中学理科1633649 views
中学社会670081 views
数学講師2913151 views
中学英語813624 views
雑学1474218 views
ヒストリア294981 views
小学算数1203731 views
高校日本史191026 views
小学理科721729 views
MathPython501700 views
Help
Tools

English

懸垂は次元を上げ、ループ空間は次数を下げる

球面の次元を 1 つ上げる操作と、ホモトピー群の次数を 1 つ下げる操作。この 2 つが互いに向かい合っています。

前者が懸垂、後者がループ空間です[1,2]。 という関係で結ばれ、随伴と呼ばれます。

以下では 2 つの構成を定義し、随伴が何を言っているかを確かめ、フロイデンタールの定理から安定ホモトピー論とスペクトラムまで進みます。

懸垂

を に伸ばし、上下の面をそれぞれ 1 点に潰したものを懸垂 といいます[1]。

2 つの錐を底で貼り合わせた形、とも読めます。 と の結び でもある。

簡約懸垂

基点付きで扱うときは、基点を通る線分も潰します。

これが簡約懸垂です[1]。 と のスマッシュ積 と同相。

CW 複体では、 と はホモトピー同値です。ふつうは区別せずに使う。

例:球面の懸垂は球面

が成り立ちます[1]。

で上下を潰すと、緯度が から まで動く の書き方そのもの。

は 2 点で、懸垂すると線分 2 本がつながって円周。ここから帰納的にすべての球面が出ます。

懸垂を動かして見る

円周を懸垂して球面ができる過程を描きます。

赤い円周が元の で、上下の黒い点が潰した先です。あいだの薄い円が、時刻ごとの断面。

をどんな空間にしても同じ構成が使えます。次元が 1 つ上がる。

ホモロジーが 1 つずれる

被約ホモロジーには、きれいな関係があります[1]。

マイヤー・ヴィートリス列で、2 つの錐が可縮であることを使えば出ます。

から始めて、 が帰納的に出ます。球面のホモロジーがこれで決まる。

ループ空間

基点を保つ写像 の全体に、コンパクト開位相を入れたものがループ空間 です[2]。

道の連結成分が 。空間として見ているので、それより高い情報も持っています。

一般に が成り立ちます[2]。次数が 1 つ下がる。

随伴

懸垂とループ空間は、互いに随伴になります。

が基点付きホモトピー類の集合として成り立ちます[1,2]。

が左随伴、 が右随伴。 をとれば が出ます。

懸垂

次元を 1 つ上げます。左随伴で、。

ループ空間

次数を 1 つ下げます。右随伴で、。

道と輪の束

基点から出る道の空間 をとると、終点を返す写像 がファイブレーションです[2]。

繊維は基点に戻る道、つまり 。 は可縮なので、長完全列から が出ます。

随伴の関係を、束の言葉で言い直した形になっています。

ループ空間は H 空間

には、道をつなぐ積が入ります。単位元は定数ループ、逆元は逆にたどる道[4]。

厳密な結合律は成り立ちませんが、ホモトピーの意味で成り立つ。こういう空間を H 空間といいます。

H 空間の基本群はいつも可換です[4]。エックマン・ヒルトンの議論が効く。

例:H 空間になる球面

、、、 だけが H 空間です[4]。

実数、複素数、四元数、八元数の単位元の全体。ホップ不変量 の写像が存在する次元と一致します。

、、 は位相群ですが、 は違います。八元数の積が結合的でないため。

フロイデンタールの定理

が 連結なら、懸垂写像 は で同型、 で全射です[3]。

球面に当てはめると、 は 連結なので、 が で安定します[3]。

安定した先の値を、 次の安定ホモトピー群といいます。

安定域と不安定域

を固定して を上げていくと、あるところから値が動かなくなります。

不安定な部分は ごとに違い、計算が難しい。安定な部分は 1 つの群にまとまる[3]。

安定ホモトピー論は、この安定した領域だけを扱う分野です。

と の関係はどれか。

  • どちらも になる
  • 懸垂写像で同型になる
  • 前者が後者の部分群になる
  • 関係は決まらない
__RESULT__

は 連結なので、 で同型です。 は範囲を超えていますが、 側で見れば で安定域に入り、同型になります。

安定するところを表で見る

を固定して を動かすと、あるところから値が止まります。

の段ごとに、右へ行くと値が止まります。止まった先が 次の安定ホモトピー群[3]。

赤い左下だけが個別の計算を要します。安定域は 1 つの群にまとまるので、そこだけを扱う理論が作れる。

例:懸垂で次数が上がる様子

を懸垂すると へ移ります。値は 。

は 連結なので、フロイデンタールの範囲は 。 は範囲外なので、同型が崩れても矛盾しません[3]。

もう一度懸垂すると で、こちらは安定域に入ります。以降は変わりません。

スペクトラム

安定した情報だけを扱う対象がスペクトラムです[5]。

空間の列 と、構造写像 の組。懸垂で次へつながる仕組みを、あらかじめ組み込んだ形。

ホモトピー群は極限で定めます。

安定な値がそのまま定義になります[5]。

懸垂スペクトラム

空間 から としてスペクトラムを作れます。懸垂スペクトラム 。

のとき、球面スペクトラムができます。安定ホモトピー論のいちばん基本的な対象[5]。

が、球面の安定ホモトピー群そのものになります。

スペクトラム

構造写像の随伴 が弱同値になるものを スペクトラムといいます[5]。

各段が次の段のループ空間になっている。K 理論のスペクトラムがこの形。

一般コホモロジー論はスペクトラムで表現されます。ブラウンの表現定理[5]。

何を捨てているのか

懸垂を繰り返すと、不安定な情報が落ちます。落ちた先に残るのが安定な部分。

不安定なほうが情報は多いのですが、計算がほとんどできません。安定なほうは道具がそろっている[3]。

扱える範囲まで情報を落として、その中で完全な理論を作る。安定ホモトピー論の設計はこの形になっています。

よくある誤り

懸垂とループ空間を逆に覚える。 が次元を上げ、 が次数を下げます
と を無条件に同一視する。CW 複体ならホモトピー同値です
随伴の向きを逆にする。 が左、 が右です
フロイデンタールの範囲を忘れる。 でだけ同型になります
を群だと思う。H 空間で、結合律はホモトピーの意味でだけ成り立ちます
を位相群だと思う。H 空間ですが群にはなりません
安定ホモトピー群が不安定なものより情報が多いと思う。落とした先が安定な部分です

参考文献

Suspension (topology))
Loop space
Freudenthal suspension theorem
H-space
Spectrum (topology))
Homotopy groups of spheres
懸垂は空間の次元を 1 つ上げ、ループ空間はホモトピー群の次数を 1 つ下げます。この 2 つは $[\Sigma Z, X] \cong [Z, \Omega X]$ で向かい合っていて、$\Sigma$ が左随伴、$\Omega$ が右随伴。$\Sigma S^n = S^{n+1}$ から球面のホモロジーが帰納的に出ます。懸垂を繰り返すと、フロイデンタールの範囲を超えたところで値が止まる。止まった先が安定ホモトピー群で、それだけを扱う対象がスペクトラムです。