ホワイトヘッドの定理〜群がそろえば同じ空間と言えるのか
ホモトピー群がすべて同型なら、2 つの空間は同じものと言えるか。素朴には言えそうですが、そのままでは成り立ちません。
条件を 2 つ足すと成り立ちます。空間が CW 複体であること、そして同型を誘導する写像が実際にあること[1]。これがホワイトヘッドの定理です。
以下では弱ホモトピー同値の定義から始め、2 つの条件がそれぞれどこで効くのかを反例で確かめ、CW 近似とホモロジー版まで扱います。
弱ホモトピー同値
連続写像 が、道連結成分の集合に全単射を、すべての基点とすべての でホモトピー群に同型を誘導するとき、 を弱ホモトピー同値といいます[3]。
ホモトピー同値なら弱ホモトピー同値です。逆写像の存在まで求めていないぶん、条件が弱い。
弱いほうが確かめやすいので、まずこちらを示して定理で持ち上げる、という使い方をします。
定理の主張
、 を CW 複体とし、 を弱ホモトピー同値とします。このとき はホモトピー同値です[1,4]。
のホモトピー逆写像が存在する、という主張。群の同型から写像の存在が出てきます。
ホワイトヘッドが 1949 年に示しました。CW 複体を導入した論文と同じ時期のもの。
群が同型なだけでは足りない
ホモトピー群が抽象的な群として同型でも、結論は出ません。誘導する写像が要ります[1]。
反例があります。 と を比べる。
どちらも基本群が で、普遍被覆が です。したがってすべてのホモトピー群が同型になります[1]。
例:ホモロジーで区別する
いまの 2 つは、ホモロジー群が違います。したがってホモトピー同値ではありません[1]。
群がそろっていても、それをつなぐ写像がなければ何も言えない。定理が「写像 が誘導する」という形で書かれているのは、このため。
同型の存在と、同型を実現する写像の存在は別のことです。
が各 で成り立つだけ。結論は出ません。
が同型。CW 複体ならホモトピー同値が出ます。
例:同じ群でも違う空間
反例の 2 つを、次数ごとに並べて見ます。

上段はそろい、下段は食い違います。同じ普遍被覆を持つことが、ホモトピー群の一致を作っている[1]。
一致しているのに同値でない。定理が写像を要求する理由が、この 1 例で分かります。
CW という仮定はどこで効くか
CW 複体でなければ、写像があっても結論が出ません[1,2]。
ワルシャワ円周がその例です。位相幾何学者の正弦曲線を弧で閉じた、平面のコンパクト部分集合。
ホモトピー群がすべて自明で、1 点への写像は弱ホモトピー同値になります。ところが可縮ではありません[2]。
ワルシャワ円周
のグラフを でとり、 の極限で残る線分をつなぎ、さらに弧で両端を結びます。
このつなぎ目のところで、局所的な性質が壊れます。どんな小さな近傍をとっても、無限に振動する部分が入る。
局所可縮でないので、CW 複体のホモトピー型を持ちません[2]。定理の仮定を外れる。
拡大しても振動が収まりません。左端の近くでは、どんな小さな近傍にも無限個の山が入る。
この振動があるせいで、ループを縮める連続な方法が作れません。ホモトピー群は自明なのに、可縮でない[2]。
CW 近似
どんな位相空間 にも、CW 複体 と弱ホモトピー同値 が存在します[3]。
したがってホモトピー群だけを見る限り、CW 複体で考えれば足ります。ワルシャワ円周の CW 近似は 1 点。
近似をとると情報が落ちます。落ちるのは、ホモトピー群では見えていなかった部分だけ。
弱同値で割る
ホモトピー圏を作るとき、弱ホモトピー同値を同型として扱います[3]。
このやり方だと、ワルシャワ円周と 1 点が同一視されます。区別したければ、別の理論が要る。
形状理論は、そういう空間を扱うために作られました[2]。
ホモロジー版
単連結な CW 複体のあいだの写像が、ホモロジー群に同型を誘導すれば、その写像はホモトピー同値です[5]。
証明にはフレヴィッツの定理を使います。相対版で帰納的に持ち上げる。
単連結という仮定が要ります。基本群が非自明だと、ホモロジーだけでは足りない。
フレヴィッツの定理
が 連結なら、フレヴィッツ写像 が同型になります[5]。
では、 の可換化が に一致します。可換化のぶんだけ情報が落ちる。
ホモトピーとホモロジーが、連結性の高いところで一致する、という主張です。
すべてのホモトピー群が自明な位相空間は可縮か。
- 必ず可縮である
- CW 複体なら可縮だが、一般には可縮とは限らない
- 一般に可縮ではない
- 単連結なら可縮である
例:単連結でないと崩れる
ホモロジー版で単連結の仮定を外すと反例が出ます。
()と を比べる。基本群はどちらも ですが、ホモトピー型は違います。
適当な写像でホモロジーだけそろえても、 が違うので同値になりません。
証明の筋
を写像柱に置き換え、対 を考えます。 が弱同値なら、相対ホモトピー群がすべて [1]。
胞体を 1 つずつ見て、 へ押し込むホモトピーを作る。CW 構造があるので、次元の低いほうから順に処理できます。
ホモトピー拡張性が使えることが、CW という仮定の効きどころです。
使い方
実際には、次の順で使うことが多くなります。
写像を作る
ホモトピー群への誘導が同型であることを確かめる
定理でホモトピー同値へ格上げする
群の計算は代数の問題に落ちます。写像の存在を直接示すより、ずっと扱いやすい。
何のための定理か
ホモトピー同値であることを、直接示すのは難しい仕事です。逆写像とホモトピーを 2 本、明示的に作る必要がある。
ホモトピー群の同型なら、代数の計算で片づきます。定理はこの 2 つを橋渡しする道具[4]。
CW 複体がホモトピー論の標準的な舞台になっているのは、この橋が架かる範囲だからです。










CW 複体なら、1 点への写像が弱ホモトピー同値になり、定理から可縮です。ワルシャワ円周は CW 複体でないので反例になります。