軌道の長さは群の位数を割る(軌道・安定化群定理とその応用)
群 が集合 に作用するとき、点 の軌道の長さと、 を動かさない元のなす部分群の指数が等しくなります[1]。
これだけで、立方体の回転が 24 通りであることも、二項係数の公式も、Cauchy の定理も出ます。
作用とは何か
が に作用するとは、写像 があって次の 2 つを満たすことです[1]。
これは準同型 を与えることと同じです[1]。 を固定して と置くと、1 つ目の条件が を、2 つ目が を言う。 が逆写像になるので は置換です。
逆に準同型 があれば で作用が定まる。作用と置換表現は同じものの 2 つの書き方です。
軌道と安定化群
に対し、軌道と安定化群を次で定めます[2]。
軌道は を分割します[2]。2 つの軌道が共通の元 を持つとします。 と書くと、 なので 。すると の任意の元 も に入り、 です。 と を入れ替えれば逆向きも出るので、2 つの軌道は一致します。
安定化群は部分群です。 から 。 なら 。 なら です。
定理と証明
写像 を で定めます[2]。
まず well-defined であることを見ます。 とすると 、 と書ける。すると です。
単射を見ます。 とすると、両辺に を作用させて 。よって で、 になります。
全射は軌道の定義そのものです。
全単射なので 。 が有限なら Lagrange の定理と合わせて次が出ます[1]。
軌道の長さは必ず を割る。作用のしかたによらず成り立ちます。
同じ軌道の点は、共役な安定化群を持ちます[1]。 とすると です。実際 なら で、逆向きも同様に出ます。

立方体の回転は 24 通り
立方体の回転群 を、6 つの面の集合に作用させます。
どの面もどの面へ移せるので作用は可移で、軌道は 6 点全部です。1 つの面 を固定する回転は、その面を通る軸のまわりの 度の 4 つ。つまり 。
回転をひとつも書き下さずに個数が出ました。頂点で数えても同じです。頂点は 8 個、1 つの頂点を固定する回転は対角線のまわりの 3 つで、。辺なら です。
二項係数が出てくる
を の 元部分集合の全体に作用させます[1]。
作用は可移なので、軌道は 元部分集合の全体です。 の安定化群は、この集合を保つ置換の全体。つまり前半と後半をそれぞれ勝手に混ぜる置換で、 と同型です。
階乗の公式が、軌道と安定化群の勘定から出ました[1]。
積の個数
部分群 について、集合 の大きさを数えます[1]。
を に で作用させます。単位元 の軌道は です。
安定化群は 、つまり となる組で、。大きさは です。
が部分群かどうかは問わずに、個数だけが決まります。
共役で作用させる
を自分自身に で作用させます。軌道が共役類、安定化群が中心化群 です[1]。
共役類の大きさは必ず を割ります。軌道が を分割することから、 は共役類の直和に分かれる。
1 点だけの軌道は が全部の元と可換な場合、つまり のときです。中心の元を別に数えると類等式になります。
和は、大きさが 以上の共役類の代表についてとります。
群の中心は自明でない
位数が素数 のべきの群を 群といいます。 群が有限集合 に作用すると、次が成り立ちます[1]。
証明は軌道の分割からです。各軌道の長さは を割るので のべき。長さが でなければ で割り切れます。 を軌道の長さの和として書き、 の倍数を落とすと、長さ の軌道の個数だけが残る。長さ の軌道の点が固定点です。
これを共役作用に当てはめます。 を自分自身に共役で作用させると、固定点の集合が です。
は のべきなので左辺は で割り切れ、 も で割り切れます。 から なので、[1]。
自明でない 群の中心には、単位元以外の元が必ずいる。これが 群の扱いやすさの根にあります。
Cauchy の定理
が素数 で割り切れるなら、 には位数 の元があります[1]。McKay による証明を追います。
解きたいのは ですが、いきなりは扱えません。そこで方程式をゆるめます。
を自由に選ぶと は逆元として決まるので、 です。
