なぜ 5 次方程式は解けないのか|可解群とガロアの定理
方程式がべき根で解けるかどうかは、その方程式に付随する群が可解かどうかで決まる。これがガロアの定理である。
5 次以上の一般方程式に解の公式がないことは、 で が可解群でないという群論の事実に帰着する。以下では標数 0 の体を考える。
可解群の定義
群 に対し、次のような部分群の列を考える。
各 が の正規部分群であり、剰余群 がすべて可換であるとき、 を可解群という。
要求しているのは隣どうしの関係だけである。 が 全体の正規部分群である必要はない。
可換群は という列で可解である。可解性は「可換群を何段か積み上げて作れる」という条件だと思えばよい。
交換子群と導来列
同値な言い換えを用意しておくと、証明が短くなる。 に対し を交換子という。
交換子全体が生成する部分群 を交換子群という。これは の正規部分群で、 は可換になる。
さらに について、 が可換であることと は同値である。剰余群で と が一致することが、交換子が に落ちることに他ならないからである。
そこで導来列を 、 で定める。
命題として、 が可解であることと、ある で となることは同値である。
導来列が単位群に落ちるなら、その列自体が定義の条件を満たす。逆に可解列 があるとき、 を についての帰納法で示せばよい。
が可換だから である。以下同様に進み、 を得る。
可解性が保たれる操作
導来列を使うと、次の 3 つが数行で示せる。あとの議論はすべてこれに乗る。
で が可解なら も可解である。
で が可解なら も可解である。
で と がともに可解なら も可解である。
部分群については、 から が帰納法で従う。 なら である。
剰余群については、全射準同型 が を満たすことを使う。交換子は準同型で交換子に写るからである。
群拡大については 2 段に分ける。 から 、つまり が出る。
そこへ を重ねると となる。
4 次までの対称群は可解
には という列がある。 は位数 3 の巡回群、 は位数 2 の巡回群で、どちらも可換である。
ではもう 1 段はさむ。クラインの四元群を次で定める。
共役は巡回型を保つので、 型の元全体からなる は の正規部分群である。これで という列ができる。
剰余群の位数は順に で、 も含めてすべて可換である。したがって は可解である。
3 次と 4 次の方程式に解の公式があるのは、この可解性の反映である。カルダノとフェラーリの公式は、この列を体の側へ翻訳したものだと見なせる。
交代群 A5 は単純
の壁は にある。位数 60 のこの群が単純であること、つまり自明でない正規部分群を持たないことを示す。
共役類の大きさを数える。 の元は単位元、3-サイクル、 型、5-サイクルの 4 種類である。
3-サイクルは 個あり、 の中で 1 つの共役類をなす。 型は 個で、これも 1 つの類である。
5-サイクルは 個ある。中心化群が生成する位数 5 の巡回群だけなので、 での類の大きさは になり、24 個は 2 つの類に割れる。
合計すると で、たしかに を尽くしている。
正規部分群 は共役類の合併であり、単位元を含み、ラグランジュの定理から位数は 60 の約数である。
1 に他の類の大きさを足して 60 の約数になる組み合わせを全部調べる。 が現れるが、どれも 60 を割らない。
残るのは と だけである。よって か で、 は単純である。
5 次以上の対称群は可解でない
は単純かつ非可換である。交換子群 は の正規部分群で、非可換だから単位群ではない。
単純性から となる。したがって導来列は のまま動かず、いつまでも単位群に落ちない。
前に見た判定から は可解でない。 なら は最初の 5 文字だけを動かす置換として の部分群になる。
可解群の部分群は可解だったので、対偶を取れば も可解でない。これが 5 次以上の壁の正体である。
が単純であることから、ただちに従うのはどれか。
- の正規部分群は と だけである
- の導来列は のまま止まらない
- の位数は素数である
- は可換群を部分群に持たない
3-サイクルによる別証明
の単純性を使わない道もある。こちらは を直接扱う。
