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English

中心を繰り返しとると全体に届く - 冪零群の定義と性質

中心をとって割る。また中心をとって割る。これを繰り返して全体に届く群が冪零群です[4]

では 2 回で届きます。 では中心が最初から自明なので、1 歩も進みません。

2 つの列

下中心列を で定めます[3]。交換子をとるたびに小さくなる列です。

上中心列は逆向きに作ります。[1]。中心の逆像をとって伸ばしていく。

どちらも の正規部分群の列です。 が冪零であるとは、次のいずれかが成り立つことをいいます[4]

ある になる。
ある になる。
正規部分群の列 を満たすものがある。

3 番目を中心列といいます。3 つが同値であることを見ます[4]

中心列 があれば、帰納法で が出ます。 は等号で、 を仮定すると 。だから なら です。

逆に なら、 自身が中心列になる[4]。下中心列は、中心列の中でいちばん速く縮むものです。

上中心列は反対に、いちばん速く伸びるものになります[1]。中心列 を下から番号づけ直すと が同じ形の帰納法で出て、 に届きます。

冪零類は、 となる最小の です[3]。可換群は なので、冪零類 以下。

で止まる

の下中心列を追います[4] です。

次で止まります。 になるためです。実際 の交換子を計算すると が出るので、[1]

以降 のまま。 に届きません。 は冪零ではない[4]

上中心列で見ても同じです。 の中心は自明なので 、その先も動かない。

冪零ならば可解

導来列を とします。冪零なら可解です[4]

理由は包含 にあります。導来列は下中心列より指数的に速く落ちる。

だから下中心列が に届けば導来列も届きます。逆は成り立ちません。 は可解ですが冪零ではない[4]

可解群

導来列が に届く。 は 2 歩で届く

冪零群

下中心列が に届く。 で止まる

中心拡大として作る

冪零類 以下であることは、冪零類 以下の群の中心拡大であることと同値です[4]

が冪零類 なら なので、 の中心に入ります。 と置くと で、 は冪零類 以下。

逆に が完全で の中心に入り、 なら、 です。 が中心にあるので [4]

中心を 1 段ずつ積むと冪零群になる。これが構成のしかたです。

真部分群は自分より大きい正規化群を持つ

冪零群 と真部分群 について が成り立ちます[4]

冪零類 についての帰納法です。 なら は可換で

とし、中心に含まれる正規部分群 が冪零類 以下になるものをとります。 は中心にあるので

を含まなければ、 を含むぶんだけ より大きく、 です。

を含むなら、 の真部分群です。帰納法から なので になります[4]

この性質を正規化群条件といいます。有限群では冪零性と同値です[2]

群は冪零

位数が の群を 群といいます。 群はすべて冪零です[3]

証明の芯は、自明でない 群の中心が自明でないことにあります。類等式を書きます。

和は大きさ 以上の共役類の代表についてとります。各項 より大きい のべきなので で割り切れる。左辺も で割り切れるので、 の倍数です。 だから

これで上中心列が進みます。 群なので、自明でなければその中心も自明でなく、

は有限なので、真に増え続ける列はいつか止まります。止まるのは が自明になったとき、つまり のときだけ。よって は冪零です[3]

上三角行列で見る

上の 次元空間に完全旗 をとり、次の部分群を考えます[4]

は対角成分が の上三角行列の全体です。この列は を満たすので、 が中心列になる。 は冪零です[4]

の場合が Heisenberg 群です。交換子部分群と中心が一致して、 になる[1]。冪零類は です。

canvas: 絵を作れませんでした

有限群では条件がそろう

有限群では、冪零性がいくつもの言い換えを持ちます[2]

すべての真部分群 になる。
すべての部分群が劣正規である。
自明でないすべての商群の中心が自明でない。
位数が互いに素な元どうしが可換になる。
を割るなら、位数 の正規部分群がある。
Sylow 部分群の直積と同型になる。

