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English

剰余類とラグランジュの定理|群を部分群で割る…とはどういうことか?

剰余類は、群を部分群で「割った」ときに現れる構造である。部分群 を平行移動して得られる集合たちが、群 をぴったり同じ大きさの断片に切り分ける。

Lagrange の定理は、この分割を数えるだけで得られる。有限群では部分群の位数がつねに全体の位数を割り切る、という強い制約が、平行移動を眺めるだけで出てくる。

以下では剰余類を定義して分割の仕組みを確かめ、指数を導入し、定理と証明を与える。そのうえで Fermat・Euler の定理などの応用を並べ、定理の逆がどこまで成り立つのかまで追う。

左剰余類の定義

を群 の部分群とする。 に対して、集合

を代表元とする の左剰余類という。 の全体を で左から平行移動したもの、と読める。

は一般には部分群ではない。単位元 を含むのは のときに限られ、そのときは となる。剰余類のうち部分群であるのは、 自身ただ 1 つだ。

記号は演算の書き方に合わせる。加法で書かれた群なら となり、こちらのほうが平行移動という直観に近い。

同値関係として見る

剰余類が をきれいに分けるのは偶然ではない。同値関係の同値類として捉えると、その理由がはっきりする。

に対して、関係 で定める。 が部分群であることから、これは同値関係になる。 から反射律、 なら から対称律、積で閉じることから推移律が出る。

この同値関係の同値類が、ちょうど左剰余類にあたる。 の同値類は で、これは に等しい。集合が同値類に分割されるという一般論から、 が剰余類に分割されることが直ちに従う。

剰余類の基本性質

分割を支える性質をまとめる。

である( による)
ならば
である( が全単射)

4 番目が Lagrange の定理の要になる。写像 を掛ければ元に戻せるので全単射で、どの剰余類も とちょうど同じ大きさをもつ。無限群でも濃度として等しい。

3 番目は 2 番目から出る。共通の元 があれば となるので、2 つの剰余類は交わるなら一致するほかない。

剰余類による分割

以上を合わせると、 は左剰余類の非交和として分割される。

ここで は各剰余類から 1 つずつ代表元を選んだ集合で、完全代表系と呼ばれる。

HTML
CSS
JavaScript
<div class="cg-fig">
<svg viewBox="0 0 400 210" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="群 G が同じ大きさの左剰余類 H, aH, bH, cH に分割される図。|G| は剰余類の個数と |H| の積になる。">
<rect x="0" y="0" width="400" height="210" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<rect x="30" y="50" width="85" height="110" fill="#cfe0fa"/>
<rect x="115" y="50" width="85" height="110" fill="#eaf1fd"/>
<rect x="200" y="50" width="85" height="110" fill="#eaf1fd"/>
<rect x="285" y="50" width="85" height="110" fill="#eaf1fd"/>
<g fill="#1b4fb8">
<circle cx="58" cy="86" r="3.4"/><circle cx="87" cy="86" r="3.4"/><circle cx="58" cy="108" r="3.4"/><circle cx="87" cy="108" r="3.4"/>
<circle cx="143" cy="86" r="3.4"/><circle cx="172" cy="86" r="3.4"/><circle cx="143" cy="108" r="3.4"/><circle cx="172" cy="108" r="3.4"/>
<circle cx="228" cy="86" r="3.4"/><circle cx="257" cy="86" r="3.4"/><circle cx="228" cy="108" r="3.4"/><circle cx="257" cy="108" r="3.4"/>
<circle cx="313" cy="86" r="3.4"/><circle cx="342" cy="86" r="3.4"/><circle cx="313" cy="108" r="3.4"/><circle cx="342" cy="108" r="3.4"/>
</g>
<g stroke="#1b4fb8" stroke-width="1.2">
<line x1="115" y1="50" x2="115" y2="160"/>
<line x1="200" y1="50" x2="200" y2="160"/>
<line x1="285" y1="50" x2="285" y2="160"/>
</g>
<rect x="30" y="50" width="340" height="110" fill="none" stroke="#1b4fb8" stroke-width="1.8" rx="4"/>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="14" text-anchor="middle" fill="#1b3a8a">
<text x="200" y="38">G</text>
<text x="72" y="141">H</text>
<text x="157" y="141">aH</text>
<text x="242" y="141">bH</text>
<text x="327" y="141">cH</text>
</g>
<text x="200" y="192" font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="13" text-anchor="middle" fill="#c93c41">|G| = [G : H] · |H|</text>
</svg>
</div>
.cg-fig { margin: 0; text-align: center; }
.cg-fig svg { width: 100%; max-width: 420px; height: auto; }