補題として、 がすべての 3-サイクルを含み、 で が可換なら、 もすべての 3-サイクルを含む。
証明は交換子の計算だけである。3-サイクル を任意に取り、 を使って残りから を選ぶ。置換は右から順に作用させる約束にすると、次が成り立つ。
が可換なら交換子はすべて に入るので、 である。
これを可解列 に順に当てはめる。 は 3-サイクルを全部含むので、帰納的に も全部含むことになる。
これは矛盾である。よって のとき に可解列は存在しない。
ガロア拡大とガロア群
体の側の道具を整理する。有限次拡大 に対し、 の自己同型で の元をすべて固定するもの全体は群をなす。これを と書く。
固定するのは下の体 のほうである。 全体は動く。
つねに が成り立つ。等号が成立するとき をガロア拡大といい、この群を と書く。
同値な条件は、 が正規かつ分離的であることである。標数 0 では分離性は自動なので、実質的な条件は正規性、すなわち 上既約な多項式が に根を 1 つ持てば全部持つことである。
が重根を持たないとき、その分解体 は 上ガロア拡大になる。この を のガロア群という。
は の根を根に写す。 は根で生成されるので、根への作用が自明なら は恒等写像である。
つまり作用は忠実で、ガロア群は根の置換群 の部分群と見なせる。 が既約であることと、この作用が推移的であることは同値である。
ガロア対応
をガロア拡大、 とする。基本定理は、中間体と部分群の対応を述べる。
を満たす中間体 の全体と、 の部分群の全体のあいだに、包含を反転する全単射がある。対応は と で与えられる。
ここで は の元がすべて固定する の元全体である。次数と指数も対応する。
この記事で本当に必要なのは最後の一行である。 がガロア拡大であることと が の正規部分群であることが同値で、そのとき次が成り立つ。
群の正規列と体の塔がこれで結びつく。可解群の話が方程式の話になる接点はここ 1 点である。
円分拡大は可換
証明の途中で 1 の冪根を勝手に添加する。その操作が害にならない理由を確かめておく。
を 1 の原始 乗根とすると、 は の分解体なので 上ガロア拡大である。
は を 1 の原始 乗根に写すので、、 と書ける。
合成すると指数は掛け算になるので、 は準同型である。 は での値で決まるから単射でもある。
したがってガロア群は の部分群と同型で、とくに可換である。可換群は可解なので、円分拡大を足しても可解性の議論は壊れない。
べき根拡大の落とし穴
で となるとき、 をべき根拡大という。ここに落とし穴がある。
べき根拡大はガロア拡大とはかぎらない。、 の場合を見ればよい。
は実数体の部分体なので、 の残り 2 根である複素数を含まない。正規でないのでガロアでもない。
実際 は単位群だけで、位数 1 は に一致しない。
「べき根拡大のガロア群は可換」という言いかたはこの点で不正確である。1 の原始 乗根を下の体が含む、という仮定が要る。
1 の冪根があれば巡回拡大になる
が 1 の原始 乗根 を含むとする。 を 0 でない元、、 とおく。
このとき はガロア拡大で、 は位数が を割る巡回群である。
の根は で、 だからすべて に属する。 より重根はない。よって は分解体でガロア拡大である。
を取ると も の根なので、 は 1 の 乗根である。そこで写像 を考える。
は の元なので で固定される。これを使って合成を計算する。
行き先の 1 の 乗根全体 は可換なので、 は準同型である。
なら で、 だから は恒等写像である。つまり は単射である。
は位数 の巡回群だから、その部分群も巡回群である。よって は位数が を割る巡回群になる。
逆にラグランジュの分解式で作る
上の逆も成り立つ。 が 1 の原始 乗根 を含み、 が位数 の巡回ガロア拡大とする。
このとき で かつ となるものが存在する。作り方が具体的なのがこの命題の値打ちである。
を の生成元とする。 に対し、ラグランジュの分解式を次で定める。
を施すと添字が 1 つずれる。 は恒等写像で だから、最後の項が先頭に回り込む。
デデキントによる指標の一次独立性から、 となる を選べる。相異なる自己同型は 上の指標として一次独立だからである。
すると なので は で固定され、生成元で固定される以上 である。
