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Sylow の定理(シローの定理)とは|存在・共役性・個数の証明、位数の分類

位数 12 の群 には、位数 6 の部分群がない。 は を割るのに、である。

ラグランジュの定理は「部分群の位数は群の位数を割る」と述べるが、その逆は偽だ。約数を指定しても、対応する部分群があるとは限らない。

ところが、約数が素数の冪である場合だけは事情が違う。そこには必ず部分群が存在し、しかも個数まで決まってしまう。それを述べるのが Sylow の定理である。

ラグランジュの逆は成り立たない

一般の約数

が を割っても、位数 の部分群があるとは限らない。 は位数 12 だが、位数 6 の部分群をもたない。

素数冪の約数

が を割る最大の 冪なら、位数 の部分群が必ず存在する。個数も で決まる。

素数だけが特別扱いされる。この非対称性こそが Sylow の定理の核心であり、有限群論が素数ごとの分析に向かう理由でもある。

-群と Sylow -部分群

を素数とする。位数が の冪である群を -群という。

()と書けるとき、位数 の部分群を の Sylow -部分群と呼ぶ。 の力を目いっぱい使い切った部分群である。

Sylow -部分群の全体を 、その個数を と書く。

3 つの定理

Sylow が示したのは次の 3 点である。

存在:Sylow -部分群は必ず存在する
共役性:Sylow -部分群はどれも互いに共役である
個数: であり、 は を割る

3 つとも、たった 1 つの補題から出る。まずその補題にたどり着くための道具を整える。

群の作用

群 が集合 に作用するとは、各 に の置換を対応させ、 と を満たすことをいう。

の軌道を 、安定化群を と定める。

軌道は を重なりなく分割する。 は軌道たちの直和になり、 は軌道の大きさの総和として計算できる。

軌道と安定化群

軌道の大きさは、安定化群の指数に等しい。

対応 を考えればよい。 と は同値なので、この対応は全単射になる。

したがって軌道の大きさは を割る。ここが以後のすべての鍵になる。

例:作用を計算する

(正方形の対称性、位数 8)を、正方形の 4 頂点に作用させる。

頂点 の軌道は 4 点すべてだ。どの頂点にも回転で移れる。安定化群は、頂点 を通る対角線に関する鏡映と恒等写像の 2 元である。

。定理のとおりになっている。

心臓部:固定点の補題

Sylow の定理はすべて、次の一言から出る。

補題

を -群とし、有限集合 に作用させる。 とすると、 である。

なぜ効くのか

軌道の大きさは を割るので、 か の倍数しかありえない。大きさ の軌道こそが固定点である。

この補題は、集合の個数を数えるだけで固定点の存在を保証する。存在証明が数え上げに化ける、という仕掛けだ。

補題の証明

を軌道に分割する。各軌道の大きさは で、 の約数だから か の倍数である。

大きさ の軌道の個数は にほかならない。残りの軌道の大きさはすべて で割り切れる。

総和を取れば 。両辺を で見れば補題を得る。

直観: の世界では 1 か 倍か

-群が何かに作用すると、動くものは必ず 個以上のかたまりで動く。半端な人数では動けないのだ。

だから「全体の個数が で割り切れない」なら、動かない点が必ず残る。人数が合わないぶんが固定点としてこぼれ落ちる、と思えばよい。

Sylow の 3 定理は、この「こぼれ落ちた点」を毎回ちがう舞台で拾い上げる作業である。

類等式

を自分自身に共役 で作用させる。軌道は共役類、固定点は中心 の元だ。

軌道分解を書けば、次の類等式を得る。

和は大きさ 以上の共役類の代表元をわたる。 は と可換な元の全体(中心化群)である。

-群の中心は自明でない

()とする。 を自分自身に共役で作用させ、固定点の補題を当てる。

固定点の集合は である。補題より 。

左辺は で割り切れるので、 も で割り切れる。 だから 、よって となる。

-群は必ず中心をもつ。この事実は、-群を帰納法で調べるときの足場になる。

例:位数 の群は可換

とする。中心は自明でないので は か だ。

と仮定する。 は位数 なので巡回群になる。