図がこの状況を表している。 が同じ大きさの断片に切り分けられ、断片の 1 つが 自身である。断片の個数と 1 つあたりの大きさを掛ければ になる、というのが次に見る定理の中身だ。明るい背景を前提に配色したので、暗色テーマでは見えにくくなる場合がある。

右剰余類と一致しない場合

同じことを右からも行える。 を右剰余類といい、これもまた を分割する。

左右は一般には一致しない。ただし、つねに異なるわけでもない。 なら であり、可換群ならすべての が成り立つ。

すべての となるとき、 を正規部分群という。ここでの等号は集合としての一致であって、各 について という元ごとの一致ではない。 を満たす別の があればよい。

左剰余類

で、 を左から平行移動したもの。同値関係 の同値類にあたる。

右剰余類

で、右から平行移動したもの。同値関係 の同値類にあたる。

どちらの分割を使っても議論は平行に進む。以下では慣例に従い、左剰余類を主に用いる。

例: で左右がずれる

左右のちがいを具体的に見る。3 次対称群 と、互換 1 つが生成する部分群 をとる。置換の積は右から作用させる規約、すなわち とする。

左剰余類は を計算すればよい。 なので である。同じように となる。

右剰余類は である。 なので 、同様に となる。

HTML
CSS
JavaScript
<div class="cg-fig">
<svg viewBox="0 0 400 250" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="S3 の部分群 H={e,(12)} による左剰余類と右剰余類の分割を並べた図。2 番目と 3 番目の組の中身が入れ替わっている。">
<rect x="0" y="0" width="400" height="250" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<g stroke-width="1.5">
<rect x="35" y="50" width="104" height="52" rx="6" fill="#eaf1fd" stroke="#1b4fb8"/>
<rect x="148" y="50" width="104" height="52" rx="6" fill="#fdeceb" stroke="#c93c41"/>
<rect x="261" y="50" width="104" height="52" rx="6" fill="#fdeceb" stroke="#c93c41"/>
<rect x="35" y="150" width="104" height="52" rx="6" fill="#eaf1fd" stroke="#1b4fb8"/>
<rect x="148" y="150" width="104" height="52" rx="6" fill="#fdeceb" stroke="#c93c41"/>
<rect x="261" y="150" width="104" height="52" rx="6" fill="#fdeceb" stroke="#c93c41"/>
</g>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="13" fill="#1b4fb8">
<text x="35" y="40">左剰余類 aH</text>
<text x="35" y="140">右剰余類 Ha</text>
</g>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12" text-anchor="middle" fill="#5a6270">
<text x="87" y="69">H</text>
<text x="200" y="69">(13)H</text>
<text x="313" y="69">(23)H</text>
<text x="87" y="169">H</text>
<text x="200" y="169">H(13)</text>
<text x="313" y="169">H(23)</text>
</g>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12" text-anchor="middle" fill="#1b1d22">
<text x="87" y="91">{e, (12)}</text>
<text x="200" y="91">{(13), (123)}</text>
<text x="313" y="91">{(23), (132)}</text>
<text x="87" y="191">{e, (12)}</text>
<text x="200" y="191">{(13), (132)}</text>
<text x="313" y="191">{(23), (123)}</text>
</g>
<text x="200" y="230" font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="13" text-anchor="middle" fill="#c93c41">(13)H ≠ H(13)</text>
</svg>
</div>
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.cg-fig svg { width: 100%; max-width: 420px; height: auto; }

