元で、境界写像 の値になります[2]。次数を上げても同じ構図。
例:メビウス束で確かめる
上のメビウス束をとります。繊維は区間で可縮。
底の円周を一周すると、繊維の向きが裏返ります。 の元が繊維の成分を入れ替える形。
繊維が連結なので は 1 点ですが、境界に絞れば になり、ずれが目に見えます。
例:計算の順番を決める
長完全列を使うときは、既知の群を左右に配置してから未知を挟みます。
では、 が で という事実がすべての鍵。 の高次が消えることが、列を切る役目を果たします[6]。
どの束を選ぶかで計算の難しさが変わる、というのがこの道具の使いどころです。
完全性の証明の筋
各所での像と核の一致を、持ち上げ性から示します。
たとえば の核が の像であること。 の中の球面が で潰れるなら、潰すホモトピーを持ち上げて の中へ押し込める。
どの箇所も同じ形の議論です。持ち上げ性が 1 つあれば、列全体が動く[5]。
五項補題
完全列を 2 本並べ、あいだに写像を置いた図式を考えます。
外側の 4 つが同型なら、真ん中も同型になる[4]。これが五項補題。
繊維束の列を比べて結論を出すときによく使います。列 1 本ではなく、列どうしの比較で使う道具。
ホモロジーとの違い
ホモロジーには切除公理があり、マイヤー・ヴィートリス列が使えます。空間を分けて計算できる。
ホモトピー群にはこれがありません。代わりに繊維束の列が主な計算手段になります[2]。
束を見つけられるかどうかが計算の成否を決める、という状況です。スペクトル系列は、この列を組織的に扱う仕組み。










離散集合のホモトピー群は n≥1 で 0 です。両隣が 0 になるので同型になります。