ここで一般論を使う。 が巡回なら は可換である。生成元を とすれば、任意の元は の形に書け、 と可換に計算できるからだ。

すると が可換になり 、つまり で仮定に反する。よって 、 は可換である。

例:位数 4 と 9 の群

位数 の群は可換だと分かった。有限可換群の分類から、 か のどちらかになる。

位数 4 の群は とクラインの四元群の 2 つ。位数 9 の群は と の 2 つである。

位数が素数の 2 乗なら、非可換群は存在しない。位数 8 になると や四元数群が現れるので、 という制限が効いている。

第一定理:存在

()ならば、 は位数 の部分群をもつ。

証明にはヴィーラントの数え上げを使う。まず二項係数の 指数を調べる。

準備:二項係数の 指数

で、 を割り切る の最大冪の指数を表す。主張は次のものだ。

なら右辺は 。つまり は で割り切れない。

二項係数の補題の証明

二項係数を積の形に書く。

の因子は である。 指数はちょうど になる。

の因子を見る。(、)と書けば、 で、括弧の中は で割れない。

つまり となる。同じ理由で だ。分子と分母の 指数が打ち消し合う。

残るのは の因子だけ。よって の総和は である。

第一定理の証明

を、 の部分集合のうち要素数が のもの全体とする。 で、これは で割り切れない。

を に左からの積 で作用させる。 が で割れないので、大きさが で割れない軌道が少なくとも 1 つ存在する。

その軌道の元 を取り、安定化群を とする。 が で割れないので、 は を割り切る。

逆向きの評価をする。 を 1 つ固定すると、 に対し である。写像 は単射なので 。

両者を合わせて 。 が求める Sylow -部分群である。

直観:なぜ数え上げから部分群が出るのか

部分集合をすべて並べて で動かすと、たいていの軌道は の倍数の大きさになる。総数が で割れない以上、はみ出す軌道が必ずある。

はみ出した軌道は、動かされ方が小さい。動かされにくいということは、それだけ多くの元に固定されているということだ。

その「固定する元」の集まりが安定化群であり、大きさを両側から挟むとちょうど になる。数え上げが部分群を掘り当てる仕組みである。

系:コーシーの定理

が を割るなら、 は位数 の元をもつ。

Sylow -部分群 は自明でないので、 でない元 を取れる。 の位数は ()の形だ。

すると の位数はちょうど である。存在定理から、位数 の元の存在がただちに従う。

第二定理:共役性

と を Sylow -部分群とすると、ある で となる。

Sylow -部分群は、たがいに「同じ形」をしている。共役でつながっている以上、群の中での役割はすべて同じである。

したがって、1 つの Sylow -部分群を調べれば、残りも自動的に分かる。

第二定理の証明

(左剰余類の集合)とする。 で、 である。

を に左からの積で作用させる。 は -群なので固定点の補題が使え、 となる。

よって固定点 が存在する。すべての で 、すなわち である。

つまり 。両者は位数が等しいので 、すなわち を得る。

系: と正規性

であることと、Sylow -部分群が正規であることは同値だ。

共役 もまた Sylow -部分群である。 なら が全ての で成り立ち、 となる。

逆に が正規なら、第二定理よりすべての Sylow -部分群は の共役、つまり 自身である。 だ。

この同値性が、Sylow の定理を「正規部分群を探す道具」に変える。

第三定理:個数

であり、 は を割り切る。

2 つの条件を組み合わせると、 の候補は劇的に絞られる。多くの場合、候補は 1 つか 2 つしか残らない。

の証明

に、 自身を共役で作用させる。 は -群なので固定点の補題が使える。

固定点とは、 を満たす Sylow -部分群 のことだ。このとき と はどちらも の Sylow -部分群になる。

は の中で正規である。第二定理を に適用すれば となる。

固定点は ただ 1 つ。補題より である。

の証明

を に共役で作用させる。第二定理により、この作用は推移的だ。軌道は全体 1 つしかない。

軌道と安定化群の関係から となる。Sylow 部分群の個数は、正規化群の指数に等しい。

