ラテン方陣でも群とは限らない - 群の定義と 3 つの条件
群の定義に出てくる条件は 3 つだけです[1]。結合律、単位元の存在、逆元の存在。
条件が少ないぶん、そこから引き出せることも限られます。ところが実際には、この 3 つだけで乗積表の形まで決まってしまう。
定義
集合 と、その上の演算 の組を考えます。演算の行き先が の中にあることは、写像として定めた時点で込みになっています。
次の 3 つを満たすとき、 を群といいます[1]。
がつねに成り立つとき、 を可換群、またはアーベル群といいます[1]。
の元の個数を位数といい と書きます。有限とは限りません。
単位元も逆元も 1 つしかない
定義は「ある」としか言っていませんが、実際には一意です[1]。
単位元から見ます。 と がどちらも条件 2 を満たすとします。 が単位元だから 、 が単位元だから 。よって です。
逆元も同じ形で決まります。 と がどちらも の逆元だとすると
途中で結合律を使いました。単位元の一意性は結合律なしで出ますが、逆元のほうは結合律が要ります[1]。
片側だけで足りる
定義では単位元も逆元も両側で条件を書きました。実は左側だけ仮定すれば、右側は自動的に付いてきます。
仮定を次に弱めます。演算は結合的で、 をすべての で満たす があり、各 に となる がある。
まず を示します。 に対しても仮定が使えるので、 となる がとれる。
次に が出ます。
左単位元と左逆元だけで、両側の条件がそろいました。定義に書く条件は、この意味で余分を含んでいます。
消去律と乗積表
なら、両辺に左から を掛けて です。右からでも同じ。これを消去律といいます。
有限群で乗積表を書くと、消去律が形になって現れます。 の行に同じ元が 2 回出ることは かつ を意味するので、起こりません。
各行は の元をちょうど 1 回ずつ並べた列になる。列についても同じです。

ラテン方陣なら群、ではない
各行各列に全部の元が 1 回ずつ並ぶ表をラテン方陣といいます。群の乗積表はラテン方陣です。逆は成り立ちません。
位数 で反例を作ります。
どの行にもどの列にも から が 1 回ずつ並びます。 は両側の単位元で、対角に が並ぶので全部の元が自分自身の逆元です。
3 つの条件のうち、単位元と逆元は満たしている。それでも群ではありません。
結合律が崩れました。位数 の群は巡回群だけで、そこでは単位元以外の元の位数が です。この表では全部が位数 なので、群になりようがない。
3 つの条件のうち、実際に働いているのは結合律だということが見えます。
元の位数
について となる正整数 があるとき、その最小のものを の位数といいます。なければ位数は無限です。
有限群では全部の元の位数が有限になります。 が有限個の中に収まるので、()となる場所があり、消去律から が出るためです。
位数が の元が生成する部分群は で、大きさは 。Lagrange の定理から、元の位数は群の位数を割ります。
位数の小さい群
位数が素数 の群は巡回群だけです。単位元でない元 をとると、 の大きさは より大きく を割るので 。つまり になります。
位数 を見ます。位数 の元があれば巡回群 です。なければ、単位元以外の元の位数はすべて 。
このとき群は可換になります。 から で、 を開くと 、つまり です。
可換で全部の元が位数 なら 。位数 の群は 2 つだけになります。
位数 も決まります。Cauchy の定理から位数 の元 と位数 の元 がとれる。 は指数 なので正規です。
は位数 で に入るので、 か のどちらかになります。 なら は可換で 。 なら二面体群の関係式そのもので、 です。
位数が素数のところは必ず です。 のべきのところで急に増える。位数 で 個、位数 になると 個になります。
非可換の最小は位数 6
位数 以下の群はすべて可換です。位数 は素数か自明で巡回群、位数 は上で見た 2 つでどちらも可換。
位数 で初めて非可換が出ます。 がそれで、乗積表を見ると と が違う元になっている。
3 つの条件から可換性は出てきません。可換であることは、群であることとは別の追加条件です。
単位元と逆元の一意性、消去律、乗積表がラテン方陣になること
可換性、元の位数がそろうこと、部分群の個数
どこから来た定義か
いまの形に落ち着くまでには時間がかかりました[2]。
Galois は 1832 年の書き込みで、 と が入っていれば も入る、と閉じていることだけを述べています[2]。置換を相手にしているかぎり、ほかの条件は自動で満たされるためです。
Cayley が 1854 年に抽象的な定義を初めて試みました[2]。閉性、結合律、単位元を挙げています。
Kronecker が 1870 年に、可換性と結合律と消去律を仮定する形を出します[2]。有限集合が前提でした。
Weber は 1882 年に似た定義を与えたあと、1895 年の教科書で、この形は有限群にしか通用せず、無限群では逆元を別に要求しなければならないと注意しています[2]。
Burnside は 1897 年に閉性と結合律と逆元を要求し、単位元を公理から外しました[2]。他から導けるためです。
有限性を外し、逆元を明示する。この 2 点が決まって、いまの定義になりました。
位数 の集合に演算を入れ、乗積表がラテン方陣で、単位元があり、すべての元に逆元があったとします。この集合は必ず群ですか。
- 必ず群になる
- 結合律が崩れることがあるので、群とは限らない
- 位数が素数なので必ず巡回群になる
条件を 3 つに絞ったことが、この定義の効き目になっています。閉性と結合律と逆元さえあれば、対称性を扱う道具がそろう。可換性を入れなかったぶんだけ、置換も行列も同じ枠に収まりました。












ラテン方陣であることは消去律に対応するだけで、結合律とは別の条件です。実際、記事で挙げた表では (2⋅3)⋅3=5 に対して 2⋅(3⋅3)=2 となり、結合律が崩れます。群の 3 条件のうち、表の形だけからは読めないのが結合律です。