群作用の定義と軌道・安定化群

群作用は群が集合の上で「対称性として働く」状況を記述する。軌道と安定化群は群作用の基本的な構造を捉える概念である。

群作用の定義

が集合 に(左から)作用するとは、写像 , が次を満たすことをいう。

(任意の
(任意の ,

このとき -集合という。

群作用の同値な定義

に作用することは、群準同型 の対称群への準同型)が存在することと同値である。 として対応する。

この言い換えは重要で、群作用を考えることと「群を置換の群として実現すること」が同じであることを意味している。

群作用の例

に置換として自然に作用する。たとえば の元 , , と動かす。

に行列の積として作用する。 である。 に作用する場合、回転行列 はベクトルを角度 だけ回す。

任意の群 は自分自身に左からの積で作用する。 である(左正則作用)。たとえば では , のように、加法で「全体をスライド」させる。

正方形の対称群の作用

正方形の頂点を と番号づけると、正方形の対称群 (位数 8)が に自然に作用する。

回転

(恒等)、 の 4 つ。 回転は として作用する。

鏡映

頂点を通る対角線についての鏡映(2 つ)と、辺の中点を通る軸についての鏡映(2 つ)の計 4 つ。対角線鏡映のひとつは として作用する。

この例は幾何的直観と群作用の代数的記述を結びつける典型例である。 回転 に対応するとは、頂点 1 が 2 の位置に、2 が 3 の位置に動くことを意味している。

共役作用

は自分自身に共役で作用する。 と定義する。

が成り立つ。

たとえば において となる。共役で移り合う元は同じ型(巡回型)を持つ。 はともに 3-巡回置換である。

軌道の定義

の軌道(orbit)とは、

である。 の元を作用させて得られるすべての点の集合である。

軌道の例

が正方形の頂点 に作用するとき、 回転だけで頂点 1 を とすべての頂点に移せる。したがって軌道は となり、 全体がひとつの軌道をなす。

共役作用では状況が異なる。 の共役作用での軌道(共役類)は次のようになる。

(恒等置換)
(互換すべて)
(3-巡回置換すべて)

同じ型の置換が同じ軌道に入る。これが「共役類は巡回型で決まる」という事実の具体例である。

軌道による分割

は軌道の非交和に分割される。

ここで は各軌道から 1 つずつ代表元を選んだものである。

(加法で作用)するとき、軌道は 全体のひとつだけとなる。一方 で作用すると、軌道は の 2 つになる。

安定化群の定義

の安定化群(stabilizer)とは、

である。 を固定する の元全体である。

の部分群となる。 ならば だからである。

安定化群の例

に作用するとき、 の安定化群は を固定する置換全体であり、 と同型である。

が正方形の頂点 に作用するとき、頂点 1 の安定化群を求めてみよう。頂点 1 を動かさない操作は恒等変換と、頂点 1 を通る対角線についての鏡映の 2 つである。したがって は位数 2 の部分群となる。位数の関係は を満たしており、軌道・安定化群定理と整合する。

共役作用のもとで の安定化群は の中心化群 である。たとえば における の中心化群は であり、 が生成する巡回群に一致する。

推移的作用

任意の に対して となる が存在するとき、作用は推移的(transitive)であるという。推移的作用では は 1 つの軌道からなる。

推移的な例

の正方形の頂点への作用。任意の頂点を別の任意の頂点に移す回転や鏡映が存在する。

推移的でない例

で作用する場合。頂点 1 を頂点 2 に移す元が存在しない。

(3 次元回転群)は単位球面 に推移的に作用する。球面上の任意の 2 点は適当な回転で移り合う。

忠実な作用

がすべての で成り立つならば であるとき、作用は忠実(faithful)であるという。忠実な作用では が単射となる。

の正方形の頂点への作用は忠実である。4 頂点すべてを固定する対称操作は恒等変換しかないからだ。一方、 が 3 元集合 で作用するとき、 がすべての で成り立つため忠実でない。 の核は となる。

自由な作用

ならば であるとき(任意の に対して)、作用は自由(free)であるという。自由な作用ではすべての安定化群が自明 となる。

左正則作用 は自由な作用の典型例である。 ならば だからだ。これに対し 右正則作用 も自由な推移的作用の例である。

と定義すると が成り立つ。

自由かつ推移的な作用は正則作用(regular action)とも呼ばれる。この場合 が成り立ち、 の間に自然な全単射が得られる。 の頂点への作用は推移的だが自由ではない(安定化群が自明でない)。