に対して で、両者は異なる。したがって の正規部分群ではない。断片の個数はどちらも 3 で等しいのに、切り方そのものがずれている。

左右の剰余類の個数は等しい

切り方が変わっても、断片の個数は変わらない。左剰余類の全体から右剰余類の全体への全単射が作れるからだ。

対応 を考える。右剰余類については だから、 と同値になる。これは の条件そのものなので、この対応は well-defined で、しかも単射である。

任意の右剰余類 の像だから全射でもある。よって左剰余類の個数と右剰余類の個数は一致し、この共通の値を指数と呼べる。

逆元を挟むところが効いている。対応 では well-defined にならない。先の では が成り立つ一方、 は異なる集合だからである。

指数

における指数とは、左剰余類の個数のことで、 と書く。前節の全単射により、右剰余類の個数と言っても同じである。

が有限なら、分割と から次が成り立つ。

指数は無限群でも意味をもつ。 が無限であっても剰余類の個数が有限なことはあり、そのとき は有限の値になる。次の例がまさにそれだ。

例: 整数と

もっとも身近な例は整数の合同である。加法群 と、その部分群 をとる。

加法で書くので剰余類は となる。これは を法として合同な整数の全体、いわゆる剰余類そのものだ。 なら の 3 つに分かれる。

も無限集合だが、指数は という有限の値をとる。 という式は使えないのに指数は意味をもつわけで、剰余類の個数として定義しておく利点がここに出る。

は可換だから は正規部分群で、剰余類の全体は群 になる。合同式の計算は、この剰余類の上の演算にほかならない。

例: ベクトル空間の平行移動

幾何的な例も見ておく。ベクトル空間 を加法群とみなし、部分空間 を部分群とする。

剰余類 は、 だけ平行移動した集合である。 を原点を通る直線とすれば、剰余類は に平行な直線の全体になる。平面が平行線の束に分かれるという見慣れた絵が、そのまま剰余類の分割だ。

こうした集合はアフィン部分空間と呼ばれる。原点を含むとは限らない「ずれた」部分空間で、原点を含むのは のとき、すなわち のときに限られる。

剰余類の全体は商空間 になる。 という関係は、指数の式 の線型代数版だと見ることもできる。

例: 行列式による分割

行列の群でも剰余類は自然に現れる。体 上の正則行列の全体 と、行列式が の行列の全体 をとる。

の部分群である。剰余類 は、行列式が に等しい正則行列の全体になる。 なら だからだ。

逆に なら なので となる。つまり剰余類は行列式の値でちょうどラベルづけされる。

指数は である。行列式が全射準同型 を与え、その核が だという見方と一致する。核による剰余類が像と対応する、という準同型定理の姿がここに見える。

Lagrange の定理

準備が整った。分割を数えるだけで定理が出る。

Lagrange の定理

を有限群、 の部分群とする。このとき を割り切る。

指数を用いた形

が成り立つ。全体の位数を、断片の個数と 1 つあたりの大きさに分解した形である。

証明は分割の言い換えにすぎない。 個の左剰余類に分割され、どの剰余類もちょうど 個の元をもつ。個数を足し合わせれば となる。

は整数だから、 を割り切る。証明に使ったのは、剰余類が交わらないことと、どれも同じ大きさであることの 2 点だけだ。

定理の歴史

定理の名は Lagrange に由来するが、これは群の概念が確立する前の仕事である。

1770-71
ラグランジュ

『方程式の代数的解法についての省察』で、 変数の多項式の変数を 通りに置換して得られる相異なる多項式の個数が、 の約数になることを示した。群という言葉はまだない。

1801
ガウス

『整数論研究』で、乗法群 の場合に定理を証明した。

1844
コーシー

対称群 の場合に証明を与えた。

1861
ジョルダン

任意の置換群に対する完全な証明を与えた。

抽象群についての一般的な主張として整理されるのは、さらに後になる。定理の名が指す内容と、ラグランジュ自身が示した命題は同じではないという点は、数学史ではよく知られている。