極大部分群がすべて正規であることも同値です[2]。片方は正規化群条件から出ます。極大部分群 について なので 、つまり

逆を見ます[2]。極大部分群がすべて正規だとし、Sylow 部分群 をとります。 とすると、 を含む極大部分群 がある。仮定から なので

一方、 と Sylow の理論から が出ます。 を含む部分群で を正規化するものは に限る、という形の主張です。すると で、 が真部分群であることに反する。

よって 、つまりすべての Sylow 部分群が正規になります。

Sylow 部分群の直積

有限冪零群は Sylow 部分群の直積です[3]。証明を書きます。

まず を示します。 を正規化するとします。 の Sylow 部分群になる。ところが なので、 の Sylow 部分群は ひとつだけ。よって 、つまり です。

だと、正規化群条件から となり、いま示したことに反します。よって で、すべての Sylow 部分群が正規です。

異なる素数 の Sylow 部分群 をとります。位数が互いに素なので 。どちらも正規なので となり、元どうしが可換になる。

そこで写像 を積で定めると準同型です。核は各成分の位数が互いに素なことから自明で、位数を数えると両辺が一致する。同型になります[3]

逆向きは簡単です。 群は冪零で、冪零群の有限直積は冪零。だから Sylow 部分群の直積は冪零です[4]

二面体群はいつ冪零か

の下中心列を計算します[1]

まず交換子を 1 つ計算します。。回転どうしは可換なので、 です。

から始めて、 が続きます。

が奇数なら なので で、そこから動かない。 は奇数)なら、 の位数は奇数 なので となり、やはり止まります[1]

届くのは 、つまり のべきのときだけです。 なら で、冪零類は になります[1]

の冪零類は です。 の側は、いくら進んでも に届かない。

canvas: 置き場が受け取りませんでした

拡大では閉じない

部分群と商群は冪零性を受け継ぎます[4]。有限個の直積も冪零で、冪零類は各因子の冪零類の最大値です。

拡大では成り立ちません。 がどちらも冪零でも、 が冪零とは限らない。

が反例です。 もどちらも可換、つまり冪零類 です。それでも は冪零ではありません。

可解性は拡大で閉じるので、ここが 2 つのクラスの分かれ目になります。中心拡大に限れば冪零性も閉じる、というのが上で見たことでした。

正規冪零部分群の積

正規な冪零部分群 について、 も正規な冪零部分群になります[2]。Fitting が 1938 年に示しました。

有限群では正規冪零部分群が有限個なので、それら全部の積が最大の正規冪零部分群になる。これを Fitting 部分群といい と書きます[2]

の Sylow 部分群は、 の正規な 部分群のうち最大のもの に一致します[2]

が冪零であることは と同じ。冪零性は、群の中の「いちばん冪零な部分」が全体に届くかどうかを見ている、と言い直せます。

次のうち冪零群でないものはどれですか。

  • 位数 の四元数群
  • 位数 の二面体群
  • 位数 の二面体群
__RESULT__

の下中心列は で、 から動かないので冪零ではありません。位数 の四元数群は 群なので冪零です。 のべきなので冪零で、冪零類は になります。

冪零性は「中心が毎回きちんと現れるか」を見ています。 群では類等式が中心の存在を保証するので必ず現れ、 では最初から中心がないので 1 歩も進まない。有限群で Sylow 部分群の直積という形に落ちるのは、この見方の一番わかりやすい帰結です。

参考

Keith Conrad, *Subgroup Series I*, University of Connecticut
Keith Conrad, *Subgroup Series II*, University of Connecticut
Matthieu Romagny, *Groupes nilpotents*, préparation à l'agrégation, UPMC
Jean-Pierre Serre, *Groupes finis*, Collège de France
中心をとって割る操作を繰り返し、全体に届く群が冪零群です。下中心列が単位元へ届くこと、上中心列が全体へ届くこと、中心列が存在すること。この 3 つが同値になります。$p$ 群がすべて冪零なのは、類等式が中心の非自明性を保証するため。有限群では、真部分群がつねに自分より大きい正規化群を持つこと、極大部分群がすべて正規なこと、Sylow 部分群の直積になることも冪零性と同値です。二面体群 $D_n$ が冪零になるのは $n$ が 2 のべきのときだけで、下中心列を計算すると理由が見えます。$S_3$ が $A_3$ で止まること、拡大では冪零性が閉じないこと、Fitting 部分群まで。