同じ交換子から作るのになぜ速さが違う?導来列と下中心列
同じ群から、部分群の列が 3 本作れます[1]。導来列、下中心列、上中心列。
どれも交換子から作りますが、落ち方が違います。 では導来列が 2 歩で単位元に届くのに、下中心列は 4 歩かかる。
交換子部分群
に対し を交換子といいます。 が成り立つので、可換からのずれを測る量です。
部分群 に対し、交換子が生成する部分群を と書きます[1]。
すぐ出る性質が 2 つあります[1]。 なので 。 と がどちらも正規なら から も正規です。
は、 の元と の元がすべて可換であることと同じ。
可換な列と中心の列
部分群の減少列 について、2 種類の条件を考えます[1]。
各因子 が可換になるとき、この列を可換であるといいます。条件は交換子で書けます[1]。
商が可換とは、そこで交換子が消えることなので、交換子がすでに に入っていればよい[1]。
もっと強い条件が中心の列です。 が の中心に入るとき、そう呼びます[1]。
左側が から に変わりました。中心にいることは、 全体の元と可換であることだからです[1]。
中心の列は可換な列です。逆は成り立ちません。可換な部分群が中心に入るとは限らないためです[1]。
の平行移動の全体は可換ですが、 なら中心には入りません[1]。
3 本の列
2 つの条件を、それぞれ「いちばんきつく」満たす列を作ります。
導来列は 、 で定めます[1]。可換な列の条件を、包含ではなく等号で回した形です。
下中心列は 、。こちらは中心の列の条件を等号で回します[1]。
上中心列は逆向きに伸ばします。、[1]。

導来列の各項は の正規部分群です[1]。 なら なので、帰納法で出ます。
下中心列も上中心列も、すべての項が の正規部分群になります[1]。
いちばん速く落ちる
導来列は、可換な列のうちいちばん速く落ちるものです[1]。
が可換な列なら、 がすべての で成り立ちます。
証明は帰納法です。。 を仮定すると、 が可換なので 。よって
同じ形で、下中心列は中心の列のうちいちばん速く落ちるものになります[1]。 が効きます。
だから可解性は導来列だけ見れば判定でき、冪零性は下中心列だけ見れば判定できます[1]。ほかの列が届くなら、これらも届く。
落ち方の差
2 本の列は、どちらも交換子から作るのに速さが違います。
一般には しか言えません。ところが実際にはもっと差がつきます[1]。
導来列は指数的に速く落ちる、ということです[1,2]。 で確かめられます。
導来列は 、 で、 によらず 2 歩で終わります[1]。
下中心列は と 1 段ずつ縮むので、 歩かかる。 なら 4 歩です。
具体例を並べる
代表的な群で、2 本の列がどこまで届くかを比べます[1]。
| 群 | 導来列 | 下中心列 |
|---|---|---|
| Dn (n が 2 べき) | 2 歩で 1 | k 歩で 1 |
| Dn (それ以外) | 2 歩で 1 | 止まる |
| Aff(F) | 2 歩で 1 | 止まる |
| Heis(F) | 2 歩で 1 | 2 歩で 1 |
| Sn (n が 5 以上) | An で止まる | An で止まる |
| GL2(F) (|F| > 3) | SL2 で止まる | SL2 で止まる |
が分かりやすい例です[1]。導来部分群は平行移動の全体で、これは可換なので導来列は 2 歩で終わります。
ところが を計算すると に戻ってしまう[1]。拡大が平行移動を平行移動へ動かすためです。下中心列は止まります。
可解だが冪零でない、という状態がこの形で現れます。
では両方が 2 歩です[1]。導来部分群が中心と一致するので、 で次が消えます。
止まる列
となる群を完全群といいます。導来列も下中心列も、最初の 1 歩で止まったまま動きません。
()がそうです[1]。 が相異なるとき なので、3 サイクルが交換子として書ける。3 サイクルが を生成するので です[1]。
()では 、そこから先は のまま[1]。
()では で、 になります[1]。 のときだけ様子が変わり、 が と同型な部分群になって、3 歩で単位元に届きます[1]。
なら で 2 歩です[1]。同じ形の群でも、体の大きさで列の届き方が変わる。
上中心列の伸び方
上中心列は下から伸びるので、様子が変わります。 で計算します[1]。
が奇数なら の中心は自明なので、 のまま動きません[1]。
( は奇数)なら で、商 が と同型になります。 が奇数なのでその中心は自明で、そこで止まる[1]。
(、 は奇数)なら、 が まで伸びて、 に届いたところで止まります[1]。
が のべきのときだけ、途中で商が可換になって に届く[1]。下中心列と同じ場所で結論が分かれます。
上から交換子をとり続けて縮める。止まる場所は完全群か、それに近い部分群
下から中心を積み上げて伸ばす。止まる場所は中心が自明になる商
どの列も特性部分群
3 本の列の項は、どれも の特性部分群です。自己同型 について が成り立つので、交換子から作った部分群は自己同型で保たれます。
特に正規部分群です。内部自己同型も自己同型だからです。
導来列はさらに強く、どんな準同型 でも を満たします。交換子という「語」で定義されているためで、こうした部分群を語部分群といいます。
上中心列はこの意味では弱く、中心をとる操作が準同型と交換しないので、 は一般に成り立ちません。
群 で導来列が単位元に届き、下中心列は途中で止まりました。 について言えることはどれですか。
- は冪零だが可解ではない
- は可解だが冪零ではない
- 導来列が届くなら下中心列も必ず届くので、そういう群はない
3 本とも交換子から作ります。違うのは、左側に何を置くかだけでした。 とするか とするかで、落ちる速さが指数的に変わる。可解性と冪零性の距離は、この 1 文字の差から出ています。












導来列が単位元に届くことが可解性、下中心列が届くことが冪零性の定義です。導来列は下中心列より速く落ちるので、可解でも冪零とは限りません。Aff(F) がその例で、導来部分群は可換なので 2 歩で終わりますが、[G,G′] が G′ に戻るため下中心列は止まります。