モンスターと j 関数の係数が一致する、散在型単純群とムーンシャイン
有限単純群のうち、無限に続く系列のどれにも乗らないものが 26 個あります。散在型と呼ばれる群です[4]。
26 という数に理由は付いていません。分類が終わったいまも、なぜそこで止まるのかは説明されていない[2]。
3 世代と 6 つのはぐれ者
26 個は無秩序に散らばっているわけではありません。20 個が互いに強く関係し、6 個だけが外に残ります[2]。
関係する 20 個は Griess の言い方で Happy Family と呼ばれ、3 つの世代に分かれます。第 1 世代が の部分商 5 個、第 2 世代が の部分商 7 個、第 3 世代が Monster の部分商 8 個[2]。
残る 6 個は Monster の中に現れません。、、、、、 の 6 つで、pariah と呼ばれています[2]。

第 1 世代は 1860 年代に来た
Mathieu が 、、、、 を見つけたのは 1860 年代と 70 年代です[3]。分類という発想が生まれる前の話でした。
この 5 つが特別なのは、可移性の高さです。 は 12 点の上で、 は 24 点の上で 5 重可移に働きます。任意の 5 点の組を、任意の 5 点の組へ移す元がある。
対称群と交代群を除くと、4 重可移や 5 重可移な群は 1873 年以降ひとつも見つかっていません[2]。6 重可移以上に至っては、 と しかないと定理になっています[2]。
長いあいだ、Mathieu 群は「もっと高い可移性を持つ群の系列」の入口だと思われていました[2]。入口ではなく、行き止まりだった。
は Golay 符号の自己同型群としても現れます[2]。 の中の部分空間で、誤り訂正符号として使われるものです。24 点上の Steiner 系とも結びつく。
同じ群が、可移置換群としても符号としてもブロックデザインとしても出てくる。散在型が「余り」でありながら中身が濃いのは、こうした一致が起きるためです。
24 という数
第 2 世代の入口は Leech 格子です[2]。24 次元の格子で、その自己同型群から Conway の 3 つの群が出ます。
第 1 世代の も、Leech 格子の 24 も、同じ数を指しています。理由はいまも十分に説明されていません[2]。
第 2 世代には Conway の 、、 に加えて、McLaughlin 群、Higman-Sims 群、Suzuki の散在型、 が入ります[2]。
Golay 符号の対称性から M24 が出る
Golay 符号から Leech 格子を組む
Leech 格子の対称性から Conway 群が出る
符号から格子へ、格子から群へ。第 1 世代と第 2 世代は、この 1 本の道でつながっています。
Monster
第 3 世代の中心が Monster です。存在は 1973 年に Fischer と Griess が予想し、1980 年に Griess が構成しました[1]。
位数の素因数分解はこうなります[4]。
に近い大きさです[2]。 までのすべての素数が現れるわけではなく、 や や や や は入りません。
Griess の構成は、196883 次元の可換だが非結合的な代数を作り、その自己同型群として Monster を得る形でした[1]。この代数はいま Griess 代数と呼ばれています。
| 存在の予想 | 1973 年、Fischer と Griess |
| 構成 | 1980 年、Griess |
| 最小の非自明な既約表現 | 196883 次元 |
| その次の既約表現 | 21296876 次元 |
| さらに次 | 842609326 次元 |
| Griess 代数の次元 | 196883 |
Griess 自身の構成はやや人工的でした[1]。いまは、無限次元の次数つき代数の最初の非自明な段として理解されています。
Monster には Coxeter 群からの短い表示もあります[1]。非巡回の有限単純群は対合で生成されるので、Coxeter 群の準同型像になる。3 本の腕を持つ図形 から、Monster と位数 2 の群の組み合わせが出てきます。

数字が合ってしまう
1978 年ごろ、McKay が保型関数の展開係数に見覚えのある数を見つけます。楕円モジュラー関数の 展開は次の形です[1]。
という係数と、Monster の最小の非自明な既約表現の次元 が しか違いません[1]。
偶然かどうかは、次の係数で決まります。既約表現の次元は 、、、 と続く[1]。
3 つとも、既約表現の次元の非負整数係数の和にきれいに分かれます[1]。偶然では説明が付きません。
Conway と Norton がこの一致を予想の形にまとめ、monstrous moonshine と名づけました[1]。Monster の各元に保型関数を対応させ、それがすべて種数 の群の Hauptmodul になる、という主張です。
答えは Monster の作用する無限次元の次数つき代数にありました[1]。Moonshine 加群と呼ばれるもので、自己同型群が Monster、次数つき次元が になる。頂点作用素代数の構造を持ちます。
有限単純群の側から出てきた数と、上半平面のモジュラー関数の側から出てきた数が、同じ代数の 2 つの読み方だった。散在型がなぜ「余り」でありながら他と結びつくのかを、いちばん強く示した例です。
系列に乗らない 26 個のうち、いちばん大きいもの
無限次元の頂点作用素代数の自己同型群
はぐれ者たち
6 つの pariah は Monster の部分商になりません[2]。
は 1964 年の暮れに Janko が報告したもので、位数は です[3]。当時、正しいと広く思われていた主張を証明しようとして、反例になりそうな仮想の群を調べたところ、それが実在した、という経緯でした[3]。
Mathieu の 5 個から まで、およそ 90 年のあいだ新しい散在型はひとつも出ていません[3]。若い研究者が単純群を専攻したいと言うと、じきに全部知られてしまうから意味がない、と言われる時期だったといいます[3]。
のあと 10 年ほどで残りが出そろい、1980 年前後で止まりました。
pariah がなぜ外に残るのか。いまのところ、これも説明されていません[2]。
26 で止まる理由
散在型の一覧は、系列の公式ではなく、1 つずつ構成して 1 つずつ一意性を示した結果です。Monster の一意性が片づいたのは 1989 年でした[5]。
だから「なぜ 26 個か」という問いには、証明を全部読む以外の答えがありません。 の 24 と Leech 格子の 24 が同じ数であることにも、まだ理由が付いていない[2]。
分類定理は数え上げを終わらせました。数え上げの結果がなぜそうなるかは、別の問いとして残っています。
モンストラス・ムーンシャインについて正しいのはどれですか。
- モジュラー関数 の係数が、たまたま Monster の位数と一致した
- の係数が、Monster の既約表現の次元の和として書ける
- Monster が の係数の個数だけ共役類を持つ
26 という数は、証明の結論であって、理由ではない。数え終えたあとに残った問いのほうが、数え上げそのものより深いところにあります。











J の展開係数 196884、21493760、864299970 は、それぞれ 196883+1、21296876+196883+1、842609326+21296876+2⋅196883+2 と分かれます。この分解は、Monster が作用する無限次元の次数つき代数から出てきます。