なので は を割る。したがって は を割り切る。

図で見る

で とすると になる。 を に作用させたときの分解を描く。

HTML
CSS
JavaScript
<div class="cont">
<svg viewBox="0 0 420 170" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="Sylow 部分群の集合への共役作用の軌道分解">
<rect x="0" y="0" width="420" height="170" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<rect x="20" y="52" width="54" height="54" rx="10" fill="#e8f0fe" stroke="#5b8def" stroke-width="1.4"/>
<circle cx="47" cy="79" r="7" fill="#3468d6"/>
<rect x="96" y="52" width="94" height="54" rx="10" fill="#fff" stroke="#d7dbe0" stroke-width="1.2"/>
<circle cx="120" cy="79" r="7" fill="#aab0b8"/>
<circle cx="143" cy="79" r="7" fill="#aab0b8"/>
<circle cx="166" cy="79" r="7" fill="#aab0b8"/>
<rect x="204" y="52" width="94" height="54" rx="10" fill="#fff" stroke="#d7dbe0" stroke-width="1.2"/>
<circle cx="228" cy="79" r="7" fill="#aab0b8"/>
<circle cx="251" cy="79" r="7" fill="#aab0b8"/>
<circle cx="274" cy="79" r="7" fill="#aab0b8"/>
<rect x="312" y="52" width="94" height="54" rx="10" fill="#fff" stroke="#d7dbe0" stroke-width="1.2"/>
<circle cx="336" cy="79" r="7" fill="#aab0b8"/>
<circle cx="359" cy="79" r="7" fill="#aab0b8"/>
<circle cx="382" cy="79" r="7" fill="#aab0b8"/>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="11.5" text-anchor="middle" fill="#6b7280">
<text x="47" y="40" fill="#3468d6">固定点 P</text>
<text x="143" y="40">軌道 3</text>
<text x="251" y="40">軌道 3</text>
<text x="359" y="40">軌道 3</text>
<text x="47" y="128" fill="#3468d6">1</text>
<text x="143" y="128">3</text>
<text x="251" y="128">3</text>
<text x="359" y="128">3</text>
</g>
<text x="210" y="152" font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12.5" text-anchor="middle" fill="#1b1d22">n₃ = 1 + 3 + 3 + 3 = 10 ≡ 1 (mod 3)</text>
</svg>
</div>
.cont { margin: 0; text-align: center; }
.cont svg { width: 100%; max-width: 420px; height: auto; }