には巡回シフトが働きます。 なら で、元は自分の逆元と可換だから 。シフトした組も に入ります。
これで が に作用します。 群の作用なので固定点合同式が使える。
シフトで動かない組は、全部の成分が等しいものです。共通の値を と書くと、条件は 。
左辺は から です。だから となる の個数が の倍数になる。 が 1 つあるので、個数は ではなく 以上。 以外の解が存在します[1]。
その は かつ で、 が素数だから位数はちょうど です。
ゆるめた方程式の解は数えやすく、もとの方程式の解が固定点として現れる。
直接数えられないものを、数えられるものの固定点に置き換える。作用の使い方の型のひとつ。
Sylow 部分群の個数
同じ合同式で、Sylow 部分群の個数 も決まります。
を Sylow 部分群とし、Sylow 部分群の全体に が共役で作用するとします。固定点は で正規化される Sylow 部分群 、つまり となるものです。
このとき と はどちらも の Sylow 部分群です。 は の正規部分群なので、 の Sylow 部分群は ひとつだけ。よって になります。
固定点はちょうど 1 個。合同式から が出ます。
軌道の個数を数える
軌道の長さは を割りますが、軌道の個数は割りません[1]。代わりに平均の形で書けます。
が有限集合 に作用し、軌道が 個あるとします。 と置くと[1]、
軌道の個数は、各元が止める点の個数の平均です[3]。
証明は を 2 通りに数えるだけ。 から先に数えれば 、 から先に数えれば になります。
最後は軌道・安定化群定理です。両辺を で割ると、右辺は になる。長さ の軌道の中の点は を 個ぶん出すので、軌道ごとの寄与が です。合計は軌道の個数になります[1]。
この式は Burnside の補題と呼ばれますが、Burnside のものではありません[1]。自著に載せる際、彼は Frobenius に帰しています。
立方体を 2 色で塗る
面を 2 色で塗り、回転で移り合うものを同じと見なして数えます。回転群 24 元の内訳はこうです。
塗り方が固定されるのは、同じ巡回に入る面が同じ色のときです。面の置換の巡回の個数を数えて のべきにすればよい。
恒等変換は 6 個の巡回で 。90 度の回転は 2 面が固定され残り 4 面が 1 つの巡回になるので 。180 度は の形で 。対角線のまわりは 3 面ずつの巡回が 2 つで 。辺のまわりは 2 面ずつが 3 組で です。
10 通りです。全部で 通りの塗り方が、回転で 10 組にまとまります。
同じ計算をビーズ 6 個の輪でやると、 が出てきます。 個ぶん回す置換の巡回の個数は なので、固定される塗り方は 通り。
14 通りになります。数え上げの問題が、軌道の個数を求める問題に置き換わりました。
必ず群の位数を割る。安定化群の指数そのもの
位数を割るとは限らない。固定点の個数の平均として出す
何がうれしいのか
軌道・安定化群定理が言っているのは、 を の左剰余類に切り分けると、その切れ目が軌道の点とぴったり対応する、ということです。
数えたいものが軌道として現れる形に持ち込めば、掛け算と割り算の関係だけで個数が決まります。二項係数も も共役類の大きさも、同じ 1 つの全単射から出ました。
固定点を経由する使い方はもう一段先です。数えたいものを直接扱わず、大きくて数えやすい集合の固定点として捉える。Cauchy の定理と Sylow 部分群の個数は、どちらもこの型でした。
位数 の群 が集合 に作用し、ある点 の軌道の長さが でした。 の安定化群 の位数はいくつですか。
作用を 1 つ選ぶことは、数えたい対象を軌道として置き直すことです。置き方が決まれば、あとは割り算が答えを出す。定理そのものは全単射 1 本ぶんの内容しかありません。










軌道・安定化群定理から ∣G∣=∣G⋅x∣⋅∣Gx∣ なので、60=12⋅∣Gx∣ となり ∣Gx∣=5 です。軌道の長さ 12 が 60 を割っていることも、この定理の帰結にあたります。