系: 元の位数

定理の系として、元の位数に関する制約が出る。

有限群 の元 について、 が生成する巡回群 の部分群で、その位数は の位数 に等しい。Lagrange の定理を に適用すれば、 を割り切ると分かる。

ここから、任意の について次が成り立つ。

と書けば となるからだ。この単純な等式が、次に見る数論の 2 つの定理を生む。

系: 素数位数の群

位数が素数の群は、構造がひとつしかない。

(素数)とすると、部分群の位数は の約数だから に限られる。したがって部分群は のみである。

単位元でない をとると、 ではないので に一致する。よって が生成する巡回群で、同型を除いて ただ 1 つに決まる。

正規部分群も しかないので、 は単純群でもある。位数が素数だというだけで、構造が完全に決まってしまう。

指数の乗法性

部分群が入れ子になっているとき、指数は掛け算でつながる。 ならば次が成り立つ。

有限群なら から明らかだが、この等式は無限群でも成り立つ。個数を直接数えれば示せるからだ。

における完全代表系、 における完全代表系とすると、積 における完全代表系になる。組の個数を数えれば乗法性が出る。

HTML
CSS
JavaScript
<div class="cg-fig">
<svg viewBox="0 0 400 210" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="部分群の塔 K ≤ H ≤ G と、指数の乗法性 [G:K]=[G:H][H:K] を示す図。">
<rect x="0" y="0" width="400" height="210" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<g stroke="#1b4fb8" stroke-width="1.6">
<line x1="200" y1="56" x2="200" y2="91"/>
<line x1="200" y1="119" x2="200" y2="154"/>
</g>
<g fill="#eaf1fd" stroke="#1b4fb8" stroke-width="1.5">
<rect x="176" y="28" width="48" height="28" rx="6"/>
<rect x="176" y="91" width="48" height="28" rx="6"/>
<rect x="176" y="154" width="48" height="28" rx="6"/>
</g>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="14" text-anchor="middle" fill="#1b3a8a">
<text x="200" y="47">G</text>
<text x="200" y="110">H</text>
<text x="200" y="173">K</text>
</g>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="13" fill="#7a52c0">
<text x="236" y="78">[G : H]</text>
<text x="236" y="141">[H : K]</text>
</g>
<text x="200" y="198" font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="13" text-anchor="middle" fill="#c93c41">[G : K] = [G : H] · [H : K]</text>
</svg>
</div>
.cg-fig { margin: 0; text-align: center; }
.cg-fig svg { width: 100%; max-width: 420px; height: auto; }

図のように、 で分けた断片が、さらに で細かく分かれる。粗い分割と細かい分割が入れ子になっていて、いちばん細かい分割の個数は 2 段の積になる。

応用: Fermat の小定理

数論への応用を見る。 を素数、 で割り切れない整数とする。

を法とする既約剰余類の全体 は、位数 の群である。 が素数なので、 から までのすべてが と互いに素になるからだ。

の属する類はこの群の元だから、さきほどの をそのまま適用できる。

これが Fermat の小定理である。群の位数による制約だけから、ほとんど計算なしに出てくる。

応用: Euler の定理

同じ議論は一般の法でも通る。 を正の整数とし、 とする。

の位数は、 以下で と互いに素な正の整数の個数、すなわち Euler の関数 である。 の属する類はこの群に入るので、同じく から次を得る。

とすれば で、Fermat の小定理に戻る。Euler の定理は RSA 暗号の正当性を支える等式でもあり、群の位数による制約がそのまま実用につながっている。

指数 2 の部分群は正規

剰余類の議論だけで得られる、便利な事実がある。指数が の部分群は、つねに正規である。

とする。左剰余類は と、残り全部の の 2 つしかない。右剰余類も同じく の 2 つである。

なら ではないほう、つまり となる。 なら である。どちらの場合も なので、 は正規部分群になる。

たとえば交代群 は対称群 の指数 の部分群だから正規である。先に見た は指数 で、正規でなかったのと対照的だ。

逆は成り立たない

Lagrange の定理の逆、すなわち の約数 ごとに位数 の部分群が存在するという主張は、一般には偽である。

最小の反例は交代群 である。位数は はその約数だが、位数 の部分群をもたない。位数 以下のどの群でも、また位数 の他の群でも、約数ごとに部分群は存在する。

証明を与える。位数 の部分群 があると仮定すると、 だから前節より は正規である。

には位数 の元、すなわち 3 次の巡回置換が 個ある。その 1 つを とすると、商群 は位数 なので であり、 から でもある。 の位数は の両方を割り切るので 、つまり となる。