自身は動かないので、大きさ の軌道になる。残りは の倍数の大きさでしか動けない。

だから合計はつねに の形になる。 とは、この当たり前の勘定にすぎない。

Sylow で群を調べる手順

位数だけが分かっている群を調べるときは、次の順で攻める。

と素因数分解し、各素数で の候補を出す

と で候補を絞る

なら正規部分群を得る。複数なら元を数え上げて矛盾を探す

以下、この手順を具体例で繰り返す。

例:位数 6 の群

とする。 は を割り、 で割って 余る。候補は だけだ。

よって Sylow 3-部分群 は正規である。 は を割る奇数なので か 。

なら Sylow 2-部分群も正規で、。 なら である。位数 6 の群はこの 2 つしかない。

例:位数 15 の群

とする。 は を割るので か だが、 なので 。

は を割るので か だが、 なので 。

どちらの Sylow 部分群も正規である。位数が 3 と 5 なので共通部分は だけだ。

積が 全体になり、 となる。

位数 15 の群は巡回群しかない。非可換群を作ろうとしても、Sylow の定理が許さないのだ。

例:位数 の群

( は素数)とする。 は を割るので か である。

が必要だが、 より 。よって で、Sylow -部分群はつねに正規だ。

次に を見る。 は を割るので か 、そして が要る。

なら も強制され、 は巡回群 になる。逆に のときだけ、非可換群の余地が生まれる。

例:位数 21 — 非可換が現れる

とする。 は前節のとおりだ。

は を割るので か 。ここで なので、 が条件をすり抜ける。

実際、位数 21 の非可換群が存在する。 に が位数 3 の自己同型で作用してできる半直積である。

という数論的な条件が、非可換性の扉を開ける。Sylow の定理は、その扉の位置まで教えてくれる。

例:位数 35 と 33

とする。 なので 、 も同様だ。よって となる。

でも同じだ。 なので、位数 33 の群は巡回群しかない。

割り算を 1 回するだけで、群の分類が終わってしまう。Sylow の定理の破壊力がよく分かる例である。

例:位数 12 の群

とする。 は を割る奇数なので か 。

は を割り、 で割って 余る。 の約数 のうち条件を満たすのは と だ。

候補は の 4 通り。ここからさらに絞り込める。

例:位数 12 の群は必ず正規 Sylow をもつ

と仮定する。4 つの Sylow 3-部分群は位数 3 で、2 つの相異なるものの共通部分は に限られる。

したがって位数 3 の元は 個ある。残る元は 個で、単位元を含む。

Sylow 2-部分群は位数 4 で、位数 3 の元を含まない。よってこの残り 4 元とぴったり一致するしかなく、 が従う。

つまり なら 。位数 12 の群は、どんなものでも正規な Sylow 部分群をもつ。単純群にはなれない。

例: の Sylow 部分群

は位数 12 である。Sylow 3-部分群は など 4 つで、。

位数 3 の元は 8 個の 3 元巡回置換で、たしかに と合う。

残る 4 元が である。これが唯一の Sylow 2-部分群であり、正規部分群になる。

前の節の議論が、そのまま で実現されている。 に位数 6 の部分群がないことと、Sylow 部分群がこう配置されていることは、同じ構造の別の顔だ。

例: の Sylow 部分群

である。Sylow 3-部分群は位数 3 で、3 元巡回置換 8 個から 4 つ作られる。 だ。

Sylow 2-部分群は位数 8 になる。 は正方形の対称性、つまり と同型な位数 8 の部分群である。

は を割る奇数なので か 。実際には 3 つあり、、、 が生む 3 通りの「正方形の入れ方」に対応する。

の中に が 3 つ潜んでいる。4 点を正方形の頂点とみなす方法が 3 通りある、と読める。

例: から への準同型

を使うと、 の構造が 1 つ見える。 を 3 つの Sylow 2-部分群に共役で作用させるのだ。

これは準同型 を与える。作用は推移的なので は全射である。

核の位数は 。この核こそクラインの四元群 であり、 が得られる。

Sylow 部分群への作用は、群を小さな置換群へ落とし込む標準的な手口になっている。

例:位数 30 の群は単純でない

とする。 は を割り で割って 余るので、 か 。 は を割り で割って 余るので、 か 。

と仮定する。Sylow 5-部分群どうしは単位元しか共有しないので、位数 5 の元は 個ある。

と仮定する。同様に位数 3 の元は 個だ。

単位元と合わせると になる。元が足りない。したがって か の少なくとも一方が成り立ち、 は正規部分群をもつ。

図で見る位数 30 の数え上げ

矛盾の様子を図にする。

HTML
CSS
JavaScript
<div class="cont">
<svg viewBox="0 0 420 150" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="位数 30 の群での元の数え上げ">
<rect x="0" y="0" width="420" height="150" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<rect x="20" y="58" width="8" height="34" rx="2" fill="#8a8f98"/>
<rect x="28" y="58" width="192" height="34" fill="#5b8def"/>
<rect x="220" y="58" width="160" height="34" fill="#e0872f"/>
<line x1="260" y1="42" x2="260" y2="108" stroke="#e5484d" stroke-width="1.6" stroke-dasharray="4 3"/>
<rect x="260" y="58" width="120" height="34" fill="#e5484d" fill-opacity="0.22"/>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="11.5" fill="#6b7280">
<text x="30" y="48">位数 5 の元 24 個</text>
<text x="224" y="48">位数 3 の元 20 個</text>
<text x="264" y="122" fill="#c93c41">ここから先は存在しない元</text>
</g>
<text x="257" y="34" font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="11.5" text-anchor="end" fill="#c93c41">|G| = 30</text>
<text x="20" y="122" font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="11.5" fill="#1b1d22">1 + 24 + 20 = 45</text>
</svg>
</div>
.cont { margin: 0; text-align: center; }
.cont svg { width: 100%; max-width: 420px; height: auto; }