さらに は の相異なる共役なので となる。 と合わせて を得る。
べき根で解けるとは何か
定義を正確に置く。 の分解体を とする。 がべき根で解けるとは、次のような体の塔が存在することをいう。
各段が 、 の形をしており、 を満たす、という条件である。
最後の条件は であって、等号ではない点に注意する。塔は分解体より大きくてよい。
ルフィニの 1799 年の議論はここを埋めておらず、分解体が塔の中に現れることを示していなかった。
塔が分解体ちょうどで止まると要求すると、条件が強すぎて定理が成り立たなくなる。実際、 を添加した体は分解体ではない。
べき根で解けるならガロア群は可解
塔をガロア拡大に直し、1 の冪根を先に入れてから、各段を巡回拡大にする。この 3 段構えで示す。
まず の 上のガロア閉包 を取る。 上の共役はべき根の塔をべき根の塔に写すので、それらの合成である もべき根の塔で到達できる。
次に塔に現れる の最小公倍数を とし、 を全体に添加する。、、 とおく。
は円分拡大なのでガロアかつ可換である。各段 は 1 の冪根を含む体の上のべき根拡大なので、前々節から巡回拡大になる。
はガロア拡大で、群の側に部分群の列が現れる。
ガロア対応から各段は隣の正規部分群で、剰余群は すなわち巡回群である。いちばん外側の剰余群は で可換である。
よって は可解である。 で はガロアだから、 はこの群の剰余群になる。
可解群の剰余群は可解なので、 は可解である。
ガロア群が可解ならべき根で解ける
逆を示す。 を可解とし、 とおいて を添加する。
、 とする。制限写像 は単射である。 は と の合成体なので、 上の作用で自己同型が決まるからである。
したがって は の部分群と同型で、可解群の部分群として可解である。
有限可解群は、剰余群がすべて素数位数の巡回群になるように細分できる。可換な剰余群を組成列で刻めばよい。
この細分にガロア対応を当てると、体の塔 が得られ、各段は素数次 の巡回拡大になる。
は を割るので は に入っている。ラグランジュの分解式の命題から 、 と書ける。
出発点の も だからべき根の添加である。全体でべき根の塔ができ、 なので はべき根で解ける。
標数 p での注意
以上の議論は標数 0 を前提にした。標数 では同値が崩れる。
位数 の巡回拡大はべき根では作れない。 は と分解してしまい、分離拡大を生まないからである。
代わりに現れるのがアルティン–シュライアー拡大で、 の根を添加する形をとる。加法的なクンマー理論とでも呼ぶべきものになる。
したがって「べき根で解けることとガロア群が可解であることは同値」という主張には、標数 0、あるいは標数 でも群の位数が と互いに素、という仮定が必要である。
一般 n 次方程式のガロア群
一般方程式を正確に定義しないと、アーベル–ルフィニの定理は述べられない。係数を独立な変数と見るのが要点である。
を独立な変数とし、 とおく。基本対称式を とし、 とする。
一般 次方程式とは次の のことである。係数が独立変数で、根が になっている。
は を置換することで に作用し、対称式である を動かさないので を各点固定する。相異なる置換は に相異なる作用を与えるので、 が得られる。
一方 は 上の 次多項式 の分解体なので である。
つねに だったから、 となり、すべて等号である。
等号が成立するので はガロア拡大で、 が従う。一般 次方程式のガロア群は である。
アーベル–ルフィニの定理
のとき は可解でなかった。ガロアの定理から、一般 次方程式はべき根で解けない。
では が可解なので解の公式が存在する。 の 3 段の可解列が、フェラーリの解法で分解方程式が 3 次式になることに対応している。
歴史の上では、ルフィニが 1799 年に不可能性を主張したが、証明には穴があった。解が塔の中のべき根の式で書けることを仮定してしまい、分解体が塔に含まれることを示していなかった。
アーベルが 1824 年にこの穴を埋め、最初の完全な証明を与えた。ガロアはさらに進んで、個々の方程式について可解性を判定する枠組みを作った。
解けない具体的な 5 次方程式