これが 個すべての 3 次巡回置換について言えるので、 は少なくとも 個の元を含む。しかし だから矛盾する。よって位数 の部分群は存在しない。

部分的な逆: Cauchy と Sylow

逆は完全には成り立たないが、素数がからむ範囲では成り立つ。

Cauchy の定理は、素数 を割り切るなら は位数 の元をもつ、と主張する。その元が生成する巡回群は位数 の部分群だから、素数の約数については逆が成り立つ。

Sylow の定理はこれを素冪へ拡張する。 を割り切るなら位数 の部分群が存在し、とくに最大の素冪については Sylow 部分群として存在する。

でも、位数 の部分群はすべて存在する。破綻するのは素冪でない約数 のところだけだ。逆が崩れるのは素冪から外れた領域なのだと分かる。

逆が成り立つ群のクラス

群のクラスを絞れば、逆が成り立つこともある。

有限可換群では逆が成り立つ。 のどの約数 についても位数 の部分群が存在し、これは有限可換群の構造定理から従う。有限 群でも同様に、 の約数 ごとに位数 の部分群がある。

逆が成り立つ群は CLT 群と呼ばれる。超可解群は CLT 群であり、CLT 群は可解群である。どちらの包含も真で、 は可解だが CLT ではない例になっている。

つまり「逆が成り立つ」という性質は、超可解性と可解性のあいだにきっちり挟まれる。Lagrange の定理の逆は、群の可解性の度合いに関わる繊細な条件だったわけだ。

正規部分群と商群

正規部分群の場合には、剰余類の全体そのものが群になる。

の正規部分群とすると、剰余類の積を で定められる。正規性は、この定め方が代表元の取り方によらないこと、すなわち well-defined であることを保証する。

こうして得られる群を商群 という。単位元は 自身で、 の逆元は である。 となるので、Lagrange の定理は商群の位数の式としても読める。

正規でない部分群では、剰余類の集合 は群にならない。 がその例で、集合としての分割はできても積が定まらない。剰余類が群をなすかどうかが、正規部分群という条件の意味である。

軌道と固定部分群への一般化

Lagrange の定理は、群作用の言葉でさらに広い形をとる。

が集合 に作用しているとし、 の軌道を 、固定部分群を とする。このとき が全単射を与え、軌道の元と剰余類が 1 対 1 に対応する。

これが軌道・固定部分群定理である。有限群なら となり、軌道の大きさが を割り切る。

として剰余類の集合 をとり、 を左から作用させて とすれば、 かつ となって、指数の関係がそのまま出る。剰余類による分割は、作用による軌道分解の原型だと見ることができる。

理解の確認

最後に 1 問。定理が保証することと、しないことの区別を思い出してほしい。

位数 の群 について、Lagrange の定理から確実に言えることはどれか。

  • 位数 の部分群が存在する
  • どの部分群の位数も のいずれかである
  • どの元の位数も である
  • は可換である
__RESULT__

Lagrange の定理が保証するのは、部分群の位数が を割り切ることだけである。逆は成り立たず、 は位数 の部分群をもたない。元の位数も の約数になるだけで とは限らず、可換性にいたっては何も従わない。

参考文献

Wikipedia: Lagrange's theorem (group theory))
Wikipedia: Coset
Wikipedia: Cauchy's theorem (group theory))
Keith Conrad, Cosets and Lagrange's theorem
Richard L. Roth, A History of Lagrange's Theorem on Groups
剰余類と Lagrange の定理を分割の仕組みから解説します。$S_3$ で左右がずれる例、指数と乗法性、証明と歴史、Fermat・Euler の定理、$A_4$ による逆の反例と証明など。