赤い破線が群の定員 30 である。 と を同時に認めると、定員を 15 人ぶん超過してしまう。

数え上げによる矛盾は、Sylow の定理のもっとも実用的な使い方だ。位数だけから正規部分群の存在が出る。

なお、位数 30 の群はさらに詳しく調べられる。実際には位数 15 の正規部分群をもち、Sylow 3-部分群も 5-部分群もどちらも正規になる。

例: の Sylow 部分群

である。元の内訳は、単位元 1 個、位数 2 の元 15 個、位数 3 の元 20 個、位数 5 の元 24 個。合計 60 だ。

は を割り で割って 余るので か 。位数 5 の元が 24 個あり、各 Sylow 5-部分群が 4 個ずつ持つので 。

は を割り で割って 余るので 、、 が候補。位数 3 の元 20 個を各部分群が 2 個ずつ持つので 。

は を割る奇数で が候補。Sylow 2-部分群は位数 4 のクライン型で位数 2 の元を 3 個ずつ含み、 より である。

例: は単純である

を自明でない真の正規部分群と仮定して、矛盾を導く。

が を割るとする。 は Sylow 5-部分群を含み、正規なのでその共役もすべて含む。

6 つ全部が入るので、位数 5 の元が 24 個あり となる。 の真の約数でこれを満たすのは だけだ。

その は で割れるので、同じ理屈で Sylow 3-部分群も 10 個すべて含む。位数 3 の元が 20 個加わり、 で矛盾する。

が を割る場合も同様だ。位数 3 の元 20 個を含むので 、 の真の約数では しかなく、いま見た矛盾に戻る。

残るのは が か の場合だ。 なら は Sylow 2-部分群だが、 なので正規ではない。

なら の非単位元は中心に入る。しかし で を共役すると に移るので、 の中心は自明である。

すべての場合が潰れた。 は単純群であり、位数 60 の最小の非可換単純群になる。

技法:Sylow 部分群への作用で置換表現を作る

を に共役で作用させると、準同型 が得られる。

が単純で なら、核は自明でなければならない。したがって は単射になり、 は を割る。

正規部分群が と しかない群を 単純群 という。

これ以上つぶせない群であり、有限群を組み立てるときの原子にあたる。

対偶を取れば、 が を割らない場合、 は単純ではない。位数だけから単純性を否定できる強力な道具だ。

例:位数 24 の群は単純でない

とする。 は を割る奇数なので か である。

なら Sylow 2-部分群が正規で、ただちに単純ではない。

なら が得られる。 なので は単射になれず、核は自明でない。作用が推移的なので核は 全体でもない。

どちらの場合も真の正規部分群が現れる。位数 24 の単純群は存在しない。

正規化群と Frattini の論法

を Sylow -部分群とすると、その正規化群 は という形で個数を支配していた。

正規化群を使う代表的な技法が、Frattini の論法である。

、 を の Sylow -部分群とすると、 が成り立つ。

Frattini の論法の証明

を任意に取る。 は正規なので であり、位数は と同じだ。

つまり は の Sylow -部分群である。第二定理を の中で使えば、ある で となる。

これは を意味する。よって であり、 を得る。

の内部の情報( の Sylow 部分群)から、 全体の分解が出てくる。これが論法の妙味である。

例:Sylow 正規化群は自己正規化的

と置く。主張は 、つまり をさらに正規化しても大きくならない、というものだ。

とすると である。 は の Sylow -部分群でもある。

の中で Frattini の論法を使うと、 となる。ところが である。

したがって 。Sylow 部分群の正規化群は、それ以上ふくらまない。群論の議論で頻繁に使われる事実だ。

-群の中の階段

Sylow の定理は最大の -部分群を保証する。その内部はどうなっているか。

位数 の群には、各 ()について位数 の部分群が存在する。しかも正規なものを選べる。

証明は中心の非自明性から帰納法で進む。中心の中に位数 の元を取り、それが生む正規部分群で割って、位数 の群に帰着させればよい。

したがって 冪の約数については、ラグランジュの逆がすべて成り立つ。冒頭の で欠けていた位数 6 の部分群と、この完全さは好対照である。

理解の確認

位数 12 の群 で のとき、 はいくつか。

  • 3
  • 1
  • 4
__RESULT__

4 つの Sylow 3-部分群は位数 3 で、たがいに単位元しか共有しない。よって位数 3 の元は 個あり、残る元は 個になる。Sylow 2-部分群は位数 4 で位数 3 の元を含まないので、この残り 4 元と一致するしかない。したがって であり、Sylow 2-部分群は正規である。

Sylow は有限群の骨格

有限群を調べるとき、まず位数を素因数分解し、素数ごとに Sylow 部分群を数える。それが定石になっているのは、Sylow の定理が「位数だけ」から構造を語れる希少な定理だからだ。

を示せば正規部分群が手に入り、群は分解される。数え上げで矛盾を出せば、単純でないことが言える。位数 15、21、30、24 と見てきた通りである。

逆に、この網をくぐり抜ける群こそが単純群だ。 は位数 60 で最小の非可換単純群であり、Sylow の条件をすべて満たしたまま、どこにも正規部分群をもたない。

有限単純群の分類は、こうした素数ごとの分析を積み重ねた末に完成した。数千ページに及ぶ証明の出発点に、この 3 つの定理がある。

Sylow の定理を具体例で解説。固定点の補題から存在・共役性・個数の 3 定理を導き、n_p ≡ 1 (mod p) と n_p | m で位数 15・21・30 の群を分類。A5 の単純性と Frattini の論法まで。