一般 5 次が解けないことと、係数が具体的な有理数の 5 次が解けないことは別の主張である。後者の例を作る。
とおく。素数 2 についてアイゼンシュタインの判定法が使える。 は と を割り、 は を割らないからである。よって は 上既約である。
実根の個数を数える。 の零点は である。
で正、 で負になる。極大値が正で極小値が負だから、実根はちょうど 3 個で、残る 2 根は互いに共役な複素数である。
を のガロア群とし、5 個の根への作用で の部分群と見る。既約性から作用は推移的なので、軌道の大きさ 5 が を割る。
コーシーの定理から位数 5 の元があり、 の中でそれは 5-サイクルである。
複素共役は分解体を自分自身に写し、3 個の実根を固定して 2 個の非実根を入れ替える。つまり は互換を含む。
次節の補題から となる。 は可解でないので、 はべき根で解けない。
p-サイクルと互換は Sp を生成する
補題を証明する。 を素数、 が推移的で互換を 1 つ含むなら である。
推移性から が を割るので、コーシーの定理により位数 の元 が存在する。 は素数だから は -サイクルである。
含まれる互換を とする。 は を に写す冪 を持ち、 が素数なので も -サイクルである。
番号を付け替えて 、互換を としてよい。共役を繰り返すと隣接互換が次々に出る。
隣接互換 は を生成するので である。
素数であることは本質的に効いている。 の中の は位数 8 の二面体群で、推移的かつ互換を含むが とは一致しない。
解ける具体的な 5 次方程式
同じ 5 次でも、べき根で解けるものがある。 を見る。
アイゼンシュタインの判定法(素数 2)から既約である。根は ()で、分解体は になる。
と は互いに素なので である。
は と ()で決まる。根の添字で見ると というアフィン変換である。
したがってガロア群は位数 20 のフロベニウス群で、 を正規部分群に持ち、商が になる。
どちらも可換なので可解である。よって はべき根で解ける。実際 と だけで根が書けている。
。既約で実根が 3 個。ガロア群は で位数 120。
。既約で実根が 1 個。ガロア群は位数 20 のフロベニウス群。
5 次方程式が一律に解けないのではない。解けるものと解けないものがあり、その境目をガロア群が引いている。
実べき根に限ると話が変わる
「べき根で解ける」は複素数の範囲での話である。実数の中のべき根だけを許すと、様子が変わる。
既約な 3 次式 が 3 つの実根を持つとする。判別式が正である場合にあたる。このとき の根は実べき根だけでは書けない。
カルダノの公式を当てると平方根の中身が負になり、複素数の立方根を経由せざるを得ない。答えは実数なのに、途中で虚数が要る。
これを還元不能の場合という。ヴァンツェルが 1843 年に証明した。
例として を取る。判別式は で正なので 3 実根を持つ。
有理根の候補 はどちらも根でないので既約である。根は 、、 になる。
を代入すると に化けることから確かめられる。三角関数では書けても、実べき根では書けない。
定規とコンパスによる作図
同じ枠組みで作図問題が扱える。定規とコンパスで作れる点の座標は、 から始めて 2 次拡大を有限回繰り返した体に入る。
直線と円の交点を求める操作が、高々 2 次方程式を解くことに対応するからである。よって が作図可能なら は 2 の冪である。
角の三等分は不可能である。 から を作るには が要るが、これは の根で、有理根を持たないので既約であり、次数は 3 になる。
立方体の倍積も同じ理由で不可能である。 の次数は 3 で、2 の冪ではない。
ここで注意が要る。次数が 2 の冪であることは必要条件にすぎず、十分条件ではない。
正確には、 の最小多項式の分解体の次数が 2 の冪であること、言い換えるとガロア群が 2 群であることが必要十分である。
反例もすぐ作れる。 は 上既約でガロア群が になる。根の次数は 4 で 2 の冪だが、位数 24 は 2 の冪でないので作図できない。











非可換な単純群では、交換子群が自明でない正規部分群になれず全体と一致します。S5 には A5 という正規部分群があり、位数 60 は素数でもありません。